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年越しソバット

年越し蕎麦はいつ食べればいいのか

それを「12月31日、大晦日の1日のうちのどこかで食べればいいのだ」と知ったのは、いつ頃だっただろうか

それまでは間違えていた、勘違いなのか、いずれにしても間違えたままに思い込んでしまっていた

日付の変わるギリギリに、だいたい23時から23時45分までの間に食べて、残りの15分を「あけましておめでとう」に備える

なぜそんな風に思い込んでしまったのだろう

ネット上、どこを探してもそんな記述はないし、文献もなかった

考えてみれば、年越しに向け、紅白歌合戦も佳境に入り「ゆく年くる年」にバトンタッチしようという時間帯、たいていのお蕎麦屋さんはもう閉まっている

24時間やっているチェーン店の蕎麦屋も増えたが、別に年に一回の「年越しの瞬間に蕎麦を」のために、常日頃からコツコツと営業してるわけではあるまい

なぜそんな勘違いをしてしまったのだろうか……思いを巡らせていると、ふと、実家の近所の天ぷら屋を思いだした

毎年、年末になると、自慢の天ぷらと手打ち蕎麦をセットにして、常連客や得意先に配るからだ

配るというのは、妥当ではないな
お店に取りに行かないといけない。その役まわりを、年内に実家に帰れているときは担当していた

聞くと秋頃からもうほぼ半年ほど、店を閉めたままだという

なんの張り紙もなく、昨日まで営業していた風情のままなので、母も近所の人も「どうしたのだろう?」と事あるごとに気になっているのだそうで

店主の年の頃は40代後半、同世代だと思われる奥様と2人で営んでいた。たしか中学生になる娘がひとりいたとおもう

母が何度か電話をしてみたらしいが、携帯電話に転送されるだけで、誰もでない

電話に関していえば、営業しているときも、時間外は一切対応しておらず

しかもたった2人で営業しているものだから、と、忙しいときは電話をとらない

「電話で予約をするのがなかなか大変だった」と補足する母

田園都市線の青葉台駅にある実家は、駅から歩いて15分ほどの住宅街にある

歩いていける範囲だと、コンビニかファミリーレストラン、回転寿司と、焼肉食べ放題

新興住宅街などといわれて始まった田園都市計画も、いまは昔

半世紀を経て、人も飲食店も世代交代

小学生から中学生の子供のいる、いわゆる「家族連れ」をターゲットにした「コスパ」重視の飲食店に移り代わっている

緑が多く子育てがしやすい街づくり

東急の創業者の狙いと願いは、ここに極まれり、見事に成就しているわけだ

そんな世代交代の最中にあると、

多少お金がかかっても
ちゃんとしたものが食べたい
しかも少量でいい

という若いファミリー向けとは真逆のニーズを満たす「もっともらしい店」は淘汰の憂き目にあり

それでも生き延びていた件(くだん)の天ぷら屋は、貴重な存在だった

行く宛を失った裕福な高齢者層を取り込みむ

我が家も、何かのお祝いや節目といえば予約した

店主を囲むカウンターに座し、目の前でひとつひとつ丁寧に揚げられる天ぷらに舌鼓をうった

そういった世代交代の転換期を経てからは、ひとり勝ちの様相を呈し、そこそこ繁盛していたはずのなのだが……

いっても飲食店は、日銭を稼ぎ続ける商売だ

従業員を雇って、自分は経営に、というスタイルではない限り、日々、仕入れ、仕込み、揚げるの繰り返し

昨今のウイルス騒ぎで、強制的に休まざるを得ない中で、緊張の糸が切れてしまったのかもしれない

きっと同じように店主を思い出している人たちがいるのだろう

上に下に、右に左に、いかに揺れ動こうとも「続いている」ということは、素晴らしいことだ

「継続はチカラなり」

続いているというだけで、もはや天職なのである

もったいのないことだが、しょうがない

天ぷらのツユにはやはり大根おろしと、生姜がないとね

本来なら「しょうがない」なんて、それでは済まされない話

なにか別のカツ路を見出してくれていたらいいのだが……揚げ物だけに……

今年の年越し蕎麦はどうするのかと聞くと、隙間をぬうかのごとく「お持ち帰り専門の手打ち蕎麦」のお店が近所にオープンしているのだという

繁盛しているそうだ

ここからはすべて想像、母から聞いた限られた情報から勝手に推測した

店主は女性、最近まで会社員として勤務していた

リモートワークで在宅勤務となり、気分転換に蕎麦打ちを始める

時を同じくして、不動産屋を営んでいた親戚がウイルス騒ぎで店舗での営業を見合わせていた

蕎麦をうつというのは「粉」がすごいらしい

あたり一面が蕎麦粉まみれ、真っ白になってしまう

「営業していないなら、お店を使わせてもらえないか?」と打診すると、案外とすんなり許されたそうだ

特にいわれなかったそうだが、代わりにいくらか使用料を納めるというと、国から営業補償がでているから問題ないよ、と

しばらくうっていると、性に合っていたのか、そこそこのものができた

周りにすすめると絶賛される

打ったなら、売ってみれば

個人的な気晴らしで始めたことで、使っている蕎麦粉も採算は度外視して、手に入る中で一番のものを仕入れている

それを「お得に安く」ではなく、それなりの高価で売りにだした

マーケティング戦略についての仕事をしていたのか、それとも、もともと確信犯で、ウイルス騒ぎの中、おうちグルメ需要を狙ったのか

いずれにしても、ウイルス騒ぎで飲食店に行くという楽しみを奪われていた「さらに行く宛のなくなった裕福な高齢者層」に受けた

予約しないと買えないシステム

電話をすると、たいてい3日後か4日後を指定されるという

一人前900円、千円ではないのもまた絶妙なのだろうか

取りにいかないといけないし、細かいルールを読んだ上に、茹でないと食べれない

あと数日で今年も終わるというのに、天ぷら屋は、相変わらず張り紙ひとつなく、昨日まで営業していたかの風情で閉店したまま

ソバに蕎麦屋はなかりけり

母がダメ元で「細うで繁盛中」のお持ち帰り蕎麦屋に電話してみたところ

「確保できる」という

その代わり「ひとりでやっているので」というお決まりの口上に加えて、当日はお金のやりとりをしたくない、する余裕がない

事前に支払いに来てくれるなら、という条件付き

ダメ元、と思わせてしまう時点で見事なもの

「なんとか確保できます」も、なんという見事な殺し文句だろうか

そしてさらに見事なのは、事前に支払いに行くなら「その日も買おう」となる

少なくとも母はそうなった

どんな女性やっているのだろう、一度、ソバで見てみたい……

その後、母から追加情報が入った

どうやら、赤坂で1日2組限定で営業している高級なお蕎麦屋さんのスタッフの女性らしい

《 ぜんぜんちゃうやんけ 》

お店が営業できない中で、打開策のひとつとしてはじめたということだろうか

なんにしろ「うまい」商売をソバではじめたものだ

あ、そうそうもうひとつ、1人前900円ではなく、2人前1350円だそうです

いずれにしろ、母いわく「高いのがミソよね」と

はてさて、年越し蕎麦は23時以降、除夜の鐘までのギリギリに食べるものだ、と、なぜ思い違いしてしまったのか

一向に思いだせないままだ

夜中に意中の女性でも誘い出したかったのだろうか

それであれば「初詣に行こう」で事足りる

明治神宮は、あまりの人出で後戻りがきかないときく

神田大明神のあたりの初詣が妥当か

意中の女性とであれば、本来、苦痛でしかない行列も、甘酒でも飲みながら、よいよいといい思い出になるだろうさ

コロナ対策とやら。今年の参拝はどうなっているのかしらね

まぁ、いい、そのうち思いだすだろうし、思い出したところで何があるというわけではない

今年は実家にも帰らず

誰もソバにおらず

想ひでに耽る時間だけがソバにいる

さてさて、予約した蕎麦でも取りに行きますかね

今年も一年ありがとうございました🍶

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