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防塞の要災

やまない雨はない
だといいのだが、
とけない氷はない
だと、ちょっとだけ厄介なことになる

永久に溶解(とけ)ないからこそ「永久凍土」と名付けられたシベリアの氷が溶けて2年目の2021年冬

人類が知る限り、初めて溶解た

溶解ないはずのものが溶解たのだから、致し方なかろう

やたらと雪が降る冬になる

天気や環境に関わる人間であれば、桶屋が儲かるシステムよりも、何段階も少ないステップで容易に予測できる

案の定、日本海側や山間部は、年の初めから予測していた通りの大雪に見舞われている、そんな午後

テレビもネットも、そんな大雪のニュースばかり、ある意味、平和だ

平和だ、などと呑気なことを言ってられるのは、いまいる東京が晴れているからで

雪どころか雨の気配すらも感じさせないくらいに雲ひとつない青空が拡がっている

陽当たりのいい部屋にいると、暖かすぎて眠気すら催してくる

そんななか今日も「文豪になりたい」そして「文豪でありたい」と、マンガだ本だ、片っ端しから読み浅り、読み耽っていた

そして、ふとこんなプロットが浮かんだ

シベリアでは、永久凍土が溶解た影響で、とてつもなく大きな穴ができていた

そこで、ロシア政府関連の研究所がこんな募集をだす

調査をしただけで、日本円で約100億円の報酬をだす、と

その結果如何に関わらず

しかも、英語で、海外に向けて

そもそも、ロシアは、科学に誇りを持っている。そして秘密主義ともとられるくらい情報統制されている国だ

だからこそ「余程のことがあっても」他国に調査依頼など出さない

それはもう「行けば死ぬ」
もはや「死ね」と言っている
死刑宣告だからこそ、ロシア人以外に依頼するとも受けとれる

が、チェルノブイリでも、勇敢な関係者が「死ぬ」とわかっていても、炉に入り、バルブを回したというのをドキュメンタリでみたことがある

言いたかないが、政治によって謀殺から飢え死まで、物凄い数の人民の命を粗末にしてきた歴史もある国だ

そこまで、自国の調査員たちを護るだろうか?

展開として、氷の中でも生き続けることができる「謎のウイルス」あたりで、調査員が……

というお決まりに近い展開

ここで、ポイントとなるのは、たとえいかなる題材だとしても、その手腕でどうにかしてしまう

ねじ伏せるなり、足すなり引くなり、混ぜこぜるなり、カキまわすなり、換骨奪胎してしまえる者

それこそが「文豪」なのではないか、と

たとえそれが、過去しゃぶり尽くされた「忠臣蔵」であったとしても

朝起きて、歯を磨きました

ただそれだけのことでも、大長編を描きだしてしまう、読ませてしまう

文章のみで、満たし狂わせるカタルシスを生みだしてしまう

それに関しては、ひたすらに
書いて書いて書いて書いて書いて

磨きあげていくしかないのかしら

せめて、コリに凝ったウイルスでも、と思うわけだが、2021年冬、みなウイルスには、ほとほと疲れ果てていると思われ

強力な殺傷能力を誇るウイルスよりも、じわじわと押し寄せてくる「風邪 or Dead」の方が、人類にとっては脅威なんだってことがバレてしまった昨今

それでもね、読ませてしまうのが「文豪」……以下類似にて割愛

命でも賭けたら文豪になれるのかしら

ふと、こんなプロットが浮かんだ

「いやな予感がしていた人がいたら、申し訳ない。そのフラグ、回収させていただきます」

「もう少し淡々といえるか?こうもっと棒読みでさ。その方が怖いから」

もう死にたい、と思っていた「T」は、引退したいと願っている稀代のテロリスト「G」と出会う

聞くと、あのテロも、あの犯罪も、あの迷宮入りした事件もGの所業だという

Gは、身代わりにTを、華々しく大観衆の前で殺すことで引退する計画をたてた

夢も希望も金もない、そんな程度のことで死にたいとか思い詰める日々から一転

あのテロも、あの犯罪も、あの迷宮入りした事件も成し遂げた、稀代の大犯罪者となって逝き、うまくいけば歴史に名を遺して、語り継がれちゃうかもしれない

Tからすれば願ったり叶ったり

残された家族……とは言っても、父と母だけだが、も納得どころか、いきなりの展開に鼻高々なことだろう

親孝行とはまさにこのことよ

「どうやって証明するんです?あれもこれも自分がやりました、って」

「警察とか関係者しか知り得ない証拠の品をね、毎回、記念品として遺してある。それを見せればいいだけ」

「なるほど」

それからは、なかなか大変でしたよ

なにせ、あのテロも、あの犯罪も、あの迷宮入りした事件も担当した稀代の大犯罪者、その身代わりになるってことで

こんなにも大変なことなのかと

鍛えましたよ、痩せましたよ、勉強しましたよ

基本的には、ひと揃いお披露目が終わったところで、爆死か、射殺か

でも、万が一、万が一ですよ、捕まったときのことをおっしゃるわけです

最大の問題は、皆さんにご納得いただけるかどうか

それだけの犯罪を成し遂げてきた偉大なる人物として

Gは言います

「叶うなら、一度か二度は、脱獄してみせてほしいものだよ」と

そして悲しそうにこちらを観るのです

そんなときも、いいませんよ、けして

「なら、引退しなきゃいいじゃん」

どんなにつらいときでも、けして

もうGは自尊心の塊のような人でしたから、訓練も並大抵のものではなかったでしたから

あるときなんて、ホテルのバーで、麗しき美女をナンパして、部屋へとしけこみ、大満足いただいて送りだす

そんな芸当までできるようになったのですから、それはそれは内臓もすべて裏返るような、実際に腹が裂けて……

まぁ、いいでしょう

長い長い道のりでした

ついに、ついに、ですよ
散る散る満ちる、そんな絶好の舞台が決まったのであります

初舞台にしてラストステージ

可能な限り跡形なく、見事に散る散るラストシーンに向けたシナリオは、綿密にして壮大、極悪にして痛快

稀代の大犯罪者のラストを飾るに相応しい

そりゃ、そうですよね。なんたって、そんな犯罪史を築き上げてきた張本人、御方自らが描いたシナリオですもの

で、そのリハーサルだけでも内臓が裏……

舞台はホテル

鉄筋コンクリート隆隆たる

ごっつい建造物の中に、中世ヨーロッパを彷彿とさせる調度品があふれる

ホテルってだけじゃあね、ってことで、そこが要塞になる仕掛け

防災の要塞、略して「防塞」

ちゃんとした理由もあるんですよ

ここ最近の気候変動で、温暖化で、異常気象で、天変地異で

ホテルがそのまんま最強の避難所になるっていう

入口という入口、出口という出口、窓という窓は鋼鉄の分厚いシャッターが閉店がらがらガッシャーン

空気も水も、ある程度の期間、完全に内部で循環可能

ひと部屋ひと部屋のドアの施錠まで、管理センターからコントロールできて、牢屋として使える

まぁ、他にもいろいろと

誰も入れない
誰も出れない
空気さえも

話題のホテル……あゝ、もう先に言ってしまえば、そのホテル自体を建てたのもGです、そうです、Gがオーナーです

竣工パーティは、実際にゲストを招いての「避難訓練」

そう、その避難訓練が、晴れの舞台

最初は、それをYouTubeでライブ配信するっていうことだったんですけどね……

万全を期したいと、5分ディレイ……おっと5分遅れで、多少の編集と脚色の余地を、保険を残しての配信となりました

なんか、ホンマすんまへん
なんか、ホンマに

そうそう、YouTubeでバンされても配信が継続できるよう、オリジナルの配信サイトも

建設段階から、あらゆる仕掛けを施してるわけですから、そりゃもう、準備万端、万端デザインですよ

ゲスト、従業員含め、333名が人質であり、実験体となる

誰も入れない
誰も出れない
空気さえも

そんな空間を最大限に活用した「犯罪万博」が、いまはじまる

「さぁて、本番だ」

はたして、国内外の皆々様、ご覧の視聴者様方、被害者および関係各位、警察に検察に、なによりGに、ご満足いただけるような見事な死に様を魅せられますでありましょうか

あとは、爆死に向けて成すがまま、行く川の流れは絶えずして、岩にしみ入るだけ……壁のシミになるだけでございま……ございま「した」

いざ、はじまってみると、そうはうまくいかなかったのでございます

つづく?


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