なぜ路面電車は一度廃れ、LRTが再び注目されているのか?
なぜ路面電車は一度廃れ、LRTが再び注目されているのか?
その答えを求めるのはなかなか難しいですが、
ざっくり言うと「あの頃と色々状況が変わったから」というのが一番適切かもしれません。
中途半端だった「路面電車」
もともと、路面電車というのは今でいうバスの役割を果たしていました。
馬車→路面電車→路線バスといった具合の進化です。
そういった歴史もあって、路面電車は「軌道」という鉄道とはちょっと違った法律の枠組みになっています。
路面電車と比べると、路線バスというのは線路もいらないし、電気を供給するための架線もいらないですから、路線設定の自由度が格段と違います。
そして、路線バスでは輸送力が足りない場合、資本力がある都市では地下鉄化されました。東京、横浜、名古屋、京都など、地下鉄がある都市の大半は前身として路面電車が運行されていて、その地下をなぞるように走っていることが多いです。
輸送力やコストで見た場合、バス<路面電車<地下鉄 といった具合で、路面電車というのは中間的な輸送力であることがわかります。あえてキツい言葉を使えば”中途半端”だったのです。
LRTと路面電車の違い?
さて最近注目されている「LRT」というのは、路面電車の進化系であり、ライトレールとも呼ばれます。 具体的な導入例としては、開業したばかりの宇都宮LRT、富山ライトレール、福井鉄道、広島電鉄などです。
定義が若干曖昧な部分もあるのですが、一般に次の点で路面電車と区別されています。
LRTとは・・・
・路面電車区間と専用軌道(鉄道区間)の両方を運転する
・連接車など、1両単車より大きな輸送力があること
・低床車両である
したがって、導入目的もおのずと見えてきて、
LRTの導入目的
・地下鉄を作るほどコストはかけられない、需要が見込めない
・バスでは輸送力が足りない、あるいはスピードを発揮できない
といった、まさに中間的需要を補完する輸送手段だと言えます。
富山ライトレール(富山港線)の例
富山ライトレールの例が非常にわかりやすいでしょう。
LRT化される前はJR西日本の「鉄道」路線でしたが、10kmも無い路線で本線規格の急行型電車が使われていました。
明らかに過剰輸送状態で、実際利用が少ない時間帯はディーゼル車両が1両で走っていることもあったようです。
そこで富山駅側を路面電車化し、富山駅北部にできたインテック本社前を経由するルートに変更。のちに富山地鉄市内線への直通運転を実現しました。(また、富山ライトレール自体も富山地鉄に吸収合併されました)
富山港線の場合、過剰輸送状態からの適正化であったため、ライトレール化が非常にやりやすい下地がありました。とはいえ、日本でLRT導入への機運を高める先駆け的存在でしたから、なかなかの英断だったのではないかと思います。
日本のLRT時代は来るか?
それなら「LRTをどんどん導入すればいいじゃないか」となってほしい所なのですが、新線開業まで至ったのは今のところ宇都宮LRTぐらいです。
既存路線の改良で実現したのは福井鉄道、もともとほぼ同様のことをやっていたのが広島電鉄、といったところでしょうか。
全体的に共通しているのが、いずれも「車社会の地域」であるということです。つまり、LRT(路面電車)を整備する余裕がある道路幅、車線本数があることも導入条件でもあります。
路面電車の大敵は渋滞です。渋滞がある地域ではたとえLRTでも活躍は難しいでしょう。都心区間が路面電車で、なおかつ都心区間を抜けて需要が発生しうるある程度の市街地があり、かつ鉄道を整備できる土地的余裕があることが理想です。
金沢にはかつて路面電車があったが…
たとえば金沢、岡山でもLRT導入の噂があります。金沢には私鉄の北陸鉄道があり、かつては路面電車も市内を走っていましたが、地下鉄は整備されていません。
しかし金沢の場合、北陸鉄道自体がかつての路面電車の運営者であり、しかも代替交通であるバス路線の運営者でもあります。
また、かつての軌道があった経路はバス専用道が整備されており、これと競合することは必至と思われ、難航することが予想されます。
当然これより狭い道路幅、特に片側2車線程度の道路の都市では新規導入は難しいでしょう。
また、岡山の場合はLRT化を狙っているJR吉備線がディーゼル路線であり、LRT化には電化設備の追加整備が必要になります。これは富山ライトレールとは違う条件になります。
最近では連接バスといった選択肢もあるため、必ずしもLRTがベストではなくなってきています。 だからこそ新規で開業させた宇都宮LRTは、成功するか失敗するかも含めて注目されているのです。