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ガチパラっ!(16)

登場人物列伝、本日は

棟方 蕪蕪(むなかた かぶか)

本人は「カフカ」と名乗っている。海外にいるときは特に。正確には「かぶか」

「下の名前の読み方は、株の価格と同じだ。ムム、でも、かぶかぶでも、ブカブカでもねーから」

これが本名なら、命名者はかなり粋だ

見た目から推測すると35歳くらいだとは思うが、正確な歳はわからない。38だと、言っていたような気もする

大使館の職員だったり、外交官だったり、時に内閣官房付きだとか、内閣情報官。肩書きはその時々によって異なるが、本人の弁を借りるなら

「嘱託(しょくたく)、食いもんを乗せる台のことじゃねーぞ。要するに契約社員みたいなもんだ。雑用係だよ、雑用係。なんでもあり。それでいいんだよ」

彼がどんな人間なのか表すエピソードとして知る中で、ロシアでのことが、頭を掠める

日本大使館の参事官の娘と、その友人、合わせて3人がナイトクラブに遊びに出かけた

そこで、ナンパされたのか、薬を盛られたのか、いずれにしろ、連れ去られたカタチとなった

連れ去られたというより、そもそもナイトクラブに行ってる時点で、ナンパもお持ち帰りも、別に違法なことではない

現地の警察も、はいそうですか、とは動いてはくれない

何より、三人とも未成年で、ナイトクラブに行ったこと自体をあまり明るみにせず、穏便に済ませるなら済ませたい、という参事官側の負目もあった

部屋で寝てると思っていたのに、抜け出していたのだ。それに気がついて、慌ててGPSで追跡した

本人たちには伝えてないが、セキュリティ上、スマホにGPSが仕込んである

ナイトクラブのマネージャーに金を渡して、情報を集めたところ、なかなか厄介な連中にお持ち帰りされていたことが判明

GPSは、そのアジトとなっている建物を指していた

本人たちが望んで行ったナイトクラブでのことだ

この際、セックスとドラッグは仕方がない。急に我に返って余計な抵抗などせず、状況をクレイジーに楽しんでさえいれば、痛い目をみたり、殺されることはない

とりあえず、棟方と大使館に危機管理担当、要するに自衛隊から出向してきている護衛官、それと現地のコーディネーターの3人で、ナイトクラブへと向かい、そしてアジトへと向かった

車から降りると、棟方は、なんの躊躇もなくアジトとされる建物に向かって歩きだす

そして、徐にベルを押した

扉が開き、すんなりと中へ通された

防犯カメラで確認されたのだろうか?

4人ほどの男たちが、黙ってこちらをみているが、ボディチェックもされない

扉を開けた男が、さらに中へ入るようゼスチャーする

続きとなっている部屋の扉は開かれていて、2つほど奥のソファに座る男

「なんの…」

「ロシア人ってさ、ホントにロシアン・ルーレットとかするのか?」

たぶんそのボス風の男は、なんの用だ?と聞こうとしたんだろう、が、棟方が食い気味に割って入った

「おい、棟方、お前、何言って…」

相手の方の反応の方が早かった

「はっ?お前いまなんて言った?」

「だからさ、ロシア人は、本当にロシアン・ルーレットをやったりすんのか?って聞いたんだよ」

「お前、正気か?一応もう一回だけ確認してやる。お前、いま…」

「ロシア人、ロシアン・ルーレット、やるの?」

コーディネーターはすぐにでも逃げ出したかったし、さすがの護衛官も声を失っているようだった

「どうやら本気らしいな。持って来い」

棟方は差し出された銃を事も無げに受けとり、当たり前かのようにスムーズに、自分の眉間に当てる

そして、なんの合図もないままに、そのまま、なんのためらいもなく、引き鉄を引いた…あまりに自然に…しかも連続で…それも3回も

弾は…出なかった、1発も

「お前の番だ」と銃を相手に渡そうとしている

しばらくは、そこにいた全員が呆気にとられていたが、突然ボスらしき男が笑いだした

「聞いていた通りのヤツだな」

聞いていた?なんのことだ?どういうことだ?

そのあと、3人が上の階から連れてこられ、何事もなく解放された

外に出ると、あきらかに警察関係者であろう車が2台と、救急車が止まっていた

棟方は、警察車両の前に立っていた2人と、なにやら話し込み、しばらくして戻って来た

娘と友人の3人は、念のため救急車で病院に行かせるという

以上が、その現地のコーディネーターから聞いたエピソード、まさに「頭を掠める」話

あとでわかったことだが、棟方が事前に警察にいる知り合いに連絡をつけていた

そして「厄介なヤツら」に金で折り合いをつけてもらっていたという事らしい

「警察とマフィアはプロレスみたいなもん。助け合って生きている。同じ業界、同じ穴のムジナだ」

ーー だからって…事前に説明くらいしておいても

「それにな、いいか?
ああいう連中ってのは、ハッタリが好きなんだ
クレイジーなハッタリが
というよりそれで成り立ってるようなもんだ
だから、ああすれば『やるじゃねーか、お前、ワッハッハ!カンパイ!』
ってな具合で、あとはウオッカでも飲んどけば万事OKなんだよ」

ーー ホントに弾でたら、どうするつもりだったんです?

「その質問がさ、ナンセンス
よく考えてもみろよ
そんなのわかるわけない
だってそうだろ?
そのときは、もう死んじゃってるんだからさ
死んでるんだから、そのあとのことなんて俺が気にすることか?
気にしても意味ねーんだよ
もうなんも出来ないんだし
どうするもこうするもないってこと」

ーー 正しいような、正しくないような

「叶うなら、桜のように華々しく散りたい」

ーー 咲きたいんですね、とりあえずは

「死にたくて、はやく死にたくて、なのになかなか死ねなくて、仕方なく生きてんだよ」

ーー あなたがどうやったら死ぬのか、イメージすら湧かないですがね

彼がフランスの外人部隊に入ろうとして、間違えて入ってしまった傭兵団の話が、やたらと面白かったので、機会があればまた語らせてください

(17)に続く☟


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