【怖い話】 あふれる 【「禍話」リライト 34】
この「禍話リライト」の元となっている怖い話ツイキャス「禍話」には、時折、ジィルさんという方の話が出てくる。
ジィルさんは「禍話」の語り手のかぁなっきさんの大学の先輩にあたる。
この人、他の部屋より2万円くらい安い、いわゆる事故物件に住んでいる。剛の者である。
「事故物件つっても、そんなオバケが出るわけじゃないんでしょ?」と思われる読者もおいでだろう。
メッチャ出る。
女の霊が、時を選ばずしてぬっと出てきてジィルさんを驚かす。横に立たれたり後ろから触られたりするそうだ。メッチャ出るのである。「禍話」のアーカイブにも、体験談がいくつも収録されている。
あまりに頻繁に出現する時は、こわいので車で寝たりしているそうだ。それじゃあ部屋を借りている意味が……と突っ込んではいけない。
ただ最近はさすがに慣れてしまい、ちょっとやそっとの出方ではビビらなくなった。
部屋にいただの、変な声がしただの、そんなことじゃあもうたいして怖くない。
近頃の体験を話す際も「いやぁ~長い髪の毛がさぁ」「いきなり背中触られちゃって」くらいのテンションで、そこそこ慣れっこになっていた。
もちろん何事か起きても、いちいちネットで報告したりしない。
ところがある日、こうなった。
オバケに慣れっこになっている彼が部屋を飛び出した、というのだ。これは尋常なことではない。
以下は、この時の体験である。
部屋でゆっくりしようと思ったらしい。
炊飯器のスイッチを入れて米を炊き、ご飯ができる前に風呂に入ってあたたまろうとした。なおこの風呂も、部分的にものすごく不自然なリフォームがされているそうだ。それはさておき……
お湯がたまったので服を脱ぎ、ゆったりと浴槽に入った。
疲れた体に熱湯が染み入るように効く。浴槽からザーッとあふれていくお湯も景気がよくて気分が上向く。
いやぁ……やっぱり風呂はいいなぁ…………
ジィルさんは肩まで浸かって身動きもせず、しばらくボーッと心地よさに浸っていた。
と。
お湯が、あふれはじめたという。
今までヒタヒタ、いっぱいになっていた浴槽から、お湯も足していないし自分はぴくりとも動いていないのに、どんどん流れていく。
え? え? なになに?
動揺していると不意に流出が止まった。
ちょうど、人ひとりが入った分くらいの量が流れ出した後だった。
つまり。
目に見えない誰かが、自分と一緒にこの浴槽に入っている。
「おおっ! ちょっとォ!?」
くつろぐどころではない。ジィルさんは急いで風呂から上がって浴室から出た。
えぇ……? そんなのあり……? いやこれ、幻覚? 夢かなにか??
このまま部屋にいると湯冷めしてしまうので、おそるおそる浴室に戻った。
浴槽には、目減りしたお湯が残っている。誰かが入っているとか赤く染まっているとか、そんなわかりやすく恐ろしい事態は起きていない。
及び腰ながら、先程とは違う意味でゆっくりと、風呂に浸かり直した。
お湯は浴槽いっぱいにならなかった。
人ひとり分くらい、水量が減っている。
………………………………。
これはダメだ。
風呂から上がって身体を拭いて服を着て取り急ぎ部屋を出た。その直後に、上のツイートをしたそうである。
「いや参ったよ……炊いてたご飯が放置されちゃうことになるからさぁ、カピカピに黄色くなっちゃうよね……」
ジィルさんはそう言ったそうだ。
ご飯どころではないと思うのだが…………。
「今までいろんな出方で現れてたけどさぁ、見えない姿のまま風呂に一緒に入られるのはちょっと、マジで勘弁してほしかったわ……。これじゃあ2、3日ぐらいは部屋に帰れないよ…………」
ジィルさんはそう話を結んだのだった。
(……2、3日帰らないだけで大丈夫なのか……)
かぁなっきさんはそう感じたそうである。
やはり、剛の者ということなのだろうか。
皆さんも、事故物件に住むときは、気を引き締めていきましょう。
【完】
☆本記事は、無料&著作権フリーの怖い話ツイキャス「禍話」、
ザ・禍話 第四夜 より、編集・再構成してお送りしました。
☆☆☆ 「禍話ってなに?」「どこで聴けるの?」そんな疑問に答えてくれる【禍話wiki】、ぜひ読んでね!!
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