欲望の螺旋:ジャニーズの星芒(中編)

10月2日のジャニーズ会見vol.2を前にした私的論点まとめ

前編では、《論点① 「ジャニーズ問題」とはなにか?》と《論点② 「暗黙のカルテル=利益共同体」について》書きました。
今回は私的論点③と④です。
④をきっちり読んでくれる人なんてきっと皆無でしょうね。
時間ばかりかかって、とても面倒な文章になってしまいました。
時間を持て余している方だけどうぞ。

論点③
ジャニーズ事務所の収益構造

現在、ジャニーズタレントのCMやテレビ番組、映画出演などが相次いでキャンセルになりはじめているという報道がなされています。
中でもCMについては、全スポンサー企業の3割ほどが見直しを発表・検討しているという報道もあり、ジャニーズ事務所にとっても、タレントにとっても大きな痛手ではないかと思われます。
そもそも、ジャニーズ事務所の収益構造はどうなっているのでしょう?

思いつく主なものをランダムに並べると以下のようになるでしょうか?
◉イベント(コンサート等)
◉ファンクラブ会費
◉商品売上(グッズ・写真集等)
◉音楽方面(CD等)
◉映像方面(DVD・動画に付随する広告収入等)
◉広告出演料
◉番組・映画・雑誌等出演料
◉権利関係(印税・版権・二次使用料等)

(※未確認です)

中でも金額が大きいのはコンサート収入やファンクラブ会費、そして広告出演料でしょうか?
ファンクラブ会費や広告出演料は経費がそれほどかからないため、収益の割合は大きいと思われます。

タレント側からみた目安となるものが講談社の現代ビジネスに掲載されています。

単発のテレビ音楽番組出演料は驚くほど安く、ほとんど顔と名前を売るための(もしくは維持するための)宣伝活動と考えていいと思います。
これはジャニーズ事務所に限ったことではありませんが、日本の芸能界のビジネスモデルは、出演料の高いごく一部の大御所を除くと、安い出演料のテレビや雑誌などの媒体で顔と名前を売り、広告出演料で稼ぐというのがほとんどです。
そういう意味では、CMがキャンセルになることでジャニーズ事務所に大きな影響をもたらすのは間違いないのですが、ジャニーズはファンクラブ会員数が多く、CMが減っても大きな痛手にはならないと報じるメディアもあります。
確かに短期的にみればそうでしょう。
しかし、それが長期にわたると露出頻度とイメージに変化が起き、それは加速していきます。
もちろんいずれもマイナス方向へ。

私がスポンサー商品の不買を呼びかけたとき(今でもたまにありますが)、そんなことをしたら何の罪もないタレントを苦しめるだけだといった非難の声が、主にジャニーズファンから浴びせられました。
それについては、4月に当サイトを開設した際に私はこう記しました。

■タレントが不利益をこうむるだけでは?

確かにCMが減れば一時的にはそうなるでしょう。
しかし、このまま何もしないでいるとジャニーズ事務所は社会からの信頼を完全に失い、それにつれてタレントのイメージもどんどん低下していきます。
そうするとジャニーズ事務所のタレントだということが大きなデメリットになって仕事がどんどん減っていくのは間違いありません。
それと同時にテレビ出演や雑誌などの露出も減っていくでしょう。
本来であれば、そうなる前に事務所は適切な手を打たなければなりません。
しかし、自らそれができないのであれば、タレントを救うためにも消費者の私たちがスポンサーを動かし、ジャニーズ事務所を動かすしか方法はないのではないでしょうか。
広く捉えれば、利益は社会が生み出すものですから、誰か個人の一時的利益より社会の利益を優先させなければ、結局は個人の利益も失ってしまうことになります。

まさに、4月に書いたことが5カ月後の今はじまっているのです。
ジャニーズ事務所を中心とした「暗黙のカルテル=利益共同体」(前編参照)には、3月のBBCドキュメンタリー放送・配信以降、いくらでもやりようがあったはずなのですが、ただ手をこまねいていただけのように見えます。

ジャニーズ事務所は9月13日付で「故ジャニー喜多川による性加害問題に関する被害補償及び再発防止策について」という一文を公式サイトにリリースしました。

その告知文章の最後の方に「今後1年間、広告出演並びに番組出演等で頂く出演料は全てタレント本人に支払い、芸能プロダクションとしての報酬は頂きません」という謎の一文が書かれています。
被害補償及び再発防止策について知らせる文章になぜそのような文言を入れ込んだのか私には理解ができないのですが、これは被害者や世間に向けたものではなく、スポンサーやメディア等のステークホルダーに向けた所属タレントの引き留め策なのだと考えています。
裏を返せば、それほどの事態になっているということでもあるのでしょう。

CMの新規契約を結ばないとしているスポンサー企業でも、「適切な対策が確認できるまで」といった但し書きをしているところがありますし、メディア企業にもそうしたところがあります。
それならば、10月2日にジャニーズ事務所が発表するであろう、新体制を含めた今後の方針を確認するだけでなく、遅滞なくそれが適切に行われるかどうかを、ジャニーズ事務所がタレントのギャランティから手数料を得ないと言っている最低一年間は確認・注視する期間を設けるべきでしょう。
これまでのジャニーズ事務所のあり方・やり方を思えば、誠実・真摯といった姿勢からは程遠いため、確認期間はもっと長くてもいいかも知れません。
少なくとも、ジャニーズ事務所が発表したからそれでOKとはならないはずです。

論点④
ジャニーズ・スポンサー企業と国連指導原則・人権DD

ジャニーズ問題を追いかけてきた人の多くが、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」や「人権デュー・ディリジェンス(人権DD)」という、これまでまったく目や耳にしたことのない言葉に面食らったことでしょう。
かくいう私もそのひとりなのですが、難しくならないよう、なるべく簡単に触れておきたいと思います。
私は専門家ではありませんので、全体に対しての理解不足や解釈違いが多々あるかと思うのですが、問題にしている一点についてのみ書きます。

国連「ビジネスと人権に関する指導原則」

この指導原則には16の序文があり、次の3つの柱からなる31項目の原則が解説と共に書かれています。
◉人権を保護する国家の義務
◉人権を尊重する企業の責任
◉救済へのアクセス

さらに企業の責任については次のことを求めています。
◉人権方針の策定
◉人権デュー・ディリジェンスの実施
◉救済メカニズムの構築
人権DDはこの原則の17~21に該当します。

メディアでこの指導原則が引き合いに出される際には、専門家の解説として「取引企業が取引停止をするのは最終手段」といったことも目や耳にしたことと思います。
つまり、ジャニーズ事務所の取引先(主にCMスポンサー企業とメディア企業)は直ちにジャニーズ事務所と取引停止するのではなく、改善のための条件を付けて、それが履行されない場合の最終手段として取引停止をしなさい、と。
私にはそれがどうしても納得できません。
X(まだこの名称に慣れません)で納得できない理由を細かく何度も書いてきましたので、こちらでそれを繰り返す気にはならないのですが、実は国連指導原則にはそんなことは書かれていません。
それが書かれているのは日本政府が設置した連絡会議作成のガイドラインの方です。

責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン
ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議

22ページに取引停止について書かれた項目があり、そこにはこう書かれています。

取引停止は、自社と人権への負の影響との関連性を解消するものの、負の影響それ自 体を解消するものではなく、むしろ、負の影響への注視の目が行き届きにくくなった り、取引停止に伴い相手企業の経営状況が悪化して従業員の雇用が失われる可能性が あったりするなど、人権への負の影響がさらに深刻になる可能性もある。 このため、人権への負の影響が生じている又は生じ得る場合、直ちにビジネス上の関 係を停止するのではなく、まずは、サプライヤー等との関係を維持しながら負の影響を 防止・軽減するよう努めるべきである。したがって、取引停止は、最後の手段として検 討され、適切と考えられる場合に限って実施されるべきである。

国連の31項目の原則の前には一般原則があり、そこにはこうあります。

この指導原則は、すべての国家とすべての企業に適用される。すべての企業とは、その規模、業種、拠点、所有形態及び組織構成に関わらず、多国籍企業、及びその他の企業を含む。

こうしてみると、ジャニーズ問題にも厳格に適用されるべきだと思ってしまうのですが、先に書きました通り、原則の前には16の序文があり、その15にはこう書かれています。

同時に、指導原則は、棚から取り出しすぐに使えるツール・キットとして考えられてはいない。原則自体は普遍的に適用可能であるが、それを実現する手段は、192の国際連合加盟国、80,000の多国籍企業とその10倍の子会社、またそのほとんどが中小企業である数え切れない何百万という現地企業がある世界にわれわれが住んでいるという現実を反映するものになろう。したがって、実施のための手段ということになれば、一つのひな型がすべてに適合するというわけにはいかないのである。

そうなんです。
日本政府のガイドラインに書かれている「取引停止は最終手段」という部分はジャニーズ問題には適合しないと私は考えているのです。
人権DDは、人権への影響を特定し、予防し、軽減し、どのように対処するかについて説明するため、人権への悪影響の評価、調査結果への対処、対応の追跡調査、対処方法に関する情報発信を実施するものです。

直ちに取引停止する・しないで、人権に対するどのような負の影響(悪影響)が考えられるでしょう?
停止した場合、ジャニーズ事務所のタレントや従業員が職を失い、新たな人権侵害が起こるという専門家がいます(それはガイドラインに書かれていることです)。
はたしてそれは正しいでしょうか?
タレントには移籍や独立の道がありますし、従業員も転職すればいいだけの話ではありませんか?
それはごく普通の社会活動ですよね?
それに、政府ガイドラインでも取引停止を禁止しているわけではなく、最終手段としてなら停止するのもやむをえない旨が書かれてあります。
人権侵害が起こるのがわかっているのならば、直ちにでも最終的にでも、停止するべきではないのではないでしょうか?
また、停止してしまうと負の影響への注視の目が行き届きにくくなったり、影響力を行使できなくなるという専門家もいます。
それならば、直ちに停止する際、取引再開の条件をつけ、取引中と同様の注視できる状況にすればよいのではないでしょうか。
実際にそう提言している専門家もいます。

私が直ちに取引停止することにこだわるのは、取引を継続することで負の影響が生まれ続けると思うからです。
前編の《論点②「暗黙のカルテル=利益共同体」について》で書きましたように、芸能人にとって一番重要なことは露出することです。
露出を増やし、歌やしゃべりなどを通じて顔と名前を売り、世間の人々に広く知ってもらうことです。
「知られること」が最重要。それが仕事なのです。
ジャニーズ事務所と取引を継続するということは、今までと変わることなくタレントを露出させるということであり、それはそのままジャニーズを肯定的に世間にアピールすることになります。今までがそうであったように。
そうしてその対価を得ます。
つまり、問題のある企業(ジャニーズ事務所)に資金が提供され続けるわけです。

また、ジャニーズのタレントの露出は被害者のトラウマを刺激することにもつながります。
実際にメディアでそう証言している被害者もいます。
さらにいうなら、ジャニーズ事務所と取引を継続することで海外企業などに自社の取引が切られてしまう可能性もあります。
その場合、それで発生した損害は誰も補填してくれません。
それでも直ちに取引停止をするなというのなら、企業を納得させるだけの根拠が必要でしょう。

そして何より、人権DDがこの問題にそぐわないのは、前編の《論点②「暗黙のカルテル=利益共同体」》で書いたように、ジャニーズ事務所と、広告代理店と、テレビを中心としたメディア企業と、スポンサー企業は、ジャニー喜多川の児童性虐待を長期にわたらせ、被害者を増やしたことの共犯関係にあることです。
ジャニー喜多川の没後にスポンサーになった企業は別ですが、長いつきあいのある企業も少なくありません。
電通・博報堂などはかなり長いつきあいをしているでしょう。
それらの企業、特に広告代理店とテレビ局が業界内でのジャニーズ事務所の権力を強大なものにしてきたのです。
そうした共犯者同士の関係において、取引を継続させるなどということがあっていいわけはありません。
ジャニーズ事務所が問題になっているのは、何もジャニー喜多川の行為そのものだけではないのですから。

現実を考慮せず、ただ闇雲に「人権DDに従うべきだ」といっても、適合していなければ悪影響しか生まないこともあるのではないでしょうか。
「すべてに適合するというわけにはいかない」と指導原則にも書かれているのですから。

「タレントに非はないから」というような理由で取引を継続する企業があります。
テレビ局などはほとんどがそうではないでしょうか?
「タレントに非がある・ない」ということに何の関係があるのでしょう?
タレントの非や罪や責任などは何の関係もありません。
半世紀もの長きにわたり、何百人もの子どもに対して性暴力を働いた男がつくり育てた企業、その鬼畜の所業を知りながら見ぬふりで隠蔽してきた企業との取引を続けるかやめるかという話です。
タレントの非など何の関係もありません。

この章の最後にどうしても書いておかなければならないことがあります。
それは、ジャニーズ事務所を存続させることを前提にするべきではないということです。
どうしてどの人もこの人もジャニーズ事務所の存続を前提に何かを語るのでしょうか?
「ビジネスと人権」も結構なのですが、何が問題になっているのか忘れていませんか?
半世紀以上の長きにわたり、何百人もの子どもに性暴力を働き、それを組織で丸ごと隠蔽してきた“事件”なのですよ?
社名を変えるとか、社長を変えるとか、そんなことで済むレベルの話ではないと私はずっと思っているのですが、私がおかしいのでしょうか?
子ども一人だってアウトだと思うのですが、この先のビジネスの話ばかりしていることにどうしても違和感が拭えません。

もう一度繰り返します。
何百人もの子どもの人生を性暴力によって無残に捻じ曲げ、変えてしまったんです。
それを知りながら、止めるどころかずっと隠し続けて、子どもの被害者を増やし続けたんです。
そして、誰ひとり罪に問われていないんです。
ファンがどうこう言って涙を流している場合でしょうか?
ビジネスがどうこう言っている場合でしょうか?

ジャニーズ事務所および藤島ジュリー景子氏には被害者に補償をするための十分な資産があるはずですし、先の記者会見でジュリー氏は自分の資産も使うと言ったはずですよね?
だったら、取引企業がどうこうではなく、ジャニーズ事務所自体が商業活動を停止し、被害者への補償スキームをつくると同時に、タレントを無条件で開放して、それらが完了したらジャニーズ事務所の存在そのものを解体・抹消するのが妥当だと私は思うのです。
決して存続を前提にしてはいけない。


※後編UPしました。

次でこのテーマは最後となります。
公開したものでも後で非公開にするかも知れませんし、削除するかも知れませんし、タイトルを含めて大幅に修正するかも知れません。
とりあえず、推敲も何もしないでこの中編をリリースしてみます。


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