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藤井二冠、来期への飛躍

今年度(20年)の藤井二冠の活躍は素晴らしいものでした。

1.棋聖、王位、ダブル・タイトル最年少挑戦・獲得。
2.銀河戦(初)、朝日杯(三回目)、優勝。
3.順位戦B2全勝通過(順位戦21連勝中:初参加から39勝1敗!)
4.前人未到4期連続勝率8割超!(現在公式戦16連勝)
5.アベトナ団体戦優勝
等々・・・(まだ今期最終戦となる竜王戦2組準決勝vs松尾八段を3月23日に残しておりますが)

当初この活躍はコロナ禍自粛期間中に自分の将棋を見直した結果と報じられていましたが、実は高校三年になってから授業を受けたことが一度も無いことが判明しました。(昨秋に今年1月末自主退学を決定)

つまり高校生活の制約が無くなれば飛躍的に伸びるのでは?と予想されていた事態が結果的に今期から始まっていたわけです。

勿論、他の棋士も学校生活から解放されて将棋に専念出来る環境になれば、多かれ少なかれ棋力の向上が見られたものの上記藤井二冠の実績は群を抜いたものであることに違いありません。

これが特に学生生活からの解放による一時的な好調の波に支えられたものなのか?それともある程度今後もこのレベルの結果を出し続けていけるだけの実力がついたのか?と言う点にあります。

もっと言えば他の棋士達も特に有望・トップ棋士は当然今後さらに力を伸ばして行きますから、彼らとの棋力「差」を保てるかどうか?それをさらに大きくできるか?の問題になります。

藤井二冠が「さらに将棋が強くなりたい。」とは、この棋力「差」を拡大したいと同じ意味です。常にトップを意識する棋士にとって大事なことは、棋士の中の誰か一人でも自分より成長度が高ければいずれ追い越されることになります。「他の誰よりも」成長度が高くないと意味がないのです。

これまでは比較的早くソフトを導入して研究を始めた棋士は先行者利益を享受できました。しかし豊島竜王や増田六段など「老舗?」ソフト研究派の棋士達が「ソフトの研究に行き詰まりを感じる。ソフト研究に時間をかけても他の棋士との差別化が難しくなってきている。」と言っています。同じく老舗の千田七段も一頃の昇進速度と勢いに陰りが出ているようです。
コロナ・ワクチンの接種効果ではありませんが取りあえず7割の棋士にソフト研究が普及すれば、「研究時間」対「勝率効果」は逓減する・・・?

今のところ藤井二冠は個人で購入できる最高性能のCPUを組み込んだパソコンなどを利用しているので、それほど行き詰まりを感じている様子はありません。

しかしいずれはパソコンからクラウドサービスを使ったニューラル・ネットワーク系のAIを利用することになることはほぼ必然の成り行きでしょう。(囲碁棋士などは既にその環境で研究している)

国家間の軍備拡張競争のように、棋士間のITに対する投資とスキルが大きく個々人の棋力に影響を与える時代に突入してゆくものと予想されます。

旧来の詰将棋、棋譜並べ、研究会も無くなることはありませんが、それらもよりIT化されたものに変容するはずです。このように棋力そのものの向上だけではなく、さらにメタ・レベルの「棋力を向上させるための手法・方法、設備環境」などが他の棋士との差別化において重要度を増してゆくでしょう。

今のところそう言った面でも未だ18歳の藤井二冠の吸収力、伸び率、変化への適応力において優位に立っている状況と思われます。

既に従来ソフトの将棋研究への活用、学校教育からの解放、と飛躍的に棋力を延ばせる切り札を藤井二冠はもう使ってしまっています。他の棋士との差別化の意味で個人的には上記でも述べたニューラル・ネットワーク(NN)系のAIをいかに早く使いこなして実戦に応用できるかが次の飛躍へのキーポイントになると考えています。

今年の5月に開催される第31回世界コンピュータ将棋選手権においてNN系のソフトの活躍度合が一つこの流れを決定づける大きな要素となるでしょう。

大局観の面で従来ソフトより数段進歩していると言われるNN系ソフトの棋譜を見て藤井二冠がどう感じるのか?どれだけそれを実戦に応用できるのか?楽しみでなりません。

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