【怖い話】携帯動画【「禍話」リライト36】
九州の、ある大学の、あるサークル。
そこには十数年前から、「怖い動画」が伝わっているらしい。
いわゆるガラケーで撮影された動画であるという。
昔の携帯電話なので画質はよくなく、せいぜいが5分ほどの長さしかないそうだ。
画像は荒くて5分しかないのに、長く伝わっている。そんな怖い動画なら、是非観てみたい。
というわけで、観せてもらった。
「当時の先輩たちが何人かで、夜中に酒を飲んだ勢いで、廃墟に探検に行ったときの動画なんだけどさ……」
サークルの現行の部員が、嫌そうな顔つきで再生ボタンを押した。
……………………………………
廃墟が映し出されたと同時に、「イェ~~~イッ!!」というはしゃぎ声がする。
画像が荒いので、どこのどんな廃墟なのかは判然としない。
画面の真ん中に、茶髪でちょっとヤンキーっぽい男がいる。
動画は既に、廃墟の中から始まっている。
ヤンキーっぽい彼はやたらとテンションが高い。「よっしゃァ~~~!!」などと声を張り上げながら廃墟の中にどんどん踏み込んでいく。
あまりに躊躇なく進むので周囲の人間やカメラマンが、「タカちゃん落ち着きなよ~!!」とたしなめている声が響く。
タカちゃんと呼ばれたその男はかまわず通路を歩み、どんどん部屋に突入する。
「ここ入れるんじゃね!?」
そう叫びながらドアを思いきり開ける。
「うわっなんか!! グチャグチャじゃん!! やべーな!! ……あっ窓あるじゃん! 窓!! ウオォーッ!!」
そう言いながら錆びついた窓を開けようとしてガタガタ揺らす。他の奴らが「やめなよォ~!」とそれを止める。
「ここの壁、崩れそうじゃね!?」
そう言って壁を思いきり蹴ったりする。
「やめなよタカちゃ~ん! ヤバいって~!!」
カメラマンがちょっと笑いながらも彼をたしなめる。
他のメンバーは比較的静かに廃墟の中を巡るばかりな一方、タカちゃんだけはずっと活動的で、ほとんど廃墟荒らしのような乱暴な振る舞いを続けている。
映像は終始、暴れるタカちゃんを中心に撮られている。まるで彼が主役の動画のようだ。
そのうちに5分経って、動画はプツン、と終わった。
……………………………………
…………幽霊らしいモノも見えなかったし、人の声のようなものも聞こえなかったのだが…………
これ、どこが「怖い動画」なの? と部員に尋ねてみた。
「自分には、オバケらしい姿も声も確認できなかったんだけど……」
「うん…………」
「見落としたのかな? スローにしたり、逆再生にしたりするとわかる?」
「いや…………」
「……あ~、わかった。これを撮った人とか、映ってた人が、なんか祟られたりしたんでしょ? それで『呪いのビデオ』みたいな伝説が……」
「いや全然……そういうんじゃないんだよね…………」
変なものも映っていないし、聞こえないし、祟りも起きていない。
こんな普通の廃墟探検ビデオの、どこが怖いのだろうか?
「じゃあ、一体コレのどこが怖いの?」
ストレートに聞いてみた。
部員の人はうぅん、と少しだけ口ごもってから言った。
「……あのさ、茶髪の、ヤンキーみたいな人が映ってたでしょ?」
「あぁ、あのみんなにタカちゃんって呼ばれてた? いちばん目立ってた先輩ね」
「先輩たちが言うにはさ、あんな奴、サークルにはいないらしいんだよ」
「……え?」
「誰も知らないし、見たこともない奴なんだよ。あの男」
「…………でもほら、飲み屋で知り合ったとか、廃墟で出会って意気投合したとか」
「違う」
首を強く横に振る。
「これを撮った人も、一緒に映ってた人も、こいつのこと、誰も覚えてないらしいんだよ」
「………………」
「廃墟に行ったことも、携帯で撮影したことも、それなりに怖かったことも思い出せるのに、こいつのことだけがわからないんだ」
「………………」
「おかしいだろ? 多少酒が入ってたからって、誰も覚えてないなんて。
しかも先輩たち、こいつのこと『タカちゃん』って名前で呼んでるんだぞ。
そのくらい仲がいいか、仲良くなった相手のことがさ、まるっきり記憶にないわけないだろ?」
「…………じゃあこの人って、なんなの?」
部員さんはまた首を横に降った。
「わからないんだよ」
5分足らずの動画に残っているこの男は、一体誰なのか。
それは今もって不明である。
【完】
☆本記事は、無料&著作権フリーのツイキャス「禍話」、
真・禍話/激闘編 第3夜 より、編集・再構成してお送りしました。
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