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「逃げてもいい」は本当。

私は、発達障害のうち、ADHD不注意優勢型のグレーといわれています。

まずは発達障害の自覚について。
「なんだか人と違うなあ」という感覚自体は昔からありました。
それも、主に残念な方向に。
一度でも「自分はもしかして発達障害なのでは…?」と疑ったことのある人なら、似たような経験があるのではないかと思います。


例えばどんなときか。
・物に無頓着すぎて、カバンから折り畳み傘がたくさん出てきたことがあります。

・通りの猫を見ていたはずなのに、
お、猫だ→黒猫だ→黒猫って不吉の象徴っていうよね→そんなこと誰が考えたんだろう、占い師?→占いといえば朝の星座占いは酷かったな→ラッキーアイテムは何だっけ…
のように斜め上の方向に思考がずれていき、猫のことをすっかり忘れてしまいます。
それで、一緒に帰ろうという約束を何度かすっぽかしたことがあります。ごめんな。

・にんじん、じゃがいも、肉の順番に入れなくちゃいけなかったのに、肉から入れてしまっただけで計画が狂ってパニックになります。

・長時間会話をしていると、途中から突然内容が入って来なくなります。
まるで外国に放り出されたかのよう。
単語の意味が分からないのではなく、何を言われているのか分からないのです。
会話の途中でも
「でね、今日(謎言語)作ったんだけど、(謎言語謎言語)!」「ん?!」
といった具合に突然の謎言語ラッシュが始まります。

・それでも対面ならまだよいのです。
3人以上になると、どうやって会話をすれば良いのか分かりません。

などなど…
挙げるとキリがありません。
けれど、ほかの人との違いに気づいても、「自分を改めねば!」となる機会は中々ありません。
ただ人を見て「なんか違うな?」と思うだけです。ほかの人のカバンから傘がたくさん出てくるのを見たこともないし、みんな上手に会話をしている。
けれど、傘は棚に戻せばいいし、会話は続く人と楽しく話せればそれでいいか。なんだ、支障ないじゃん(と私は思っていた)。


幸いにも、私は少しお勉強ができる生き物だったので、学校では「変な人」という印象は持たれつつも、なんだかんだ居場所を確保できていたのです。
高校は進学校だったのですが、むしろそこは私のような「変な人」が多かった印象があります。こういう人は進学校に集まりやすいのかもしれない。


問題は、就職後。
とある企業の事務として働き始めたものの、まあ~~~~大変でした。

事務は、一度に複数のことをこなさなくてはならないマルチタスクの仕事です。
楽だと思われがちな仕事ですが、あいつ、めちゃめちゃ大変ですよ。
かくいう私も入社前は「専門的なスキルは求められず、座ったままで、エアコンのついた部屋でパソコンをぱちぱち打っている仕事」という印象を持っていました。とんでもない。

ねじ込まれる仕事、唐突に変わるタイムスケジュール。
何かをしている最中だとして、それをくみ取ってくれるクライアントなんているはずもなく……。
→優先順位がつけられなくなり、パニックが多発。

「なんとなく」しか決まっていない仕事が多く、ルールが最良化できない。
→「どうすればよいのか自分で考えて動け」と叱られ、考えて動いたら「とんでもない方向に舵を切るな」とまた叱られる、この負のループよ。
ようやく1つの仕事を自分の中で消化できても、すぐに新しいこと・新しい問題が入ってきます。
毎日NEWの仕事しか来ないんです。「あ、ここゼミでやったやつ!」とはならない。
特に電話対応が苦手でした。
臨機応変な対応が求められるのです。何を答えるのが正解なのかわからない。


このように何度も仕事でやらかしていると、周りの見る目がだんだんと変わってきます。
一度「あいつは何をやっても駄目だな」という認識が入ると、それが先入観となって、やる前から駄目だと思われ始めます。
これが一番きつかった。

『人物や物事を評価するとき、目立ってすぐれた、あるいは劣った特徴があると、その人物や物事のすべてをすぐれている、あるいは劣っている、と見なす傾向。』
これをハロー効果といいます(goo辞書より)が、これのマイナスの方が起こるのです。
同じ仕事をしても私だけ入念なチェックが入ったり、仕事で相談する前から身構えられたり。
「あなたを採ったのは間違いだった」「仕事向いてないよ、家庭に入ったら?」と言われてみたり。そんなこんなで約10年。


ある日、おかしくなっていることに気がづきました。
眠れない。特に日曜日。
毎日自分を責める想像が止まらない。
人の話していることも頭に入ってこない。いつもの比ではない。
一枚膜の中にいるようで、「生きている」という感覚が希薄でした。
あれ、なんで私は生きているんだ……?あの車がぶつかってきたら楽になるのになあ……ははは


どう考えてもアウト。
ということで、お医者さんに相談しに行きました。
その結果、ADHD・不注意優勢型のグレーだろう、というお話をいただきました。


正直なところ、まさか!?という思いでした。
当時、今ほど大人の発達障害が取り上げられていませんでした。
大学では教育について勉強していたのですが、発達障害というと子どもの問題だと思っていたのです。


しかし、思い当たる節はないかと先生にさまざまな具体例を挙げてもらったら、まー当てはまる。
どこかで私を見ていたの?と思えるほど的確に私の特徴を捉えていました。


このことを会社の人事にも相談したところ、「テストを受けて正確な診断結果をもらってこい」とのアドバイスを受けました。
なるほど、今のところただの自己申告だもんね。
お医者さんにテストを受けられるのか尋ねると、渋い顔に。
いわく、
「テストを受けるのにも準備とお金がかかるよ。
それに受けたところで、あなたが「そう」だとわかるだけで、会社の状況は何も変わらないよ」
と。


このころ、私はまだその会社にいたかったので、こう仰ったのではないかと思います。
後々知ったことですが、もし私が完全に発達障害の認定を受けて人事に言っていたら、取られた対応は「正社員から契約社員への変更」でした。
契約社員であれば責任のある仕事をしなくて済むからという理由です。
けれど、私が見ている限り、ほかの事務員は正社員も契約社員も同じくらいの仕事を振り分けられている。あれ?

”ただ単に契約社員に切り替えて、区切りがいいところで不要な人材と「さよなら」したいだけなのでは?”
という疑念が浮かびました。
その仕事を辞めた今では真相はわかりませんが、ただでさえ負のハロー効果をもっちり背負っている私は、その疑念を振り払えませんでした。


発達障害では、しばしば二次障害を併発するといわれています。
困難なことにぶつかったとき、それをフォローする術を知らないからです。

それは自分だけではなく、会社といった組織も同じ。
仕事ではどうしても結果が求められるので、その結果に値しないと分かると冷えっ冷えの空気にさらされることもあります。
対応は会社次第ですが、あまりフォローは期待しすぎないほうがいいように思います。

そうなると、誰かのフォローがあるかどうかが分かれ道かもしれません。
私はここでお医者に行けたことで、ようやく自責の念を少しだけ捨てることができました。
「どうして私はできないのか」の理由をつけてもらえた気がしたのです。

今思えば、無理をしていました。
嫌いな食べ物を食べ続けて克服することもありますが、トラウマになることもありますよね。
私の場合、苦手な作業や空間にずっといることで、「こんなダメな私はこの世にいてはいけない」という、何か駄目なスイッチが入った。


そう、仕事を辞めて思ったのですが、
辞めてもよかったんですよ!仕事って!


これは声を大にして言いたい。
当時は、「これ以上の就労条件になることはないし、また最初から仕事を覚える気力もないし、新しい環境も怖いし、この職場の人にも迷惑かかるし……」といろいろなデメリットばかりが目についてなかなか踏み切ることができませんでした。

けれど、いちど駄目なスイッチが入ったときに、母が
「やめたっていいんだよ」
と一言、言ってくれたのです。
住むところだって、実家に行けば何とかなるんだから。
お金だって、少しは貯めたでしょう?少し休んで、新しい仕事を探してみたらいいじゃない。
生きていれば、なんとでもなるんだから。
そう言って、真剣に受け止めてくれました。

経験からの個人的な想像ですが、私と同じタイプの発達障害傾向がある人は、自分の環境を変えるのが苦手だから今の職場にしがみついてしまうのではないでしょうか。

私はきっと母の言葉がなければ医者にかかることもなく、自責の念にとらわれながら前の会社で仕事を続けていました。
いつかは駄目なスイッチに負けていたかもしれません。


よく学校のいじめ問題などで、大人が「逃げてもいいんだよ」といいます。
しかし、私には
”その言葉は美しいけれど、現状を知らずに言うなんて無責任では?”
なんて思いも片隅にありました。

実体験を持って、ようやく分かりました。「逃げてもいい」は本当です。
私は学生時代に挫折を味わわなかったために、「立ち向かう」ことをなんとなく賛美していて、「逃げる」という選択肢に現実味を感じていなかったのだと思います。
逃げることが自分のフォローになるなら、それでいいのです。

もしかすると「逃げてもいい」と言っている人は一度逃げたことのある人なのかもしれません。
それで生き延びた経験から、「逃げてもいい」というメッセージを送っているのではないでしょうか。
今まさに私がそのような心境でキーボードを打っています。


現在は、正社員ではありませんが、別の仕事をしています。
人にかかわることの少ない仕事で、やることも明確なので私のペースで仕事をすることができています。
(それは語る機会があればいずれ)


今の環境を壊すことはとても勇気が要ります。
が、ダメなスイッチが入りそうな人は一度「逃げてもいい」を選択肢に入れるのもアリかなと思います。

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