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糸谷八段、ヘビー級の凄味?

森一門で以前から親しかった糸谷八段と山崎八段は新型コロナで対面の練習対局が制限されるなか、ずっとネットで研究会をやっていたそうです。その過程でこれまでの定跡や手筋、形を覆す「価値観、大局観」を身に付けるきっかけを掴んだんじゃないでしょうか?

それほど、渡辺棋王との棋王戦第一局における糸谷八段の勝利は鮮烈な印象を残しました。また敗れはしたものの久保九段とのB1順位戦における山崎八段の健闘は見事でした。

これは全くの推測ですが、敢えてソフトの示す推奨手を捨てて、自分達が納得のゆく手を求め続けた結果、その手順に「共通するある価値観」を発見したのでは?と。(決まりきった定跡を壊したい!地図があるならそれを隠したい!・・・山崎八段)

以下その価値観のベースとなる指し方を棋王戦第一局の棋譜から推測してみましょう。

1.金、銀、飛車、角、桂を三段目以上に押し上げて相手陣に圧力をかける。特に相手の飛車、角を攻めながら抑え込む。原則端歩は受けない。中央の厚み形成を優先する。また必然的に周りが薄くなる自玉も押し上げ(あるいは相手の攻めを躱しながら)自らの厚みに隠す。手厚い中段玉なので入玉も目指すことが出来る。特に盤上重視する位置は4四、5五、6六、の角道中央部付近と思われる。

2.上部から相手陣を抑え込み押しつぶすことで相手玉の退路を塞ぐと同時に周辺の駒の無力化を図る。相手が持久戦での抑え込みを嫌がって急戦、切り合いに打って出ざるを得なくなったら、待ってましたとばかりに相手の伸びた腰にカウンター・ブローを浴びせる。(そのパンチ力は不可欠!)

3.全軍が中段以上に集中するので、相手の大駒に成り込まれても香車以外は手に入らない(一種の焦土作戦)。また本来駒は前方に効きが多いが後ろは少ないので背後から自軍の厚みを攻められても被害は少ない。(入玉模様の将棋と同じ)

4.中段にゴチャゴチャと駒が集中する陣形なので「美しさ」はない。
逆に「悪形」になることが多い。ところが、形にとらわれるので「美しい手」は相手に読まれやすい欠点もある。「悪形」は棋士の心理に反するので読まれ難いうえに、相手が「形勢以上に有利だ」と錯覚し易い。つまり相手が「こちらが良さそうなんだが、具体的な手段が見つからない。」と思わせた時点で既に作戦は半ば成功と・・・

5.最も重要な事は定跡が無い、定型を作らないことです。「無型」だから相手の手に応じて自由自在に対応できる。相手も事前研究が出来ない。これを模倣しようにも相当な力と独特の感覚を要するため、おいそれとは難しい。(敢えて似た棋風の棋士を挙げれば佐藤会長か・・・)

6.一つ注意が必要なのは駒が全体的に中央部に集まるので、「序盤の」角交換や飛車交換は避けなければいけない。従って角換わりや横歩取り戦法には適さないと思われる。

以上概略を述べましたが、基本「無型」「悪形」ですから升田幸三賞や名曲賞は・・・?

しかし、ソフトによって研究され煮詰まって来つつある定跡から、人間同士の対局に勝つための価値観、大局観としては非常に面白いものではないかと考える次第です。

上記はあくまで個人的な推量の域を出ませんが、森一門の山崎、糸谷八段の今後の対局を観戦するにあたって一つご参考になればと思い書いてみました。

個人的にはこの森一門の厚み優先指向に攻め味抜群の藤井二冠がその場でどう対応するのか?大いに興味があります。大熱戦を期待したいところです。

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