【怖い話】 冷たかった 【「禍話」リライト番外編】
夏の初めに運動会をやる学校だった。
暖かい日だったので、みんな汗をかきながら走り、応援していた。
運動会のクライマックスといえばリレーである。各学年の足の速い生徒がこぞって参加するから、とても盛り上がる。
ぱぁん、と空砲が鳴って、リレーがはじまった。
みんな全力で走る。
ギャラリーも沸いていた。
ある生徒が懸命に走って、バトンを絶妙の流れで次の走者の男子生徒に渡した。
すると、
「うわっ!」
と叫んで、男子生徒はバトンを落としてしまった。
すぐさま拾ったので順位は下がらなかったものの、級友たちは文句を言った。
ビビったわ、どうなるかと思ったぜ。
なんでバトン落としたんだよ。
そうだよ。いい流れだったのにさぁ。
なんかビックリしてたけど、どうしたんだよ。
などと、口々に男子生徒を問い詰める。
友達に責められた彼は、首をかしげながらこう弁明した。
「変なこと言うけどさ……あのバトン、すっげぇ冷たかったんだよ」
痛い! ってなるくらい冷たくてさぁ。
それで落としちゃったんだよな。
でも拾い上げたら、全然冷たくなくて。
何だったんだろ、あの冷たさ……
運動会が終わって二ヶ月ほど経った。
学校は夏休みに入った。
その男子生徒は、海で溺れて亡くなったという。
【完】
☆本記事は、著作権フリーの怖い話ツイキャス「禍話」、
禍話インフィニティ 第四十四夜より、編集・再構成してお送りしました。
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