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ヨロイマイクロノベルその24

231.
瓶のキャップを集める男と七秒で恋に落ちた。男はすべての指にキャップをはめていた。どれがどの調味料の瓶についていたか教えてくれた。三分で恋は冷めた。わたしは一度もうまく外せたことがない。ずっと引きちぎってばかりだ。お別れにキャップを一つもらった。ポン酢のやつだった。

232.
「ミイラ以外通るべからず」。とんちだ。妻の実家にやっと呼ばれたというのに。俺は薬局へ走り、大量の包帯を購入してきた。全身に巻き付け、チャイムを鳴らす。誰だ、と問う声。ミイラです。馬鹿丸出しの答えだが、包帯でくぐもった声はどこかそれっぽくもあった。扉は開かなかった。

233.
裸同然だった古木がにぎやかだ。ふわふわの物体が枝という枝にまとわりついている。ものの名を叫ぶとその形になって落ちてきた。皆が祭りのように騒ぎながら、楽器や果実や貴金属、淡いドレスに変えていく。「アイ」。誰かがつぶやく。ふわふわはふわふわのまま、中空で朱く染まった。

234.
青いうさぎを見においでよ。友達以上恋人未満から誘われた。でも見せられたのは赤いきつねだった。色違い。そう指摘するだけで精一杯で、緑のたぬきも出てきた。お湯を注いで赤と緑を交互に食べる。目違い。分類上の指摘をすればよかったな、と思いつつお揚げに染みたつゆをすすった。

235.
もち村のもちもち祭りは革新を止めない。白く丸いもちを投げ、どれだけ大きく曲げられるか。定番化したかと思われた儀式も変わり、今や投げたもちを消すようになった。参加者たちはもちを投げては消し、投げては消す。祭りが終わると腹を空かせて帰宅し、温めたバターロールをかじる。

236.
深夜、無人のヘルスメーターがぴっと鳴る。すぐ駆け寄るとモニターには0.0と表示されている。やだこわい、の時期はとっくに過ぎた。幽霊が乗っているとして、ありもしない体重を気にするなんて、かわいいくらいだ。むしろ反応するヘルスメーターのほうが、今となっては、やだこわい。

237.
何の恨みを買ったのか、文字化けがひどい。僕の名前は「ヒポポタマス」になってしまう。「河馬」だと「最強の動物」に化けた。蘊蓄の気配がしたので「物知り」と打つ。「…ぽっ」とオノマトペで照れてきた。翌朝、三点リーダーは二つ並びに変化していた。どうやら校正まで入るらしい。

238.
「そろそろ川流れしちゃおうかな」。河童がつぶやく。見飽きているけれど、友達だから仕方ない。いいね。僕は手を叩く。たたたと岸まで河童が走る。手を振ってから川に飛び込む。わあ、わあ、わあ。叫びながら流れていく。ときどき無性にやりたくなるらしい。三日くらいで戻ってくる。

239.
「こちらがヤマモトゼンジの私室でございます」。黄色い制服姿のガイドが手旗を掲げながら入って来た。ぞろぞろと団体が続き、部屋はいっぱいになる。外国人もいた。狭い室内を行き来してがやがや騒ぐ。数人から握手を求められた。やがて彼らはいなくなる。すまない、僕は二宮誠司だ。

240.
「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」。幼馴染の山田は立ち去った。そして本当に結婚した。すごく、いい式だったな。思えば昔から有言実行だった。マラソン大会でも「一緒にゴールしようね」と言って爆走、ゴール前でずっと待ってくれていた。結果、二人揃ってブービー賞だった。

おまけ(番外編)
ミダス王「なんでも金にするよ」
サキュバス「レベルダウンさせるよ」
ミ&サ「今日はオリンピックのお手伝いに来ました!」

ミダスに大量の丸紙が渡され、金メダルに変えていく。
サキュバスがそのうちのいくつかを銀メダル、銅メダル、とダウンさせる。

午前の作業は順調に終わる。

ミダス王「午後もじゃんじゃん金にするからね」
サキュバス「結構この仕事向いてるかも」

集中力の切れたミダスは職員をうっかり金の像にする。
サキュバスはレベルダウンの調整を間違え、布のメダル、馬の糞メダルなどを量産する。
金の像も砂の像に変える。

責任者「もう来ないでね」


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