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ヨロイマイクロノベルその25

241.
黒い獣の赤ちゃんを二匹育てる。「フーダニット」「ホワイダニット」と名付けた。無邪気で荒々しく、よく眠りよく遊びよく食べた。成長するにつれ、いつか二匹から殺される確信は高まっていく。「どのようにして」はもちろん噛まれてだろうが、それ以外を想像すると愛おしさは増した。

242.
「つちのこを見つけたら100万円」。当日、つちのこだと自称する長身の男が現れた。普段何食べているわけ? 主催者が尋ねる。ゼリーですかね、緑色のがおいしいです。住んでいるところは? と別の係。友を売るわけにはいきません。男は号泣する。仲間想いではあるのかもしれない。

243.
息子からせがまれ、オムライスを作る。ケチャップでメッセージを書きたいらしい。お皿を前にして目を瞑らせられる。まず蓋を開ける音がした。ママありがとう。息子は声に出しながら書いている。かわいいが、いつまで経っても終わらない。いつからかおばけだらけのお話が始まっている。

244.
伯父主催のパーティー。入り口で9×9のビンゴカードが配られる。一等は乳牛で、できれば持ち帰りたくない。ビンゴマシーンの効果音も派手すぎる。開始から3時間経っても誰も当たりを名乗り出ない。司会役の従姉は飲みすぎてべろべろだ。カーテンの奥から牛の鳴き声が聞こえてくる。

245.
縁側に亀がいた。これはジョークなのですが甲羅干しの後にはコーラを飲みたくなります。亀は笑う。そもそも曇りだった。甲羅の紋様は二色で青を赤が包囲していた。いやな配色だ。戦争が近いみたいです。亀は悲しそうに言い、本当に涙を流した。不気味な鉛色の粒が次々とこぼれてきた。

246.
出前の様式美は失われてしまった。そんな嘆きにお応えするべく、オプションとして意図的な遅延、さらにお問い合わせに対する「今、出ました」の声をお届けすることができます……ということなのだが、本当にばたばたしているのか、呼び出し音はずっと鳴り続け、その間にピザは届いた。

247.
墓地の塀から紫陽花が顔を出す。その青紫は丸くふくれ上がっている。真下をゆっくり通り抜ける。鍔片の影はひんやりと冷たい。一歩ごと、息を飲むような音が上から鳴った。最後のほうは悲痛ささえ帯びていた。引き返してももう何の音も聞こえない。紫陽花の色はより濃さを増していく。

248.
パンダが泣いている。七夕用の笹の葉を全部食べてしまったらしい。お腹空いてないのについ癖で食べちゃったんです。わが家のプラスチック製の笹に短冊を飾らせてやる。すでに家族の分はつるしておいた。パンダは偽の笹を前によだれを垂れ流す。その短冊には「快食快眠」と書いてある。

249.
中空に浮かぶ私の前に二枚のドアがある。各々「熱帯夜」「明太もちグラタン」と記されている。ほぼ無意識で熱帯夜の扉をくぐると落下する。汗をかいた状態で目覚める。冷房の電源を入れる。もちグラタンを選んでいたらどうなったんだろう、という疑問がちらつきつつ再び眠りに落ちる。

250.
中空に浮かぶ私の前に二枚のドアある。各々「熱帯夜」「明太もちグラタン」と記されている。グラタンの扉をくぐり、落ちる。刹那、私はすでに熱々のグラタンを頬張っていた。自由を奪われ、黒子による次の一口も待機。熱々すぎて飲み込んでもそのままでも地獄。そもそも普通に熱帯夜。


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