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【怖い話】 夜の小道の携帯 【「禍話」リライト71】

 夜道を酔っぱらって帰っていたそうである。
 通い慣れた大通りを行けばいいものを、酒というのはおそろしい。ふらっと横道に入ってしまった。
「アレ~ッ? 変なトコ入っちゃったな~。……まぁいいかぁ……」
 よろけながら見慣れぬ道を歩く。少し進めば知ってる所に出るだろ、と思っていた。


 ところが、これがまるで出られない。
 どんどん見知らぬ道、暗く狭い方へと行ってしまう。
「あ~、よくわかんない場所だなぁ~。……まぁいいかぁ、たまにはこういうのも……」
 酔いから来る変な面白さもあいまって、深夜の隘路をのろのろと歩んでいった。


 ついには、薄汚れた路地裏に到着してしまった。
 1メートルちょっとの幅しかない。
 左には酒場らしき壁や裏口がぞろぞろ立ち並んでいる。
 右手にはコンクリートの壁、その上には金網が続いている。駐車場か何からしい。
 街の隙間のような小道だった。
 どこかからの光が、うすぼんやりと小道を照らしている。
「……いや、さすがにこれはちょっと、よくないかな…………?」
 どうやらおふざけが過ぎたらしい。ここを抜けたら大通りを目指そう……と反省しながら、その薄暗い道を探るように進んだ。


 しばらく行くと、道の真ん中にぽつん、と、何かが落ちていた。
 古い携帯電話だった。
 スマホのように平たくもないし、折り畳み式ですらない。リモコンか木材の切れ端のような、ひどく古い携帯電話だ。もう誰も持っていないくらい古い型の…………


 はて。こんな道にどうしてこんなケータイが……
 不思議に思いながら近づいていくと、




 ピリピリピリピリピリッ




 耳を刺すような電子音が鳴り響いた。
 わっ、と飛び上がりそうになった。
 見れば液晶が緑色に光っている。振動して地面とこすれ合って、カリカリと音を立てている。
 あの古い携帯電話が鳴っているのだ。


 うわっ、何だこれ……怖ぁ…………
 とは言え、来た道を引き返せばまた迷ってしまう。進むしかない。
 

 ピリピリピリピリピリッ 


 携帯電話は緑に光ったまま、ずっと鳴り続けている。
 飛びかかってくるでもないのに距離をとり、酒場の裏を背にして、携帯電話の脇を通ろうとした。




「とらないんですか」




 いきなり上から声をかけられた。
「えっ」と見上げた。
 コンクリートの壁の上、金網の向こうに、人がぬっと立っていた。
 暗くて顔はわからないが、初老の男のようだった。
 こっちを見ている。



「とらないんですか」



 携帯電話はまだピリピリと断続的に鳴っている。


「と……取りませんよ!」
 思わず答えていた。
「こんな、よくわかんない携帯……出るわけないでしょ!」


 男はその答えを聞いてから、抑揚のない声でゆっくりと、こう言ってきた。



「でも、あなたが通りかかった時に、その携帯電話が、鳴ったということは、
 それは、あなたのために、かかってきた電話かもしれないでしょう。


 じゃあ今そっちに行きますから」






 男の姿が金網の向こうから消えたと同時に、全速力で逃げ出した。

 その小道を抜けてさらに走ると、幸いなことに車の通る大きな道に出ることができた。
 後ろを振り向いたが、誰も追ってはこなかった。




 たぶんあのケータイねぇ、あの男が自分でかけて鳴らしてたんじゃないかなぁ……、とその人は言う。

 道から出て遠くに逃げるまで、「ピリピリ」いうあの呼び出し音は鳴り続いていたそうである。









【完】






☆本記事は、無料&著作権フリーの怖い話ツイキャス「禍話」
 真・禍話/激闘編 第7夜 より、編集・再構成してお送りしました。


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全世界待望!! 語り手かぁなっきさんの後輩にして、「祭り覗き」「こそこそ岩」「火星のいた小屋」「草舟屋敷」などで
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