2018年立川市議会議員選挙レポート
6月10日に告示され、17日に投開票された立川市議会議員選挙。定数28に対し43人もの候補が乱立する激戦となった。その立川市議会議員選挙の模様をレポートしたい。
◼️立川市議会の現状
立川市議会の現有勢力は次の通りである。
欠員は、共産党の1議席で、浅川修一市議が都議会議員選挙に出馬したためのもの(結果は落選)。
また、前回は民主党推薦で当選した守重夏樹市議が2015年に亡くなり、補欠選挙が行われているが、民主党と維新の党の推薦候補だった・松本万紀候補(現在は市民フォーラム所属)が、自民党の対馬史尭候補らを抑え当選している。
◼️立川市議選立候補者
告示された結果、候補者は次の43人(届け出順)となった。
内訳は自民党9、公明党7、共産党5、未来日本3、国民民主党2、立川・生活者ネットワーク2、立憲民主党、維新の会、幸福実現党、NHKから国民を守る党各1、無所属11。
自民党は前回の8人を上回る9人を擁立している。
旧民主党系の「市民フォーラム」は現有5議席であるが、うち2名が国民民主党、2名が長島昭久代議士率いる地域政党「未来日本」から出馬した。残る太田光久市議は引退し、後任の渡辺忠司候補も未来日本から立候補。未来日本は国民民主党の2人も推薦している。
また、前回は2議席を獲得した立川・生活者ネットワーク。そのうち谷山恭子市議が離党し、今回は無所属で立候補している。また、もう1人の稲橋裕美子市議は現在3期目だが、生活者ネットは議員を3期までと制限しているため、今回は立憲民主党に移籍しての立候補である。
その一方で生活者ネットは元職と新人の2人を公認しており、その2候補は立憲民主党が推薦している。旧民主党に生活者ネットを交えての複雑な因縁関係が展開しそうである。
無所属候補が前回の6人から今回は11人と大幅に増えた。うち安東太郎市議は自民党会派所属。弱冠27歳の山本洋輔候補は引退する「緑たちかわ」の大川豊市議の後任となる。
前回に続いて立候補しているのは箱石強候補と乙幡直樹候補。箱石候補は前回まで3回連続して次点で落選。乙幡候補も前回は次々点と当選まであと1歩であった。
前回公認候補を立てた社民党は、今回は五十嵐啓之候補を推薦するに留めた。
伊藤智之候補は、昨年総選挙に「新党憲法9条」を結成して立候補した元レバノン大使の天木直人氏の支援を受けている。
山本候補と同じく最年少27歳の依田光平候補もいる。
72歳の内山誠二候補は、58歳で俳優デビューしているとのこと。伊藤公介元国土庁長官が支援しているらしい。
最年長77歳の高橋清候補は元ビクター社員。
66歳の星野隆彦候補は元公立中学校教師だそうだ。
ミニ政党では近年目覚ましい躍進を遂げている「NHKから国民を守る党」が久保田学候補を擁立。覆面姿のニコ生主“横山緑”として知られているが、元AV男優であり、某美顔器ローラーに「陰毛が入っている」と虚言を繰り返しため、名誉棄損で罰金20万円の判決を受けている。なんとも怪しさ満開の人物だ。
また、幸福実現党も中谷晴美候補を擁立している。このところ幸福実現党は出来るだけ政党名を表に出さずに選挙戦を行う傾向にあるようだが、ポスターを見ると政党名は小さく、今回もその戦略のようだ。
果たして激戦を制するのは誰か。1週間の選挙戦に突入した。
◼️立川市議選ウォッチ
選挙期間中は何度となく立川駅で下車した。立川市では東西に中央線が、南北に多摩モノレールが走っているが、それらが交差するのがここ立川駅。したがって、どうしても立川駅が交通の要所となる。立川駅でウォッチをしていれば、ある程度は選挙の様子がカバーできることになるだろう。実際、連日のように多くの候補者が立川駅の周辺で街宣を行っていた。
ただ、私が直接目にする機会の多かった候補者は野党の候補者ばかりで、自民党や公明党の候補者を見かけることはついに無かった。
例えば、長島昭久代議士率いる未来日本の新人・渡辺忠司候補は大抵JR立川駅北口に陣取っていた。時には長島代議士が応援に立っている。長島代議士は昨年の総選挙において希望の党唯一の小選挙区当選を果たしているが、その人気は依然この辺りでは高いのだろう。今回、都民ファーストの会は候補者を立てていないが、同党の南多摩選挙区選出の斎藤礼伊奈都議は未来日本支持を打ち出していた。
共産党も東京都選出の山添拓参院議員が応援に立っていた。
立憲民主党の菅直人元首相は、立憲民主党の稲橋候補ではなく生活者ネットの2人の候補者の応援演説に立っていた。
このところの各地の選挙を見ると立憲民主党の候補者は強い。今回も稲橋候補は上位での当選が見込まれる。その際に票を食われてしまいそうなのが、旧民主党やこの生活者ネットの候補者。とりわけ稲橋候補はネット出身だけに、ネットの候補との票の割り振りがうまくいくかどうかが重要な点である。
個人的に気になる候補が2人いた。1人が前回次々点の乙幡直樹候補。
前回は61票差で落選しており、今回に再起を期している。何度か立川駅前で見かけたように、積極的な選挙活動を行っているようだ。
乙幡陣営は「田母神道場」の幟を立てている。これはかつて都知事選に出馬した田母神俊雄氏の政治塾で、乙幡氏はその1期生に当たるのだそうだ。また、今年4月の多摩市長選で話題となったAI市長候補・松田道人氏も個人的に応援しているらしい。多摩市長選で松田氏が用いた女性アンドロイドのポスターを流用しているとの話だった。いってみれば、極右と最先端AIのハイブリッド候補だということになる。これはただものではない。
そしてもう1人がNHKから国民を守る党の久保田学候補。このところ同党の躍進は目覚ましく、今年に入ってからも3月の町田市議選、4月の春日部市議選で公認候補が当選。すでに6人もの地方議員を抱えている。
選挙期間より前から、同党の活動員が立川駅前でビラを配る様子が見られていた。
貼っておくとNHKの集金人が来なくなるという、「NHK撃退シール」なるものを配布している。そのシールの効果のほどはともかくとして、これは「利益供与」になりはしないのだろうか? 支援者に団扇を配って法相を辞任した松島みどり代議士の例もある。
NHKから国民を守る党の活動員はしょっちゅう見かけたのだが、肝心の候補者自身はなかなか見かけない。ところがある時、立川駅南口を歩いていたところ久保田候補の街宣車が止まっていたのを見つけた。
そして街宣車のすぐそばに久保田候補自身が立っているではないか。写真をお願いしたところ、マスクを被って応じてくれた。
そうしているうちに6月17日の投票日を迎えた。果たして当落はどう出るか。
◼️前回市議選結果と当落予想
参考までに前回2014年の市議選の投票結果を見てみよう。
党ごとの得票数の合計値は次のようになる。案分票は切り捨てとし、無所属自民党会派の安東太郎市議は自民党、緑たちかわの大沢豊市議は緑の党として計算した。
34人が立候補した前回は、最下位当選の松本章寛市議は1,003票だったが、今回は乱立なので多少は当選ラインが下るのではないだろうか。
前回の自民党候補の合計得票は17,925票。安東市議を含めた10名で割ると一人あたり1,792票、十分に全員が当選圏に入ってくる。もっとも、さすがに10人全員の当選は厳しいだろう。前回トップ当選の中山ひと美市議は2,950票、2位の古屋直彦市議は2,713票、3位の安東太郎市議が2,406票、4位の木原宏市議も2,312票と4人で自民党票の6割近くを占めた結果、羽鳥友規候補はわずか951票で落選に終わっている。自民党の場合は、このように一部の候補に票が集中するようなことがあり、中山市議と羽鳥候補の得票差は実に2,035票もあった。おそらく今回も1、2人取りこぼす可能性があるので、前回同様の8議席行けば良いのではないか?
一方、前回と同じ7人を擁立した公明党、5人を擁立した共産党の場合は、票の割り振りが巧みだ。前回の得票を候補者数で割ると公明党は1,763票、共産党は1,980票となるが、公明党はトップと最下位の差が450票、共産党も486票しかないため、このままいけば今回も全員当選は固い。
問題は旧民主党。このところ各地の選挙では、立憲民主党が健闘している。2月に行われた日野市議選でも、立憲民主党の候補者は上位で当選。2014年市議選での旧民主党の得票は4,635票だったが、立憲民主党の候補者は1人でほぼそれに匹敵する4,493票を獲得している。今回の立川市議選でも、立憲民主党の稲橋裕美子市議が旧民主党の票の多くをさらっていく可能性があり、国民民主党や未来日本の候補者が割りを食って落選することが考えられる。立憲民主党の稲橋市議は上位で当選するが、国民民主党と未来日本は合わせて3議席がせいぜいだろうか。
生活者ネットワークも1議席取れると思われるが、もう1議席に届くかどうかは微妙。
また、維新の会の新人・柳沢貴雄候補も当確であろう。維新の会は昨年の葛飾区議選、2月の日野市議選で候補者を1人に絞り、手堅く上位当選している。選挙巧者といった印象がある。
無所属では現職で前回は生活者ネットで当選した谷山恭子市議が有力。
残りは混戦だと思われるが、中でも大沢豊市議の後任の山本洋輔候補がやや優勢。また、箱石強候補と乙幡直樹候補も当選圏に入ってくる可能性が高い。他に当落線上にいるのは、積極的に活動を行っていた依田光平候補、社民党推薦の五十嵐啓之そして伊藤智之候補だろう。
そんな中でも不気味な存在なのがNHKから国民を守る党の横山緑こと久保田学候補。地方議会選挙をNHK批判のみで戦うことの良し悪しは置いておいて、N党はこのところ各地の議会選挙で着実に議席を増やしている。立川市においてもNHKに反感を持つ人たちは一定数存在すると考えられるし、今回の選挙は候補者乱立で当選ラインが下がってくる。久保田候補自身にも批判は多いとはいうものの、ネットを中心に知名度もあるので、当選の可能性は十分にある。
私の予想としては、
◼️立川市議選開票結果
6月17日の投票日を迎えた。最終的な投票率は43.54%であった。前回2014年の41.67%は僅かに上回ったが、候補者乱立による混戦の割には低かったといえる。
開票結果は…。
各党の獲得議席数は、
最下位当選は1,143票で、2014年の1,003票を上回ったのは予想外であった。最後の1議席は自民党同士の争いとなり、新人の対馬候補が現職の松本市議に競り勝った。
党ごとの得票数は次のようになる。
自民党の総得票はほぼ前回と同じ。しかしながら、1議席増の9人が当選している。自民党トップの中山市議と自民党最下位の松本市議の差が前回の2,035票差から1,845票差と若干縮まっている。安東市議は前回の3位から今回16位と大きく順位を下げたばかりか、得票でも500票近く票を減らしているが、その分他の候補に票が行き渡ったのだろう。
公明党は336票差、共産党は370票差と前回以上に票差を縮め、それぞれ7議席、5議席と全員が当選した。
トップ当選は立憲民主党の稲橋裕美子市議であったが、立憲民主党が推薦していた立川・生活者ネットワークの候補者2人が落選したため、そう喜んでもいられまい。
前回は2人当選していた生活者ネットは共倒れとなり、組織票の引き継ぎに失敗した。前回と比べると1,186票を減らしている。なお、前回ネットで当選した谷山恭子市議も大きく票を減らして落選している。
旧民主党の国民民主党は2人とも当選。長島昭久代議士率いる未来日本は1人落選の2議席。両党合わせて4議席は前回と同じで、全国的な凋落傾向の中では想像以上の健闘ぶりだった。
一方、維新の会の柳沢貴雄候補は、僅か658票とこれまた想像以上の惨敗に終わっている。
そして、NHKから国民を守る党の横山緑こと久保田学候補が26位で当選を決めたのである。N党からは7人目の議員ということになる。久保田候補は、何かと話題に事欠かない人物ということで、今後の議員としての活動にも不安はあるのだが、これを機に立川市のために頑張ってもらいたい。
もう1つの諸派・幸福実現党は292票と惨敗。やはり都内ではまだまだ厚い壁がある。
無所属では、27歳の山本洋輔候補が滑り込んだが、前回次点の箱石強候補は今回も次々点とまたしても議席に届かなかった。
前回次々点の乙幡直樹候補は、974票だった前回より3分の1近くまで票を減らす惨敗。極右の田母神俊雄氏とAIの松田道人氏の支援というチグハグぶりが却って票を減らす結果になったようである。これは、彼の戦略ミスであったといえよう。
27歳の依田光平候補と、社民党推薦の五十嵐啓之候補はそれなりに健闘したが、私が当選圏に入ると予想していた伊藤智之候補は下から3位。天木直人氏の支援を受けていたが、極左は極右(乙幡候補)に及ばなかった。
内山誠二候補は、伊藤公介元国土庁長官の支持の効果もあったのだろうか、伊藤候補や幸福実現党の中谷晴美候補といった比較的真面目に選挙運動を行っていた候補者よりも多くの得票であった。その一方で星野隆彦候補と高橋清候補は100票にも満たない惨敗であった。
◼️立川市議選総括
立川市議会議員選挙を総括すると、既成政党の強さが目立っていた。自民党が議席を増やし、公明党と共産党が現有議席を守った。また、立憲民主党の健闘は予想通りであったが、国民民主党と未来日本も想像以上に健闘していたといえる。前回推薦含めた民主党6候補が獲得した8,136票に対して、今回は国民民主党と未来日本の5候補で7,230票。候補者が減った分、一人あたりの獲得票は増えている。立憲民主党の存在を考えれば、これはかなりの健闘だ。やはり多摩地区では長島昭久代議士の影響力もまだまだ強いということなのだろうか。こうした既成政党が強さを発揮した結果、候補者乱立にも関わらず当選ラインが上がったのだろう。
その一方で、今回圧倒的な強さを見せた立憲民主党には課題も残る。推薦を出した生活者ネットの候補が共倒れに終わったように、立憲民主党の看板がなければ推薦候補といえども戦えない。国民民主党と未来日本を合わせた旧民主党票は前回に比べて896票減っているが、社民党推薦の五十嵐候補も前回の社民党票より412票少ない。同じく緑の党系列の山本洋輔候補も前回の大沢豊候補の得票より419票減らしている。それらの合計票を前回稲橋市議が得た票数に足すと3,355票となり、今回の稲橋市議の得票3,831票にほぼ匹敵する。つまり、稲橋市議は共産党を除く他の左派支持層の票を吸収してここまで躍進を遂げたということがわかる。立憲民主党が今後野党第1党として大きく飛躍していくためには、今後は1人の候補がぶっちぎりのトップ当選するのではなく、複数の候補にいかにうまく票を分配していくことが大切になってくるのだろう。
また、今回私が上位で当選すると予想していた維新の会の柳沢貴雄候補が惨敗した。同様に前回健闘した乙幡直樹候補が今回は惨敗していることからもわかるように、左派候補の健闘ぶりに比べて右派候補の凋落が著しい。その一方で争点をNHK問題のみに絞ったNHKから国民を守る党の久保田学候補が見事当選を決めている。柳沢、乙幡両候補の票を足しても久保田候補には及ばない。つまり、立川では右派色というのものは敬遠され、例え理屈に合わなくともインパクトのある主張の方が受け入れられるということなのだろう。しかし隣の日野市では、2月の市議選で維新の会の候補者が上位当選している。隣接する市でもこうまで結果が違うというのは興味深い。こうした各市の特色というのも注意して選挙をウォッチしていく必要があるのかもしれない。
立川市の抱える課題には例えば貧困問題がある。生活困窮者支援や、7000戸ともいえる空き家の有効活用が叫ばれているのだ。また、立川市は鉄道網の充実に反して道路網が未熟で、とりたて南北をつなぐ主要道路の拡張・整備が必要とされている。今回立川市議会議員選挙で当選した議員たちには、こうした立川の問題の解決に精力的に取り組んでいってもらいたいと思う。それはNHK解体というワンイシューで当選した久保田学候補も同様である。マスクを被ってのパフォーマンスだけでは4年後の再選どころか、議員生活を全うすることすら難しくなってくるからだ。今後の立川市の未来に期待してレポートを終えたいと思う。
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