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藤井二冠、朝日杯逆転をバネに?

昨日の朝日杯準決勝、決勝は両方とも手に汗を握る熱戦で未だ余韻が覚めやりません。
まず、準決勝の渡辺名人戦ですが、対局前に渡辺名人が「藤井さんの将棋をある程度掴むことができましたので、自然にやります。」と言っておられました。

その「自然」が凄かったんです。一般棋戦であるにも関わらずタイトル戦と変わらぬ研究と工夫が込められた作戦に驚きました。将棋界の第一人者が誰なのか?決めようじゃないか!との気迫溢れる指しまわしです。(豊島竜王が準々決勝で敗れているので、ここで名人の自分が負けるわけにはゆかない、と)

名人は現在、王将戦と棋王戦の二つのタイトル戦を同時に戦っています。研究のストックが何よりも大事な時期です。新しい作戦の賞味期限はそれが指されたとたん他の棋士にソフトによって丸裸にされるので、賞味期限はたったの一日!です。その貴重なストックを惜しげも無く一般棋戦で投入するということは、いかに名人がこの対戦を重視していたか・・・名人の意地を見た思いでした。

藤井二冠得意の矢倉や角換わりを避け、先手を持てば相掛りと決めていたのでしょう。形勢は序盤は互角でしたが、中盤から名人の研究が生きて優勢から終盤には、ついに勝勢へと進みました。名人も「この将棋はもらった。」と・・・、そこからの藤井二冠の粘りが強烈でした。
豊島竜王に何度も終盤で逆転を喰らい苦い水を飲まされ続けた経験がここで生きたと思われます。

名人は「優勢のはずなのに決め手が見つからなかった!」と局後ぼやいておられましたが、藤井二冠の勝負の決め手を与えない指しまわしには解説の広瀬八段も感心しておられました。まるで昨年夏の木村王位とのタイトル戦
第二局を見ているかのように、最後の最後に名人のミスが出て大逆転でした。いや、あれをミスと言うのは酷かも知れません。それほど藤井二冠の追い込みが鋭かったと言うべきでしょう。(棋聖タイトル戦第一局における渡辺棋聖の終盤、16回連続王手とは違います。あの時はソフトの評価値が藤井玉は詰まないと評価してましたが、今回は99%藤井玉は詰むと評価していたので・・・)

局後、名人は藤井二冠から金のただ捨ての手筋があり、藤井玉は詰んでいたと知らされたようです。それがさぞかしショックだったのでしょう、「あの局面で金のただ捨ては読めないよぉ!」と。

ただ、渡辺名人も今回の対局で藤井二冠に対して一定の成果は感じているでしょう。藤井二冠は手の届く範囲に居る。特別な藤井対策をしなくても、これまでの他の強豪に対する事前研究と同じ程度で「充分、やれる!」と。持ち時間の短い対局で終盤一分将棋にさえ、ならなければ・・・

一方、藤井二冠も名人の鋭い攻めに翻弄された序中盤は反省材料です。後手番であれば先手の研究で中盤までに40~30%まで押し込まれることはあるでしょうが、10~5%以下まで追い詰められるのはやはり対応に問題があったと考えざるを得ません。早い段階で押し返す必要があるので、たとえ終盤に逆転勝利しても「課題あり。」との局後インタビューでの発言につながったものと思われます。

さて、いよいよ三浦九段との決勝戦です。「幸か不幸か」今回の朝日杯では全て後手番でしたが初めて先手番を握りました。持ち時間の短いJT杯でも三浦九段に先手番でしたが、藤井二冠が唯一苦手としている横歩取りに誘導され負けています。今回も案の定横歩取りを三浦九段は選択され、難解な攻め合いを挑まれましたが、藤井二冠がそれを回避しました。しかし局後、藤井二冠は「序盤の攻め合いを避けるようでは・・・」と反省しきりです。一見、相手の誘いに乗らず賢明な作戦でしたが、気合負けは否めず試合巧者の三浦九段にジリジリ押され土俵際まで追い詰められました。(評価値5%以下)

そこからついさっきの準決勝が再現したかのような藤井二冠の粘り腰でなんとか逆転勝利することが出来ました。(前々日持ち時間6時間の順位戦を終日戦い抜いての中一日で、あの離れ業を同日二回もやれるのか・・・以前の朝日杯で深浦九段が豊島竜王との午前中の対局で粘りに粘って勝利したのに、午後の対局でさすがに疲れが出たのか、あっさり負けた例もありましたので・・・終了後は藤井二冠心身とも極限の困憊状態だったのではないかと・・・)

これまでの朝日杯優勝のときはいずれも破竹の勢いで圧勝の連続でしたが、今回の優勝は一回戦の大石戦を除き、苦戦続きでようやくもぎ取った感があります。終盤敗勢のとき相手に対するプレッシャーのかけ方に非凡なものを披露しましたが、本人としては満足のゆく結果ではなかったと思われます。

さらに、「幸か不幸か」これで今後藤井二冠と対戦する相手は先手なら相掛り、後手なら横歩取りで挑んでくる可能性が高まりました。明らかに矢倉や角換わりより、藤井二冠が苦戦する傾向にあるからです。次期B1順位戦は相掛りと横歩取りのオンパレードか・・・(相掛りと横歩取りが不得手ということは飛車の使い方にまだ難点があるのかも?飛車の切り方じゃなく・・・)

しかし、これは逆に考えると藤井二冠にとってもメリットになる可能性があります。直近の竜王戦予選で阿久津八段が横歩取りを採用してくれたお蔭で経験値が上がり、より強力な三浦九段の横歩取りを凌ぐ手助けになっていたように感じられたからです。

藤井二冠にとって最も成長度が高くなるのは、「より強い相手と、より不得手とする戦法」で対局することです。今の一局は十年後の十局に相当するほどの伸び盛りですから。

苦戦すればするほど、藤井二冠はもちまえの「悔しがる力!」でそれをバネにジャンプ・アップしてゆくものと期待しています。


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