見出し画像

糸谷八段、渡辺棋王に哲学で勝つ?

本日の棋王タイトル戦は中盤までは、ほぼ渡辺棋王の予想通りの展開でソフトも7:3程度の評価値を示していました。控室の検討陣も解説も意見は一致していた模様です。

しかし、インタビューでその点を糸谷八段に確認したところ、「そうですかぁ?」と不思議そうな様子でした。つまり糸谷さんは状況を悪くないと、後手であの程度攻め込まれるのは五分の内だと考えていたのではないでしょうか?

何度か棋譜を並べて、もちろんソフト付きですが、検討しました。そこで糸谷さんの意図がようやく推測できましたので以下に纏めてみます。

糸谷さんはご承知の通り大阪大学の大学院まで進み哲学を専攻されました。自身も哲学は将棋を指す上で有益であると述べておられます。

本局に臨むに当っての糸谷さんなりの哲学は?

つまり後手番だから雁木に組むとか戦術的なものではなく、思想というか考え方が明確に決まっていたように感じました。

それは「位と圧力を重視する。」と「玉を中段の塊のなかに隠す。」の二つです。

自分の玉の周りから金、銀、を中央に進め、全線で手厚い形を整えています。それを相手の攻めを受けながらいかにもそれに対応するかのように自然に陣容を築いてゆくんですね。

渡辺さんも有利な情勢とは理解しながら、具体的にどうすれば良いか分からなかったと言われてます。

糸谷さんの玉は寸前まで相手の歩が迫り、周りに援軍はおらず心細い限りです。一方渡辺玉は美濃囲いに似た堅陣です。解説の近藤さんがこの形から攻めをつないで勝ちきるのが渡辺さんのいつもの勝ちパターンと言ってましたが、まさにその通りの展開でした。

ところが、この時点で糸谷さんは形勢が自分に傾いていると確信されていたと思われます。金、銀、飛車、角で相手陣に圧力をかける当初の構想通りの状勢だからです。

仕上げは相手の攻めに追われたように見せかけて自玉を中段の自軍の厚みの中にスルリと潜りこませて安全にし、最後は上から最下段に居る相手玉を押しつぶすだけです。

自玉は入玉も可能な中段で金銀に守られた形で、逆に相手玉の周りにいた金銀は上からの圧力で分散させられ全く逃走路も塞がれた玉は詰まされるのを待つのみでした。(本能寺の信長・・・)

渡辺さんの敗因は何だったのでしょうか?

それはこれまでのタイトル戦を通じて有利から勝勢に持って行くのに手堅く、安全勝ちを目指した指し方で勝ってきたからです。

つまりこれまでの成功体験が渡辺さんを逆に縛ってしまっているのです。
その間に糸谷さんが目論見通り厚みを築く余裕を得ているのではと。

それを象徴するのが感想戦でギリギリの攻め合いの手順を示された糸谷さんが渡辺さんに「そんな危ない真似は出来ませんよね?」と訊き、渡辺さんが「その通り、有利な方が選ぶ順じゃないよね。」と応えてました。

今後もし渡辺さんが従来の手堅い作戦に固守するようであれば、「糸谷流圧力釜!」哲学に翻弄される恐れがあると考えています。

「肉を斬らして骨を断つ」リスクを覚悟の攻め合い無しには巨大な「圧力釜」を壊すことは難しいのではないかと・・・

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?