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仁淀川町池川 医院建築の古民家

「土佐の名建築」で取材を受けたんだよ~誰か借りてくれないかな~

と、所有者様からご相談を賜りまして、早速下調べをして内覧へと伺わせて頂きました。

その本は、高知県立図書館に蔵書としてある事を発見しました。
1997年刊行ですから、今から27年前。
「長州大工の民家 武家風玄関に風格」の題名で紹介されていました。

書籍 土佐の名建築

巻末の当時編集に携わった筆頭執筆者に知人の名があり、連絡をしましたところ、ここの現場は見ていないので是非見てみたいとの事で同行して下さいました。

当時の内見記事

このサイトの最後に、同行下さった建築士 後藤孝一氏による所見を載せておりますのでお読みくださいませ。

県道494号線沿いにあります。
「池川茶園」のすぐそばです。
高知県吾川郡仁淀川町土居680

長年空き家と聞いてはおりましたが、きれいに刈り込まれた日本庭園の奥にそのお家はありました。

外観


正面玄関

築120年の堂々たるお家です。
現在の所有者様の御祖父様が医院として建てたそうです。

漆喰壁

一階の屋根と二階の漆喰壁の間には、装飾が施されており、左官職人の意匠技術を感じます。

大正時代から昭和にかけての医院建築は、ほとんどが診察室を洋館にした和洋折衷が多いのですが、
ここは、純和風建築の医院です。

玄関の屋根の佇まい

軒高の玄関に家紋があります。

家紋

所有者様のご先祖様は、池川番所のお役人だったそうで、この街道沿いの土地を所有し、賃借人に好きなように建物を建てさせ、地代を取っていたそうです。

玄関向かって左側にある診察室には、玄関の戸袋がガラス扉の中に配置され、板金細工が施されています。


戸袋の装飾
家主様と調査隊とご近所さん

早速、中へ入ってみましょう。

正面玄関の雨戸をあけて入ってみます

武家屋敷風式台形式の玄関です。

襖という襖は全て絵師に描かせており、状態は良いようです。


絵師に描かせた襖絵

和室の壁一面が水墨画になっているお部屋がありました。

壁には水墨画

欄間は、松林に波とあずま屋が施され、


欄間「松林に波とあずま屋」

床の間の戸袋の襖絵と合わせているようです。

古民具もどっさり

数々の古民具たち

機織りの道具も保管されています。

機織り道具

客間の書院造

書院造の戸を開けてみる

内覧にお越し下さったお客様の後ろ姿を映してごめんなさい。(^)

柱や梁は太く、状態は良好のようです。


2階への階段は、古建築にしてはゆとりのある幅を持たせています。

2階へ上がってすぐに、当時の診察台がありました。

当時の診察台

寝返り打つと落ちるんじゃね?(-"-;)

大名級の長持 デッカイ!

長持ち

2階の天井は低く、台風に備えて、外から板張りがされていましたので、開けることはできませんでしたが、窓周辺にはぐるりとひじ掛け欄干が巡らされて、さぞや眺めは良いことでしょう。

2階の窓全体に高欄が張り巡らされています

一旦外へ出て、外周を確認してみる事にしました。

美しい漆喰壁です。


美しい漆喰壁

瓦は葺き替えられており、葺き替えの必要はないようです。

瓦の様子をチェック

建物東側は、駐車場です。縦列で4~5台は置けそうです。

駐車場

建物西側を見てみましょう。

建物西側の外壁の様子

西側にも空き地があります。

家庭菜園にしたり、テラスにしても良いかな。

建物西側の空き地

建物の西手前にある道路沿いの倉庫は、まもなく取り壊します。
ここも駐車場にすることができますね。

道路沿いの小屋

令和2年7月上旬 倉庫を撤去しました。↓スッキリ お車がさらに沢山停められるようになりました。

道路沿いの小屋を壊した後
石積みがかわいい

小屋を取り壊したら、かわいい石積みが見えてきました。

普段このお家を管理して下さっている方も来てくださいまして、お話を伺う事もできました。

↓屋根の吹き替えの時に降ろした鯱(しゃちほこ)だそうです。

元々あったシャチホコ

なぜか、お向かいさんの玄関塀の上に…。

普段はこちらのお向かいさんが、草刈りや空気の入れ替えなど管理をして下さっています。


鯱(シャチホコ)


さて、ここのお家賃…家主様からのご提案で・・・「1万円でいいよー!」

エッ⁈

(`・ω・´)ゞ

「その代わり現状のままでね!」

そりゃそうです!当然です!家主様。

ちょっと一言、これについて語らせて頂いてもよろしいでしょうか?
弊社、古民家専門不動産仲介業をしておりますが、

借りたい、買いたい、カフェやりたい、田舎でゴトゴトしたい・・・と数あるお問い合わせに対して、(ちなみにゴトゴトって何ですか?…)

実際のところ「ご予算は?」と聞くと、大体の方はお答えいただけないんです。お話を伺っているうちに、実は「家賃1万円も払えないかも~♪」などとのたまう呆れた方も・・・。

客;「山の中の一軒家で、平日は託児所として運用して、週末はカフェと畑仕事をできる古民家無いですか~?」

弊社;「あの~山の中には、まず子供さんが人っ子一人いないですけどいいですか?…。通勤途中にわざわざ山奥へ子供さんを預けには来れないと思いますが…。」

何より作物は毎日手を掛けてやらないとたちまち雑草まみれになります。
託児所とカフェと畑仕事をお一人でされるのはなかなか凄くパワフルな方ですね…。
いや、ムリッショ。

さらに、あるご相談者は、
客;「古民家の造りって、敷居が高くて邪魔なんですよ。障がい者やお年寄りにもカフェを利用してもらいたいから全面バリアフリーにしてもらえません?そしたら借りてもいいですよ~。」

それはどうぞご自由に、ご自身のご負担でやってください。
その場合、古民家じゃないほうがよろしいんじゃないでしょうか?疑問。

せっかくなんでもう一つ、

客;「安くてきれいで街なかの古民家ないですか~?アタシ虫とかダメなんですよー」
という面白いご相談も。

さらにもう一つ、

新型コロナウイルス感染症で外出自粛要請が出た翌日に、怪しげなイベンターさんから
「古民家の資料全部下さい!取りに行くんで~!
テキトーに見繕って内覧もさせてもらえます~?」

(。-`ω-)〆 思い出しただけで手がワナワナと震えてきます。

古民家の所有者様はご高齢の方が多く、大勢が押しかけ内覧する事で感染のリスクもあり、遠く県外で離れて暮らすご子息様方も皆心配されておられます。

所有者様や他者に対する配慮が無いのは、本当に困ります。

冗談じゃなく、ホントにあった話です。

これから古民家を利用して起業したいという方の中には、店舗改装費用として数百万円は算段するべきところを、全く貯金無し、融資の相談も行ったこと無い状態で、古民家を欲しいとの問い合わせが多くて、どうお答えしたら良いやら、困ったものです。

先ずは、銀行へ行って下さい!

あなたのその事業にいくら経費が必要で、誰が融資してくれるのかどうぞ判断してもらって下さい。

という事です。

「古民家は古いから安く借りられるんじゃない?
広いしカフェとかお店した~い♪」

何もかも家主さんが全て直してくれると思ったら間違いです。

古民家に限らず、事業用店舗として借りる場合の内装改修費については、当然借りる側の負担です。

そもそも古民家の修復は、屋根の修復だけで数百万円、水回りを設営するだけでも数百万円かかります。

家主側が賃借人へ貸すために家を修復するとして、家賃が数万円ごときでは、その費用を賃料で回収するのにおよそ20年以上掛かっても元が取れません。

家主さんは何のために貸したのやら、大赤字です。

そこのところを踏まえて、改めてこの物件は、
家賃;1万円

現状のままお引き渡し;好きなように改修して結構。
壊して新築建てても結構。
途中で返してなんて絶対言わないからちゃんと文書作成します。
ずーっとずーっと借り続けて下さい。

以上


すぐそばには「池川茶園」のカフェがあります。

清流仁淀川の支流土居川沿いです。

この日は、アユ釣りで賑わっていました。浅く透き通る川です。

土居川
川沿いのテラス席でパフェを食べました

池川茶畑パフェ食べました。
ポン菓子の上に水まんじゅうや抹茶生キャラメルが乗っけてあり

激ウマ(^^♪

さて、恐らく今回のこのお家も、登録有形文化財として申請する価値はあります。

現在空き家ですが、このお家にいくら投資して、掛けた費用をどうゆう事業で何年で回収できるか、

また、有名どころとなって地域貢献できるか等、物件や周辺環境を見て、インスピレーションでビビッと未来が描ければ、古民家再生は楽しいのです。


土居川を臨む

最後に

「土佐の名建築」筆頭執筆者 建築士 後藤孝一氏 所見

高知新聞社発行の「近代・すまい散歩ー土佐の名建築」という冊子に「武家風玄関に風格」というタイトルで紹介されている。仁淀川町(旧池川町)にある医院建築として建てられた古民家である。1989年に取材したときに、築80年以上という話から、もうすでに「100年名家」の風格がある。

刈り込まれたサツキや椿が植えられた前庭の奥に、式台玄関という武家屋敷で見られる立派な玄関がある。玄関の奥には式台の間があり、その右手に床の間と濡れ縁のある座敷がある。ここまでが接客空間で天井も高い。玄関の左側はガラス戸のある出入口があり、診療室や薬剤室、居間、台所と生活空間が続いている。この上に二階があるため、天井が低い。

室内には多くの家具、建具が現存し、床下を補強し新しい畳を入れれば、襖で仕切られた開放的な和室空間が広がる。屋根瓦は新規に葺き替えてあるので、雨漏りの恐れはない。 以上。

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