西武がヤバいのか 小田急がヤバいのか?
まず最初に考えたのは、このどちらなんだろう?ということでした。
西武が 東急と小田急の車両を譲渡してもらう
9月26日、かねてより発表していた、西武鉄道が他社のサステナ車両(※)を譲渡してもらうということで、その対象車両が決定したと発表がありました。
ところがいざ発表を見てみたら、東急9000系は事前の条件に合致していましたが、小田急8000系に関しては鋼鉄製車体で、無塗装車体ではありません。
VVVF制御でこそありますが、自らが事前に出していた条件にすら合致していなかったのです。
そのため、西武か小田急のどちらかに何かしらの不都合があった、と考えるのが自然のように思います。
小田急8000は”サステナ”車両なのか?
まず簡単に、小田急8000形についておさらいしましょう。
1983年から87年にかけて160両製造された車両で、登場から既に36~40年が経過している車両で、お世辞にも新しい車両とは言えません。
ただ、2000年代から更新工事が行われていて、制御装置などは後継の3000形、もしくは4000形と同等のIGBT-VVVF制御に交換されています。足元だけ見れば、現在日本の主力の鉄道車両らしい装備となっているわけです。
といっても、その更新から数えても15年前後は経過しています。
その後 新5000形が登場したり、1000形がリニューアル工事を受けるなどして、相対的に小田急の中で8000形は再び”古い車両”の部類に入ってきました。
何編成か廃車も始まっており、唯一残った白色の小田急カラー車両の最期も近いかと、ファンの間でも注目されていた存在でした。
それこそ8000形が全車引退すると、小田急の通勤車両は全車無塗装車両化が達成されるわけです。小田急にとっては8000形こそが、西武の条件で言う”サステナ化”達成の障害だったわけです。
西武の車両は古いのか?
次に出てくる疑問は、西武の車両は他社の車両で置き換えなくてはならないほど古いのか、ということです。
もちろん新101系のように40年走っているような車両もありますが、座席転換対応の40000系、スマイルトレイン30000系、20000系など、無塗装車体・VVVF制御の自社車両も多く製造・展開しています。
ただ、これらの車両の多くは8~10両の本線系統車両であり、支線区などの4~6両の運用には、新101、2000、4000、9000系を使用。この内VVVF制御なのは9000系のみとなっています。
新101と4000は抵抗制御、2000は界磁チョッパで、特に界磁チョッパは他社での採用例が少なくなっていることから部品類の入手が困難になってきていると言われています。
2000系だけでも200両以上が残っていますから、これらを置き換えるだけでも結構なコストと時間がかかるでしょう。しかし登用予定の路線が支線区ばかりですから、もしこれらを中古車両で賄えるのなら、そちらで済ませたいという気持ちにもなるということなのでしょう。
ただ、小田急8000系がそうであるように、車体はそのままで走行機器のみを更新するという選択肢だってあったはずです。
実際、西武2000系は小田急8000系と概ね同時期に製造された車両であり、新2000系と称されるグループについては全ての車両が小田急8000系よりも車体が新しいのです。
制御装置も更新前の小田急8000系は、西武2000系と同じ界磁チョッパを使用していました。(西武は日立、小田急は三菱製)
費用と時間さえかければ小田急と同じことができたはずだと考えると、おそらくその”どちらか”が西武には工面できなかったのではと考えられます。
小田急も想定外だった?
さて、西武と小田急といえば「昔は犬猿の仲だった」というのは鉄道マニアでは一般的に知られていたかと思います。
箱根地域の覇権を巡り、現在も小田急グループが展開するエリアと西武グループ要する伊豆箱根グループが展開するエリアは真っ二つに分かれている状況です。
今でこそ業務提携され、関係は良好になっていると言われていますが、鉄道においては直接線路が繋がっていないこともあり、繋がりを感じるものは乏しかったというのが正直なところです。
こういった状況だったので、小田急の鉄道車両を西武鉄道に譲渡するという話は、鉄道ファンにとっては驚きの声が多くなる要因だったわけです。
ただ、疑問が無いわけでもありません。
小田急には、西武が当初から提示していたサステナ車両の条件「無塗装かつVVVF」という条件に該当する車両がありました。特に1000形は8000形の次に古い車両で、こちらも小田急の中では置き換えつつある車両でした。
順当に考えれば、8000形よりも1000形の方が譲渡対象になりうると予想されていました。
しかし1000形は最近機器更新を実施しており、足回りは最新の新5000形並みの装備となっていました。ただ、これも全車両に実施したわけではなく、一部の編成は更新されないまま廃車となっていました。
1000形で廃車が出始めたのは2020年頃からであり、これまでに98両が廃車されているようです。
つまり小田急としても、既に使いたい車両だけを選別して残ってしまった後だったのでしょう。
もしも西武がもう2、3年早くこの話を持ち出していれば、小田急から譲渡される車両は8000形ではなく、1000形だったのかもしれませんね。
ただ、それなら小田急は小田急で、なぜ1000形を全て新5000形への置き換えとしなかったのか、あるいは、新5000形など作らないで1000形のリニューアルだけでよかったのでは、という疑問も出てくるわけです。
もちろん2020年頃というのは世界中で様々想定外のことが起こった年ですから、何かしらの方針転換があった、と考えた方が自然でしょう。
今回の話「譲渡」という文面にはなっていますが、実態は「売却」だと思われ、少なからず小田急側への金銭の受け渡しも発生していることでしょう。
小田急はそこまでして売却益が欲しい事情でもあるのか?と考えてしまうわけです。
東急は痛くもかゆくもない
最後におまけとして、東急の方にも触れておきましょう。
今回東急から譲渡される9000系は、東急の現有車両の中では最も古い車両群であり、もともと設備投資計画で新造車両による置き換えが発表されていました。
したがって廃車予定の車両に引き取り手が現れたわけですから、渡りに船だったわけです。西武の話が出た時も、譲渡対象予想の中で名前のよく挙がって上がっていた車両でした。
そもそも無塗装車体を積極的に使い始めたのはまさに東急であり、VVVFを本格採用したのも、この9000系が最初と言えます。
その車両が西武の新型車両として(中古とはいえ)再デビューするのですから、いかにこの車両が当時の最先端だったかがわかるのではないかと思います。
おそらく西武への譲渡にあたり短編成化改造されるので、制御器なども交換されてからの譲渡となると思われますが、全てを新造して調達するよりは低コストで済むことでしょう。
この改造も、東急の関連子会社が担当するでしょうから、東急にとっては実にうまみのある話だったと思われます。
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