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NHKから国民を守る党をぶっ壊す!(後編)

 NHKから国民を守る党(N国党)についてのレポートの後編である。N国党に興味を持ってウォッチしていると、次から次に話題が出てくる。そして、N国党についつい惹き付けられてしまっている。「NHKをぶっ壊す!」という単純明快なキャッチフレーズを掲げ、ネットやマスコミを使って一般大衆に訴えかける。かつて小泉純一郎元首相や小池百合子東京都知事が駆使した「劇場型政治」そのものである。我々は知らず知らずのうちに「N国党劇場」に入り込んでしまっているのではないだろうか。

■統一地方選挙前半戦

 今年2019年は12年に一度、統一地方選挙と参議院議員選挙が重なる“亥年選挙”の年に当たる。亥年選挙では与党自民党が苦戦するなど、政局になんらかの動きが出ることでも知られるが、 果たしてN国党の戦いぶりにどう影響するであろうか。

 4月7日に投票が行なわれた統一地方選挙前半戦。定数の少ない道府県議会議員選挙が中心となるため、N国党の候補者が当選するのは難しい。そのこともあって、候補者を擁立したのは兵庫県議選2名と岡山県議選1名の計3名だけであった。
 結果は全員落選。もっともここでの立候補は、統一地方選後半戦に向けての知名度向上を図る目的があったのだろう。
 そんな中、兵庫県議選伊丹市選挙区に立候補した原博義候補の得票が0票という珍事があった。これは、原候補が同一市町村に3ヶ月間の居住実績が無かったことから被選挙権が無いとされ、得票が無効となったからである。原候補は12月に大阪府内から兵庫県尼崎市に転居。その後1月に宝塚市に引っ越している。合計すれば兵庫県内に4ヶ月の居住実績はあるが、どちらの市にも2ヶ月ずつしか居住期間が無かったことから被選挙権が認められなかった。選管によると、当選する権利は無いが、立候補する権利は有るということで、原候補は選挙戦を継続。最下位当選が16,488票という中、実際には2,992票の得票があったという。

■統一地方選挙後半戦

 4月21日投票の統一地方選後半戦にはN国党は全国で41名、東京都内だけで24名の候補者を立てていた。

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 前半戦で落選した候補者のうちでは、兵庫県議選伊丹市選挙区に立候補していた原博義候補が宝塚市議選に、宝塚市選挙区に立候補していた田中邦明候補が伊丹市議選と、両者が入れ替わる形で立候補した。これは、統一地方選の前半戦と後半戦で選挙区が重なる場合は重複立候補として立候補が認められないからである。N国党は候補者名以上に政党名で戦う政党であるため、前半戦で党の知名度をあげた上で、後半戦を満を持して戦うという戦略でもあったのだろう。だが、結果的には原候補も田中候補も落選している。なお原候補は今回は宝塚市での居住実績が3ヶ月となり、得票が認められた。
 投開票の結果、現有13議席の倍に当たる26名が新たに当選した。特に東京都では24名中18名が当選するという大躍進。その結果、39名もの議員を抱える政党となったのである。

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 今回も兵庫県播磨町議選で増木重夫候補の得票が0票となっている。やはり居住実態がないとして、立候補自体は認められたものの得票は無効となったのだ。さらに、千葉県鎌ヶ谷市議選では、被選挙権のある25歳を下回る22歳の粟飯原美佳氏を立候補させようとしたものの、こちらは選管に受理されなかった。
 こうした被選挙権のない候補者の擁立というのは、公職選挙法の問題点を問うことが目的であり、立花孝志代表は選挙後に憲法違反であるとして選管を訴えている。しかしながら、明らかに得票が認められない人物を立候補させようとするのはどう考えてもおかしいのではないか。

■N国党地方議員一覧

 統一地方選後に39名となったN国党の地方議員は以下の通りである。

立花 孝志 東京都葛飾区議 2017年11月当選 ※元千葉県船橋市議、現参議院議員
大橋 昌信 埼玉県朝霞市議 2015年12月当選 ※現千葉県柏市議
多田 光宏 埼玉県志木市議 2016年4月当選 ※2019年4月除名
武原 正二 兵庫県尼崎市議 2017年6月当選  
深沢 宏文 東京都町田市議 2018年2月当選
酒谷 和秀 埼玉県春日部市議 2018年4月当選 
久保田 学 東京都立川市議 2018年6月当選 
中曽千鶴子 兵庫県川西市議 2018年10月当選  
大桃  聰 新潟県魚沼市議 2018年11月移籍 ※無所属で当選後移籍 
塩田 和久 埼玉県川口市議 2018年11月移籍 ※日本維新の会より移籍、20194月埼玉県新座市議当選
中村 典子 千葉県松戸市議 2018年11月当選 
宮内  鋭 千葉県八千代市議 2018年12月当選 
冨永 雄二 東京都西東京市議 2018年12月当選 ※ 2019年4月除名 
掛川 暁生 東京都台東区議 2019年3月当選 
觸澤 高秀 北海道苫小牧市議 2019年4月当選 
遠藤 信一 栃木県宇都宮市議 2019年4月当選 
宮城 壮一 千葉県習志野市議 2019年4月当選 
佐直 友樹 千葉県市川市議 2019年4月当選 
小川 友樹 千葉県船橋市議 2019年4月当選 
大野 富生 千葉県流山市議 2019年4月当選 
國場 雄大 東京都品川区議 2019年4月当選 
夏目 亜季 東京都荒川区議 2019年4月当選 
竹村 明広 東京都中野区議 2019年4月当選 
松田  亘 東京都練馬区議 2019年4月当選 
松田 美樹 東京都新宿区議 2019年4月当選 
近藤 秀人 東京都板橋区議 2019年4月当選 
かんだすなお(神足重治)東京都墨田区議 2019年4月当選 
川端 慎二 東京都目黒区議 2019年4月当選 
光木慎太郎 東京都北区議 2019年4月当選 
栗原 博之 東京都世田谷区議 2019年4月当選 ※元埼玉県坂戸市議(民主党)
佐々木千夏 東京都杉並区議 2019年4月当選 ※2019年4月除名
沓澤 亮治 東京都豊島区議 2019年4月当選 ※2019年4月除名 
野口健太郎 東京都文京区議 2019年4月当選 ※2019年5月離党
植田 智一 東京都大田区議 2019年4月当選 ※2019年6月除名 
二瓶 文隆 東京都江東区議会 2019年4月当選 ※元東京都中央区議(自民党)、2019年6月離党 
二瓶 文徳 東京都中央区議 2019年4月当選 ※2019年6月離党 
金子 快之 東京都渋谷区議 2019年4月当選 ※元北海道札幌市議、2019年6月離党
若林  修 東京都八王子市議 2019年4月当選 ※2019年4月除名 
河本 圭司 兵庫県西宮市議 2019年4月当選

■いよいよ参議院議員選挙へ

 立川孝志代表が参院選進出の前提条件としてあげていた地方議員30名を見事クリアしたことで、N国党は勢い付いた。当初参院選には出馬せず党首として戦うとしていた立花孝志代表も、自ら比例代表区で立候補することとなった。
 政党要件のない政治団体が参院選に比例区に候補者を立てるには選挙区と併せて10名以上の候補者を立てて確認団体となる必要がある。当初N国党が擁立を発表したのは比例区2名、東京選挙区7名、埼玉選挙区1名の計10名であった(すぐに比例区3名、東京選挙区7名に変更)。定数6の東京選挙区に7人立てるというのはそれだけで異例である。N国党は、選挙区での当選は目指さず、比例区での勝利に専念するという方針で、比例区で議席を獲得した上に政党要件を獲得するとことを目標とした。
 N国党の候補者はこれまで各地の選挙で常に数%の得票率を挙げている。比例区で議席を獲得するには得票率約2%で約100万票が必要となるが、決して不可能な数字ではない。
 また、公約はN党の目的である“NHKをぶっ壊す!”。具体的にはNHKのスクランブル放送の実施であり、参院選にはそのワンイシューで臨むことでそのための国民投票の場と位置付けるというのである。それ以外の議案に関してはインターネットで国民に賛否を問いその結果をもとに投票するという“直接民主制”を取り入れるという。佐野秀光代表の「支持政党なし」と近い理念であるようだが、実際に佐野代表を候補者として擁立するという話もあったらしい。
 東京選挙区に定数以上の候補者を立てるのは、7人の候補者のポスターを横に並べて「N」「H」「Kを」「ぶ」「っ」「壊」「す!」という文字を作るためなのだという。

 選挙において候補者のポスターは届け出順の番号に従って貼ることになっているが、最初に届け出た候補者の番号は抽選によって決まる。ただし、抽選が終わった後に届け出た候補者は先着順になる。そのため、わざと少し遅れて立候補を届け出れば、7人が並ぶこともできる。
 2016年参院選東京選挙区で「支持政党なし」が取った戦法に似ている。この時、「支持政党なし」は4人の候補者を掲示板に並ぶように立候補させ、まったく同じポスターを4枚貼ったのである。確かに印象的で、それなりに効果があっただろう。

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 N国党では、選挙に必要な供託金計3600円他の選挙資金は、現職の地方議員から1人130万円ずつを借りるという形で賄うということになったが、この考えに対してはN国党内部でも異論が続出した。
 例えば、闘病アイドルとして活動している夏目亜季・荒川区議。

 支払い期限は6月末だというのだが、確かに選挙が終わったばかりで経済的にも厳しい状況であり、いくら議員の給料が高いといってもまだ支払われていないわけだから、こういった意見が出るのももっともだ。若林修・八王子市議も、他に使うべきものがあるとして、130万は支払わないことを表明した。
 立花代表は借りた資金は政党助成金から返却するとしていたが、そもそも参院選で当選できなければ、いや当選しても得票率2%を取らなければ成り立たない。立花代表は参院選での勝算はあると語っていたが、参院比例区では全国的な国政政党である社民党や自由党でさえ、1議席を取るのがせいぜいである。幸福の科学をバックに持つ幸福実現党でさえ一度も議席に届いていない。実際のところ、N党が議席を獲得出来るかは正直厳しいのではないかと思われた。

■N国党戦略変更

 当初候補者は10名だけとしていたN国党だったが、一転して全国の45選挙区に候補者を立てる方針に変更した。立花孝志代表によると、支持者から東京だけでなく大阪や愛知など他の人口の多い選挙区に候補者を立てるべきとの声があったからなのだという。また、政党要件をクリアした場合、政党助成金には落選しても選挙区での得票が反映するということがわかったことが、他の選挙区でも候補者の擁立を決めた理由であるという。
 そのため、N国党は供託金300万円を用意すれば党の公認を与えるということで、候補者の募集を開始した。するとその日の内に、埼玉、群馬、神奈川、千葉、福岡、大阪での候補者擁立が決定。その後も次々と立候補の申し出があった。
 また、N国党が東京選挙区で7名の候補者のポスターを使ってを1枚のポスターを作ろうという試みに対しては、東京都選挙管理委員会から公職選挙法違反の可能性があると指摘された。公選法にはポスターの規格の規定があるのだが、7枚を繋げて1枚とした場合、その規格制限に引っ掛かってしまうおそれがあるという。実際、1965年の兵庫県川西市長選挙の際に、2人の候補者がそれぞれのポスターに顔半分を印刷し、合わせて1枚になるようにしたところ、公選法違反で有罪となり、共に罰金1万円、公民権停止3年という判決が出されたそうである。
 そんなこともあり、N国党は戦略を変更。東京選挙区は大橋昌信・前朝霞市議のみの立候補として、残りの6名は他の道府県に回ることとなった。7連ポスターが無くなった代わり、従来ポスターを貼らない方針であった東京以外の選挙区にもポスターを貼ることになった。
 最終的に比例区4名、選挙区37名の計41名の擁立で決定した。候補者を擁立しない選挙区は富山、石川、奈良、和歌山、山口、佐賀、宮崎、鹿児島の8選挙区のみであった。

■アンチN国枠

 N国党の知名度があがり支持が広がる一方、同党のアンチも増えてきている。そこで、立花孝志代表は選挙にそうしたアンチを擁立しようと呼び掛けていた。その結果、YouTuberの“さゆふらっとまうんど”こと平塚正幸氏が千葉選挙区から立候補することになった。
 N国党は懐の広さを見せようとしているのかもしれない。が、身内の足下すら固められないと思われるだけではないか。どうも立花代表とN国党は何か勘違いをしているようとしか思えない。

■足立区議選

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 N国党は参院選の準備を進める一方で、いくつかの選挙に候補者を擁立していた。その1つが2019年5月に行なわれた東京都足立区議会議員選挙である。N国党は26歳の司法書士・加陽麻里布(かよう・まりの)候補を立てた。ところがこの加陽候補の住所が足立区ではなく墨田区であったことから、立候補に当たって選管との間でトラブルとなったのである。結局、加陽候補は足立区内のホテルの住所を書類に書くことで立候補を受理してもらうことが出来たが、当然被選挙権がないため得票は無効になってしまう。

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 この加陽候補に北千住駅西口で会った。彼女の演説を聞いたが、今回の選挙の被選挙権を持たないことには一言も触れていなかった。

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 果たして加陽候補の得票は認められず0票ということになった。実際には5,548票を獲得していたそうなので、8位相当。ギリギリ当選することの多いN国党にしてはかなりの躍進である。足立区は東京23区で最も平均所得が低く、NHKの受信料への批判も多いであろうからまともに戦えば当選する可能性は高かっただろう。貴重な票を立花代表の無謀な挑戦のために無駄にしたのであれば、まったく許せないことである。まさに有権者への背信行為に当たるだろう。

 その他、6月の大阪府堺市長選挙に立花孝志代表が立候補している。立花代表はこの立候補によって東京都葛飾区議を失職することとなった。結果は14,110票で候補者は3人の候補者中最下位。得票率5.12%で供託金も没収された。
 また、参院選告示後に行なわれた7月の神奈川県厚木市議会議員選挙では、尾瀬健一郎候補が次点で落選している。N国党の勢いにも陰りが見られてきたようにも思われた。

■N国党の闇

 NHKが様々な問題を抱えているのは事実だが、最近はN国党もまた様々な問題点が指摘されている。例えば選挙の際に何かとトラブルを引き起こしている。2018年6月の千葉県松戸市議選の際には、立花代表と大橋昌信・埼玉県朝霞市議(当時)が市民メディアの記者とトラブルとなり、記者が負傷している。そのことに対して、大橋市議はTwitterでこう述べている。

 堺市長選挙でも、立花孝志代表はヤジを飛ばした老人を煽り、手を出してきたところを「私人逮捕」だとして拘束。その様子をスマホで撮影した映像をモザイク無しで公開している。
 選挙ウォッチャーのちだい氏は、N国党の久保田学・立川市議の居住実態が怪しいことを記事に書いたところ、名誉毀損で200万円の損害賠償請求を起こされた。結局、久保田市議は請求を放棄しているのだが、この間立花代表は「ちだい被告」と連呼する動画を挙げるなど、争いは泥沼化していた。

 そもそも立花代表は選挙を「売名行為」と称して憚らない。参院選で全国に候補者を立てるのも、政党助成金というお金目当てなのだ。以前、立花代表は参院選出馬を決めたにも関わらずただちに葛飾区議を辞職しなかった理由を、「議員報酬を出来るだけ頂きたい。」からだと語る。同じく、大橋昌信・元朝霞市議は、参院選後に千葉県柏市議選に立候補することを表明していたが、その理由を聞かれるとやはり「議員報酬が高い」からと答えている。彼らは政治をビジネスと考えているのだろうか?

 N国党が勢いを増してくると、NHKの方も黙ってはいない。NHKのホームページには「NHKの訪問を撃退するとのシールについて」とのお知らせがあった。(参照

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 N国党について調べていると、NHKの闇よりNHKから国民を守る党の闇が明らかになっていく気がしてならない。

■N国党の混乱

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 N国党内では、参院選のための費用130万円の支払いを巡っての混乱が続いていた。立花代表は支払わない議員は除名するとしていたのだが、実際に4月には多田光宏・志木市議、沓澤亮治・豊島区議、佐々木千夏・杉並区議、若林修・八王子市議、冨永雄二・西東京市議の5名を除名処分としている。

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 立花代表によると、佐々木区議は沓沢区議の紹介でN国党に参加。佐々木区議の紹介で参加した冨永市議の紹介で、若林区議がN国党に参加しているという。立花代表によると彼らはもともと極右的な思想の人物で、政界入りにN国党を利用していたということである。
 さらにN国党の初期メンバーである多田市議も除名されたが、多田市議は志木市議会において会派名を「NHKから国民を守る党」から「あたらしい風」に改めていた。

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 さらにその後5月になってから野口健太郎・文京区議が離党。
同区議は議会では自民党会派に所属している。
 参院選を直前にした6月にも二瓶文隆・江東区議と二瓶文徳・中央区議の父子と、金子快之・渋谷区議が離党を表明。また、植田智一・大田区議はN国党の総会を欠席し、連絡が取れないことから除名処分となった。

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 二瓶文隆区議は離党の理由にお金の問題をあげている。党が所属議員から選挙資金を借りて、それを政党助成金で返却することが違法であると考えているようだ。

 また、金子区議の場合は、従来の「NHKをぶっ壊す」だけから「直接民主主義」を党の公約に加えることに反発しているようだ。

 二瓶文隆区議は元東京都中央区議(元自民党)、金子区議は元北海道札幌市議(元みんなの党→自民党)。共に既成政党のもとで地方議員の経験が豊かであるだけに、立花代表の独裁的な体制や、目まぐるしく変わる選挙戦術が許せないのであろう。
 離党・除名された議員はこれで計10名。その他、参院選出馬のために立花孝志・葛飾区議と、大橋昌信・朝霞市議が議員辞職したため、N国党所属の議員は27人ということになった。

■第25回参議院議員選挙公示

 7月4日、第25回参議院議員選挙が公示された。定数124(選挙区74・比例区50)をめぐって、選挙区215人、比例区155人の計370人が名乗りをあげた。
 政党別の候補者数は次の通りとなる。

自民党  82(現有66) 選挙区49・比例区33
公明党  24(現有11)選挙区7・比例区17
立憲民主党42(現有9)  選挙区20・比例区22
国民民主党28(現有8)  選挙区14・比例区14
共産党  40(現有8)  選挙区14・比例区26
維新の会 22(現有7)  選挙区8・比例区14
社民党   7(現有1)  選挙区3・比例区4
れいわ新選組10(現有1) 選挙区1・比例区9
幸福実現党12       選挙区9・比例区3
NHKから国民を守る党 41 選挙区37・比例区4
オリーブの木10      選挙区6・比例区4
安楽死制度を考える会10  選挙区9・比例区1
労働の解放をめざす労働者党10 選挙区6・比例区4
諸派    1(現有1)  選挙区1
無所属  31(現有4)  選挙区31

※諸派の現有1議席は希望の党

 N国党の候補者41人というのは自民党、立憲民主党に次ぎ、共産党を上回る候補者数である。選挙区での当選は目指さず比例区での当選のみを目指しているが、この大量擁立が果たして吉と出るか。

■政見放送ジャック

 2016年の東京都知事選挙の際に立花孝志代表は飛び切り楽しい政見放送を見せてくれた。それだけに今回の参院選でも、N国党の候補者の政見放送には注目していた。

 比例区のNHKから国民を守る党の政見放送には立花孝志代表が自ら登場。「今から。まあまあ面白い政見放送をしますので、皆さん録画をしてYouTubeにアップロードしてください。」と言ってから語り始める。恒例となった「NHKをぶっ壊す!」というフレーズを述べたかと思うと、「さあ、テレビの前のあなたもご一緒に、NHKをぶっ壊す!」「スタジオにいるNHKの職員の皆さんもご一緒に、NHKをぶっ壊す!…やるわけないですね」。
 都知事選の政見放送でもいろいろとNHKの不祥事を述べていたのだが、今回は主に男女のアナウンサーの不倫路上カーセックス事件をやり玉に挙げる。「不倫ですよ、路上ですよ、カーセックスですよ。」何度も何度も「不倫路上カーセックス」を連呼する。
 さらに、NHKの受信料を踏み倒す方法を具体的に教えてくれる。
 明らかに都知事選の時の政見放送を超えるパワーを持っていた。ただ、「不倫路上カーセックス」の連呼は、品位も何もあったものではないだけに少々頂けない。都知事選の政見放送で音声を消されまくった後藤輝樹候補もびっくりである。
 政見放送の最後では比例名簿に登載された他の候補者を紹介していた。立花代表は今回の参院選を「令和の百姓一揆」になぞらえ、エリート国会議員を代官、庶民を百姓、そして自らを大塩平八郎だとしている。立花代表自身も高卒であるのだが、最初に紹介した浜田聡候補は京大医学部卒の医師とかなりのエリート。また、「NHKから国民を守る党の鉄砲玉」と紹介された岡村介伸候補は、「ボーッと生きてんじゃねーぞ、NHK…」と「チコちゃんに叱られる」のパロディを交え熱かった。

 立花代表の呼びかけに応じて、YouTube上にはN国党の候補者の政見放送が次々とアップされた。それらを片っ端から見てみたが、大半の候補者はほぼ同じ事を述べているので、おそらくは政見放送の原稿には雛形があるのだろう。
 ただそんな中にも様々な意味でヤバい人が多く含まれている。

 例えば大阪選挙区の尾崎全紀候補。言っていることは比較的まともだが、不精ひげにTシャツ姿という見た目がインパクトがある。それでも早稲田大学法学部卒、京大大学院博士課程中退というエリートだ。NHK問題についてはほとんど述べず、最後は「大阪維新をぶっ壊す!」で締めていた。
 N国党はNHK問題意外は候補者によって政策はまちまちで、縛りはないようだ。

 埼玉選挙区の佐藤恵理子候補は、“えびぴらふ”としてニコ生等で活動している。ちなみに名前は「恵理子」と書いて「えりい」と読むらしい。いわゆるアニメ声で政見を述べるのが印象的。
 なお、当初はコスプレでの政見放送を予定していたが、選管より断られてしまったそうである。

 ところが、栃木選挙区の町田紀光候補は、イチゴ(とちおとめ)の被り物にサングラスという出で立ち。どうも服装の扱いは選管によって違うようだ。

 服装にインパクトがあるという点では、青森選挙区の小山日奈子候補も負けていない。ピンクのスーツ、ボサボサの髪に花のついた帽子。これで元衆議院議員秘書だというのだが、いったい誰の秘書だったのか気になる。
 締めは「NHKを改革しましょう」とややソフト。

 新潟選挙区の小島糾史候補は、終始斜に構えて座っている。いかにもプレイボーイの雰囲気で、放送の最後には投げキッス。「NHKにお困りの新潟県の女性の皆さん、いつでもご連絡お待ちしてます」となぜか女性限定。男性票はいらないのだろうか?

 一番笑えた政見放送は北海道選挙区の山本貴平候補のもの。冒頭「今日は、えー、東京から参りました、あ、いやホテルから参りました」と語り始める。その後も「NHKについて、2・3、2・3、5個ぐらい話します…」などと噛みまくる。挙げ句の果てに「忘れました、えーと…」。緊張のせいもあるのだろうが、あまり政見放送の練習をしていないようである。後半は「セカンドステージに入りたいと思います。」と語ると、いきなり「私の戦闘能力は13万です。」となぜか「ドラゴンボール」ネタを交える。「海上保安庁からNHKをぶっ壊す!」その後、海上自衛隊、陸上自衛隊などで同様に叫んだあと、「ナメック星よりNHKをぶっ壊す!」最後は「令和天皇ばんざーい」と勝手に新しい天皇を殺してしまう(笑)

 静岡選挙区の畑山浩一候補によると、立花孝志代表は政見放送は「面白おかしく見ている人が楽しくなるようにやれ」と語っていたのだという。例として、「NHKをぶっ壊す!」を5分間連呼しても良いのだそうだ。

 実際それをやった候補者もいる。長崎選挙区の神谷幸太郎候補。ただひたすら「NHKをぶっ壊す!」を連呼した。時折「少し疲れたので休憩します。」と言って黙り、ガッツポーズを右手から左手、両手に代えるぐらい。

 また、大分選挙区の牧原慶一郎候補は5分間終始無言であった。

 全部の政見放送を観たというわけではないのだが、私が一番ヤバいと思ったのは、三重選挙区の門田節代候補。挨拶で「私たちは門田シスターズです。」と名乗る。何かと思ったら、一人で三人姉妹を演じるというコント仕立て。気象予報士の女性がNHKの天気予報の番組中に泣き出したという事件を再現する際も突如叫んだり変な顔をしてみせたり…。最後はテーマソングを歌いますと言って、かしまし三人娘のテーマソングの替え歌を歌った。

 この門田候補、民法の政見放送では、一転してNHKを擁護する内容を語り始める。NHKでの政見放送を裏返しにした内容を語った後、最後に「みなさん、このような世界にならないようにNHKから国民を守る党に正義の一票をよろしくお願い致します。」と締めくくった。アイロニーの込められた高度なセルフパロディで、実に完成度が高い。

 アンチ枠で立候補した千葉選挙区の“さゆふらっとまうんど”こと平塚正幸候補。経歴放送では「『NHKから国民を守る党をぶっ壊す党』代表」と名乗り、政見放送の冒頭でも「NHKから国民を守る党には絶対に投票しないで下さい」と語る。N国党の主張するNHKへのスクランブル放送化は危険なのだそうだ。ただ、その後はN国党批判はほとんど語らず、自身の曾祖父との会話というスタイルで、現代社会の問題点を問うものであった。彼はマイナンバー制度を批判するために自身のマイナンバーの書かれたTシャツを着て政見放送に臨んでいた。アンチ枠にも関わらず思いの外、党批判が少ないというのは物足りない。

 このようにNHKから国民を守る党の政見放送は見ていて楽しいのであるが、果たして票につながるのだろうか。NHK問題に興味を持って政見放送を見た人も、こんな変な放送ではかえって引いてしまうのではないか。

■参院選開票結果

 7月21日、第25回参議院議員選挙が投開票された。投票率は48.80%で、54.70%だった前回2016年を大きく下回り、過去最低だった1995年参院選の44.52%に次ぐ低い記録となった。
 獲得議席は次の通り。

自民党(改選66)   55 選挙区38 比例区19
立憲民主党(改選9)  17 選挙区9 比例区8
公明党(改選11)   14 選挙区7 比例区7
維新の会(改選7)  10 選挙区3 比例区4
共産党(改選8)    7 選挙区3 比例区4
国民民主党(改選8)  6 選挙区3 比例区3
れいわ新選組(改選1)2 選挙区0 比例区2
社民党(改選1)   1 選挙区0 比例区1
NHKから国民を守る党(改選0)選挙区0 比例区1
諸派(改選1)     0 選挙区0 比例区0
無所属(改選4)    9 選挙区9

 NHKから国民を守る党は選挙区では37人全員が落選したものの、比例区において50議席の最後に立花孝志代表が滑り込んだ。政党要件の無い諸派が比例区で議席を取るのは、1992年の日本新党以来となる。
 比例区の確定得票数は次の通り。

19議席17,712,862(35.37%)自由民主党
 8議席 7,917,719(15.81%)立憲民主党
 7議席 6,536,336(13.05%)公明党
 5議席 4,907,844( 9.80%)日本維新の会
 4議席 4,483,411( 8.95%)日本共産党
 3議席 3,481,053( 6.95%)国民民主党
 2議席 2,280,764( 4.55%)れいわ新選組
 1議席 1,046,011( 2,09%)社会民主党
 1議席 981,885( 1,97%)NHKから国民を守る党
 0議席 269,051( 0.54%)安楽死制度を考える会
 0議席 202,278( 0.40%)幸福実現党
 0議席 167,897( 0.34%)オリーブの木
 0議席 80,055( 0.16%)労働の解放をめざす労働者党

 N国党の得票は比例区では1.96%で政党要件に必要な2%に届かなかった。だが、選挙区のほうでは合計3.02%を獲得し政党要件を満たすことに成功したのである。まさしく大量擁立が功を奏した。選挙区の候補は全員が落選したものの、東京選挙区の大橋昌信候補だけが129,628票で供託金返還となっている。

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■N国党勢力拡大

 参院選の結果はN国党の完全勝利だと言っても良い。だが立花孝志代表はそれでも満足しない。無所属議員に働きかけ、所属議員5名を目指すとしていた。そして、日本維新の会を除名された丸山穂高代議士が入党の意向を表明したのである。

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 よりによってお騒がせ者の丸山代議士である。
 ちなみに丸山代議士は過去にNHKに受信料を払わないことに対して反対の意見を述べているから、変節漢もいいところ。

 さらに、同じく維新の会を除名された渡辺喜美参院議員と会派「みんなの党」を結成することも発表された。渡辺議員は今年の統一地方選に政治団体として再結成した「みんなの党」として候補者を立てているが、政党と会派は別物で、N国党が吸収されたというわけではない。渡辺議員はN国党への入党は拒否したとのことであるが、手練手管の政治家だけに立花代表が操縦されるようなことにはなるまいか。

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◼️N国党躍進の理由

 参議院議員選挙のマスコミ報道において、N国党はほとんど黙殺されていた。主要メディアはまともに彼らを取り上げず、投票前に発表された情勢報道でも彼らが議席を取ると予想しているものはなかった。 私自身も健闘はしたとしても議席には届かないだろうと予想していた。
 にも関わらずN国党が勝った要因はいったいどこにあったのだろうか。 
 1つは「NHKをぶっ壊す!」というワンイシューの政策が分かりやすかったということである。 このキャッチフレーズは小泉元首相の「自民党をぶっ壊す」を多分に意識しているに違いない。ただ、こうしたワンイシュー政党は1980年代には多く見られたのだが、大半は議席には届いていなかった。 議席を獲得したN国党とは何が違うのだろうか。
 N国党はマスコミ報道からは無視されたが、TwitterやYouTubeといったネットを効果的に利用して支持を集めた。N国党は政見放送だけでなく、街頭演説などの選挙活動をネット上に流していった。中には私人逮捕の瞬間を撮影したものもあったが、例え批判されて炎上したとしても、それがN国党の宣伝となり、広告収入にもつながる。2013年にインターネットを利用した選挙運動が解禁となったが、ようやくネットを効果的に利用して候補者を当選に導く政党が誕生したといっても過言ではない。
 それだけではない、N国党は地方議会選挙を通して学んだ戦略を綿密かつ緻密に分析し、それを巧みに取り入れていった。党名と「NHKをぶっ壊す!」という政策が有権者に伝われば良いから、候補者の地盤は二の次で、定数が大きく当選の確率が高い選挙区に、“落下傘”として候補者を立てる。
立花代表自身、摂津、町田、船橋、茨木、葛飾、堺と頻繁に選挙区を変えている。例え落選しても、それが党の知名度アップにつながるのである。 
 選挙が近くなると、N国党の党員が駅前で「NHK撃退シール」を配っている光景が見られた。実際に効果があるのであれば、これは「利益供与」として選挙違反にもなりかねない。効果の程はともかくとして、シールには候補者の名前が携帯電話の番号と共に書かれている。NHK集金人の被害に困った人が電話をかけて、候補者が動けば、それが党の指示拡大につながるという訳である。
 参院選の政見放送も、各候補者は奇をてらった内容で、一般的な政見放送とは一線を画したものが多かった。私はそれが減票につながると読んでいたのだが、実際はその逆で、普段選挙に行かないような人たちの投票行動につながった。YouTubeにUPされた政見放送の動画は、立花代表の比例区のもので426万回再生されている。2位のれいわ新選組が64万回再生だから、いかにその数がすごいかがわかるだろう。ちなみに自民党はわずか16万回再生にすぎない。 
 あまりにも戦術が鮮やかなので、N国党には誰か黒幕がいるのではないかと疑っていたが、どうやらジャーナリストの上杉隆氏がそうだったようだ。8月にN国党は上杉氏を幹事長兼選挙対策委員長に就任させた。上杉幹事長は立花代表も立候補した2016年の都知事選に立候補し、落選したものの4位と健闘していた。2019年統一地方選の東京都中央区長選挙に立候補した際には、立花代表が応援しており、もともも両者が近い関係にあったことが伺える。早くも上杉幹事長を来年2020年の都知事に立候補させようという動きもあるようだ。 

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 N国党の次の挑戦は衆院選であるという。当選したばかりの立花代表は早くも鞍替え出馬を表明している。また、一度は全国11の比例ブロックと289の小選挙区すべてに候補を立て政権交代を目指す方針を打ち出したが、8月の埼玉県知事選挙で公認候補の浜田聡候補が惨敗、いったん白紙に戻している。
 だが、立花孝志代表とN国党がこのまま終わるということは考えられないから、必ずや次の奇策を用意してくるに違いない。
 選挙ウォッチャーとしてN国党のこれからがとても楽しみである。

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