CASE 7 東郷清丸 後編

 前編では、その宅録遍歴から音楽制作におけるリズムへのこだわりを聞かせてくれた東郷清丸さん。前編インタビュー時から数ヶ月後、"あるもの"を作ってしまいました。引き続き、お楽しみください!

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ポップソングメーカーは、"変"にしたい

 前編では主に、初めて手にした機材の話から現在の制作スタメン機材、リズムへのこだわりについて伺いました。その中で、「『Maschine 2.0』はループ再生しながら録音するのに向いているから好きだ」と話していましたよね。作曲する際、リズムの他にはどんなところにこだわりたいと思っていますか?

清丸 『Maschine 2.0』は、ループ再生しながら録音するのに向いているだけじゃなくて、1回目の再生で録音したものを固定して、次のループには新しいことができるというところが魅力で、そうやって試していくと曲の中を歌が自由にすり抜けられるなと思ってます。その方が、僕は歌を作りやすくって。

 ほお〜。

清丸 次はちょっと変な風にしてみようかな?とか。

 デモ作りの時、「歌メロは記録して残さない」と言っていましたよね。色々試しながら決めていくやり方が好きだから、歌メロを記録してないのかもしれませんね。リハに行って、その時の即興的なノリを入れたいとか。

清丸 そうですね。フワっとさせておきたい。

 そうなんですね。清丸くんの曲のギターコードが素敵だなと思うんですが、その点でも何かこだわりはありますか?

清丸 コードフォームで覚えてるから、あのー、なんていうか6弦ルートのm7はこれで、6弦ルートの9はこの形で、で5弦ルートだとこういう対応があって……。あとはそれをテキトーにスライドさせてるだけですね(笑)

 自分が良いと思うフォームを作って、それを色々なところに当てはめいてるような感じですか?

清丸 そうです。だからシステマチックと言ったらカッコ良いですけど、意外と決まったことしかやってないんですよね、僕は。

— そうなんですか。でもそんな風には感じないです。

清丸 本当ですか?すごい離れた6弦と3弦とか、離れた2本でリフを作ると面白いとか、考えたりしてます。

 なんだろう、枠組みを考えたりするのが好きってことですかね?

清丸 あ、多分そうだと思います。だからいつからか指弾きに変えたのもそんな感じの理由で、カッティングと単音弾きだけだとどうしても普通っぽくなっちゃうし、ストロークは上から下に手を下ろすので、確実に和音の要素一音一音が鳴るのにタイムラグがあるじゃないですか。Feistも、Unknown Mortal OrchestraDirty Projectorsも指弾きしてたっていうこともあるし、指弾きは、全く同時に別の弦の音が出るところが、ピアノ的で良いなと思ったんですよね。

 なるほど。

清丸 何かひとつ遊びのルールみたいなのを自分の中で決めるんです。自分が気持ち良いと思う音楽は、こう変えてあれをして……みたいなことを考えながらやり方を決めて日々やってる感じがありますね。ただ『Maschine』を買った時もそうだし、指弾きに変えてみようと思った時もそうなんですけど、変更したり導入してから馴染むまでにすごい時間がかかるんですよ。「これは活かす」「これはいまいち」ってずっとスキャンしてる感じなので……。

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東郷清丸といえばSTEINBERGER

 ちなみに清丸くんがメインで使用しているギターって『STEINBERGER』ですよね。指弾きってどうなんですか?ちょっと弾きづらそうなイメージなんですが(笑)

清丸 あー。いやなんか……。あれですか?指置きがないとかそういう意味合いですか?

 などなども含めて。面積が少ないから。

清丸 あぁ、でも確かに。柄の座標を考えてますね(笑)

 (笑)

清丸 『STEINBERGER』は、ベーシストのほうが人口が多いですよね。ギターも僕は、ストラトとかレスポールとか所有したことなくて。一番最初がGibson LesPaul Jr.のダブルカッタウェイ、そのバンプ好きだったから……。そのあとFender Jazzmasterで、そのあとGibson Firebirdで、そのあとTescoのビザールで、でえーっとYAMAHAのビザールで、から『STEINBERGER』です。人と違う物が好き、みたいな気持ちもあるんで。面白いじゃんみたいな。

 いわゆるスタンダードなギターは通らなかったんですね。

清丸 そうですね。だからあんまりその、ギターが変な形でも、それに合わせて基準を作ってきた感じです。

 そうなんですね〜。『STEINBERGER』は音がキリッとしているイメージです。そしてチューニングが狂いづらいとか。

清丸 そうそう。あとは元々ハイエンドな感じで設計されてますよね。

 あ、そうなんですか。

清丸 はい。僕が使ってるやつは廉価版なんですけど……。

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 Allan Holdsworthが使っていますよね。

清丸 そうAllan Holdsworth!僕がスタインバーガーを買う時にAllan Holdsworthが亡くなったんですよ。僕は元々Allan Holdsworthは知らなかったんですけど、ヘッドレスギターを探してる時に、Allan Holdsworthっていう人がいて、最近亡くなったっぽいって聞いて、あーやっぱ俺がやるしかないかって(笑)

 (笑) Allan Holdsworthってはジャズ、ロック、フュージョン、速弾き、技の素晴らしいザ・ミュージシャンというような人だけど、そういう人が変わったギター使ってるって面白いですよね。

清丸 ギターの響きにとってヘッドが無いことに合理性があるみたいです。超合理的らしいです。

 この人、ギターシンセも使っていますよね。ギターシンセを多用した『Atavachron(1986)』っていうアルバムとかあって、すごく面白かったです。

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清丸 あのー『SynthAxe』っていう斧みたいな……。

 掃除機みたいな、ジョウロみたいな……。

清丸 『SynthAxe』見つけたら欲しいんですよね〜……。『Q曲(2019)』を作ってる時は、こういうギターシンセを使ったアルバムばっか聴いてました。Allan Holdsworthは、マインドにすごく共感しました。僕は知識がないので、ギタリストとしての系譜とかは良くわからないんですけど、面白いことやってる人だっていう感じで。

 ふむふむ。スタンダードな機体を使ってない人だけが身につけることのできる強み、みたいなものもありそうです。対応能力というか。

清丸 あーそうそうそう、そうですね(笑) 僕の場合は、電気を消してギターの練習したりとかしてますよ(笑)

 えっ、ジェダイみたいな!

清丸 そうですね。体で掴んだりとかそういう。その練習に一番時間を使ってるかもしれないですね。

 本当に修行じゃないですか(笑)

清丸 そうそう修行修行(笑) 修行が好きなんですよね。

 曲作りの中に『精神と肉体』みたいな捉え方が同居していて面白いですね(笑)

清丸 あー、なるほど。でもそうかも。テクスチャーを構築してく姿勢が僕の音楽作りの中にはあるんですけど、演奏するっていう点においてはすごく肉体的と言うか、フィジカルの修行が好きっていうか。同じことを延々とやるの好きなんですよね。

 ふむふむ。運動部(バスケットボール)の経験も活きてるのかな……。

清丸 だから、新しい曲できてそれをライブで演奏するための練習をする時とかは、BPMを3分の2とか半分くらまで落として、フォームを確認し続けるとかやります。

 真面目だ〜(泣)

清丸 それがね、好きなんですよね (笑)

 向上心が素晴らしいです。

清丸 いや、瞑想に近いと言うか。

 練習って苦の部分が必ず出てきますから、誰でもできるものじゃ無いと思います。でもそれができたら、効率的ですよね。

清丸 そう、〈効率〉が大好きなんですよ!続けてくと、メトロノームとコミュニケーション出来る感じになっていきます(笑)

 わ〜。

清丸 僕は、ポップソングをやってるつもりだから、そのためにはライブでもピッチがちゃんと取れてるほうが良いと思ってるので、甘い部分は入念に練習します。ダメな部分を分解して、例えばメロディラインを上手く歌えてない、一小節の中で歌えてないところが2箇所とかあったとしたら、この音とこの音の3音分の幅でこの音程が上手くいってないな〜とか、「愛してるぜ〜ベイベー♪」だったら、「愛して〜、愛して〜、愛して〜♪」という風に繰り返し練習します。実家でやってたらすごい怒られたんですけど(笑)

 (笑)

清丸 「気持ち悪いからやめてくれ」って(笑)

 (笑) ちなみにどれくらいの時間やるんですか?

清丸 できるまで。

 確実になるまでやり続ける?

清丸 そうですね。練習を繰り返すことで体に正解の轍を作っておけば、本番で何も考えなくてもできるようになりますから。

 いやあ、そうあるべきだよなあって思います。きっとインタビューを読んだミュージシャンの方はみんな、「ああ、ちゃんとしなきゃ」「ちょっとサボってたな……」と思うと思います(笑) 体で覚えるってことも必要。

清丸 あ、でも僕は本当にこれが楽しくてやってるだけだから……。

 そういうところがライブを見ていても伝わってきますよ。MCとか面白いし、ステージに立ってる姿を見るとミュージシャンとしてちゃんとしてるなって思います。隙がない。

清丸 (笑)

 人前に立つ準備がちゃんと整っている感じがするんですよね。だからいつも「清丸くんすごいなあ」って尊敬の眼差しで見てます(笑)

清丸 僕は逆にそういう部分でコンプレックスがあるんですけど……。

 コンプレックス?

清丸 多分、本当一番根底のところに「目立ちたい」っていう動機があるから、音楽始める前よりそっちが先なんですよね。深層の中での順番が。

 ほお……。

清丸 そうだから、「目立ちたくて音楽やってます」っていう感じがもしも出てたら怖いなって(笑)

 そんなことはないと思いますけど……。え、どうしてコンプレックスなんですか?

清丸 その、例えば王舟さんの場合、人前に出るライブ演奏より録音とか制作のほうが好きだしってありますよね?……っていうスタンスへの憧れ(笑)

  人前に強いほうが断然良いじゃないですか!(笑)

清丸 でも僕の場合、どうしても目立ちたいが先にあるから(笑)

 動機は何でも良いじゃないですか(笑) 何かのために練習が苦にならないってのは凄いと思いますよ。本当になかなか根気強くできるものじゃ無いと思うので。どんなに好きなものでも、練習はキツイこともありますからね。

清丸 あ、でももっとマッチョな練習が好きな人もいるじゃないですか。僕は自分にフィットしたやり方をひたすらやっているだけなので。マッチョな人と全く話が合わないんですよね。僕は自分のやりたいことを達成するためのビルドアップしかしてないから。他はあんまり興味が無いので。「結構練習好きなんですよね」っていう表現だと、誤解されちゃう時があります(笑)

 「お、君もマッチョか!」って誤解されちゃうんですね(笑) だけど実はそうじゃなくて、清丸くんは自分に合った練習方法を見つけて楽しみながらやっているだけってことですよね。そういう点においては、一緒にバンドをする人も、馬があう基準みたいなものってあるんですか?

清丸 東郷清丸として活動をしはじめてからは、感覚の近い人を人選しているつもりです。基本的に演奏家として僕よりキャリアのある人たちにサポートをお願いすることが多いので、特に何も言ってないです。信頼してお任せというか、「わあ〜すご〜い」っていう感じですね(笑)

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 アレンジは、今の東郷清丸バンドでも全て清丸くんが?

清丸 えーっと。ディレクションみたいなことですか?

 学生の頃やっていた、ベースやドラムのフレーズを作ってきて渡すとか、そういう意味で。

清丸 今は違います。東郷清丸をやりはじめた時に「あ、もう細かく指定しなくって良いんだ」って思いました(笑)

 信頼できる人たちに出会えたんですね。

清丸 そうですね。「フィルイン指定しなくて良いのありがたいな」みたいな。勝手にカッコ良いフレーズが出てくる。

 そういう人たちと一緒に音楽経験を培えるのは、自分の技術の向上にも繋がりますしね。

僕はポップソングを作っている

 清丸くんの歌詞って、ド直球な様で圧がないというか……すごく上手いなあって思うんですよ。歌詞の組み立て方や言葉のチョイスが。すごく爽やかです。

清丸 え、嬉しい(笑)歌詞、もっと注目して欲しいんですよね……。

 あ〜、歌詞をモチーフにしたグッズとかも作ってますもんね!

清丸 なんかやっぱり、歌詞も聴いて欲しい気持ちがあるから。

 メモしたりしてますか?気になった言葉を書き留めたりするような。勝手なイメージではすごくしてそう(笑)

清丸 してます!最近は積極的にしてます。というのも曲をたくさん作りたいと思って。わかったことがあって、僕はメロディーだけ作るのはもう結構楽にできちゃうなって。ギター持てばさらっと何かしらできるんですよ。

 おお。すごい。

清丸 でも、シンガーとしてはそこで終わらせるわけにはいかなくて、やっぱり言葉をつけて歌いたいじゃないですか。ポップソングを作っているから。そう思うと言葉のほうの準備をちゃんとしておいたほうが良いと思って。だから最近は言葉のメモをよくしてます。今までは、例えばアルバム制作で、その時期になってから意識的に言葉を集めはじめてたんですけど、終わるとモードが一回終了して全部オフになっちゃって、そうすると次にエンジンかかるまでにものすごい時間かかって。大変だから。普段から用意しておいたほうが良いなと思って。

 そうなんですね。確かに曲作りも歌詞を書くのも、ある意味訓練みたいなところがありますよね。やり続けることが大事だから。

清丸 なまりますよね。やらないと。

 歌詞を書くのは、普段から時間がかかるほうですか?

清丸 そうですね〜。時間がかかるほうだったんですけど、コツを掴んできた気がしてます。早くなってきました。僕はメロディが先にあって、あとから歌詞をつけてくんですけど、メロディの段階で「ラララ〜」とかそういうのじゃなくて、もう母音とか子音が決まってることが多いんですよ。「ここは『エ』よりも『ウ』だよなー」とか。

 うんうん。

清丸 「ここに破裂音が欲しいな」とか。そういう風に、最初から入れられる言葉を音で絞っておくっていうことをしてあって。だからそれでちょっと早くなった。コツを掴んだって思ってます。

 あ〜、その作り方よくわかります!そこにメモした言葉を当てはめていくんですか?

清丸 はい、そうそう。メモした時の心の興味の向く先と、曲を作ってる時の心の興味の向く先がハマったら使う感じですね。それから、一曲の中の3、4割言葉が埋まってくると、空いてる部分を考えるのが楽になりますよね。「ここがこうだからあそこはもうちょっとこうしよう」とか関連する言葉を入れていこうとか。

 なるほど〜。

清丸 この間やった『トーゴーの日』で、新曲を5曲録ったんですけど、一週間前まで歌詞ができてなくて。一週間で5曲分の歌詞書いたんですよ。その時のエンジンを止めないように、歌詞については、メモしたり歌詞のことを考えたりして、今はやってますね。

 歌詞を聴いて欲しいって言ってましたよね。何かこだわりってあるんですか?清丸くんの世界観っていうか……。

清丸 あるある。言語化したことはないんですけど、あります。歌のある音楽って一緒くたにされるけど、音楽言葉 って全然違う情報のレイヤーがあると思うんですよ。音楽の場合、リズムと音色で多層的な編み物みたいになってるじゃないですか。それとは別の次元で言葉があって。だからそれらをどう混ぜ合わせるかっていうことなのかな?と思ってます。

 そうですね。

清丸 まず言葉が気持ち良いことが大事ですよね。

 響きとして。

清丸 そう、響きとして。これは音楽的なことでもあり、意味としてでもありますよね。

 うんうん。

清丸 えーっと……ちょっと話の収拾がつくかわからないんですけど、僕、人の会話を聞くのが好きなんですよ。盗み聞きっていうか、漏れ聞こえてくる会話を聞くのが。電車とかで音楽聴いてても、しっかり漏れ聞こえてくるような会話してる人がいると、一回音楽止めて会話を聞いたりしてて。

 はい(笑)

清丸 話し言葉って、書く言葉と表現の仕方が全然違うじゃないですか。しかもその表現の仕方にその人がよく出てくるから、自分が使わない言葉を使ったりするし、聞いてて面白いんですよね。ドキッとする言葉を使う人がいたりするし、日常会話で「なんか変なの」って思うことってありますよね。小学生の時とか、年配の先生が古い言葉を使ったりして。それこそ僕が廊下を走ってたときに用務員のオジサンが「急いでる時は、えてして怪我しやすいからね!」って言ってて。「『えてして』って何!?」みたいな(笑)

 あるある(笑)

清丸 そういう、自分が日常で使わない言葉と出会ったときの感動みたいなものがあるんですよね。高田唯さんに出会った頃、唯さんは「だけど」を「だけれど」「それはそうなんだけれど」って言ってて。今はもう慣れちゃったんですけど、最初はその「だけれど」を「なんて上品なんだ」って思って。そういうちょっとした違いでハッする言葉の使い方が好きなんですよ。

 なるほど。

清丸 なので、歌の世界の中で歌詞は言葉の連なりとして聴こえてくるので、ハッとさせたいんですよね。歌の場合はしゃべり言葉と違ってメロディがあるから、どうしても言葉のスペースに限りがあるし、断片的にもなるじゃないですか。例えば文字数の多い動詞とかだと、メロディによっては何文字目かで一息入れて次の文字、みたいなことになったりしますよね。そういうとき、次何の文字がくるか、結局何を歌うのかがわかっちゃうと気が散ると思うんですよ。だから音の響きとして良く言葉の意味として良く先を予測しにくくっていうことを歌詞を作ることにおいては大事にしてますね。「次の言葉はなんだろう?」って気にさせ続けたい。

 なんか、謎が解けました!(笑)だから、爽やかなんだ。清丸くんはポップソングを作っているし、だから歌詞にもポップな要素を感じるけど、大味じゃなくてなぜかすごく爽やかなのは、清丸くんが歌詞を書く時に大切にしていることがものすごく良い効果を生んだ結果なんだと気が付きました。言われてみれば後に続く言葉のチョイスが絶妙です。あ〜、なんだかスッキリしました。

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ついに作っちゃった

 えっと、先にも出た10月5日決行の『トーゴーの日』ですが、これはAllrightの事務所にDIYで作ったスタジオで朝からレコーディングをして、その日のうちにリリースするという企画でしたよね。ついに、作っちゃいましたね……究極の宅録部屋を(笑)

清丸 前編で、大きな仕事はプロに任せるとか言ってたくせに、めちゃくちゃ真逆のことして(笑)

 その『トーゴーの日』に作られた作品というのが、タイトルは開始時間から終了時間をそのままに『11:06_1005_2020.rec』。かっこいいですね。そして清丸チーム、カメラマンさんも毎回いちいちいたりして、すごいんですよ!徹底してます。参りましたという気持ちでいっぱいです(笑)当日もSNSを通して状況がリアルタイムで更新されていたりして、ロケットの発射を待っているみたいな、大晦日で12時を待っているみたいな、こちらまでワクワクしてました。しかも音源の音がすごく良くて、ここで全然成り立つんじゃないかと思ってしまいました。

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清丸 ありがとうございます(笑)普通に電車の音とか入っちゃうんですけど、良い感じにできました。

 ちなみにどういう風の吹き回しで、この自宅スタジオを作ったんですか?

清丸 今年はコロナもあって、正直落ち込んでたんですよ。ライブも決まってたのが全部なくなっちゃったし。良いイベントがたくさんあってすごい楽しみにしてたんですけどね。それでぼーっとしてたら、ドラムを叩いてくれてる河合くんに「だったら曲いっぱい作れば良いじゃない」って言われて。全然そんなこと思いついてなくて「あ、そっか曲作れば良いのか」って(笑)それでいっぱい曲作りたくなったんで作りました。ただ、制作の予算は先立って常にあるわけじゃないので、どうやって制作の費用を捻出するかっていうことを考えるのは重たいから……(笑)ウジウジしてたんですけど、周りのその、河合くんとかバンドメンバーからしても、もどかしかったと思うんですよね〜。

 それは清丸くんがじっとしていたから?

清丸 そうですね。だから河合くんに「曲作れば」って言われて、急にできる気がしてきて、機材もあるし、ほらドラムマイクセットとかも大学生の時の遺産が(笑)「作っちゃうか」って、勢いでスタジオ作りました。あとは同時にサウンドエンジニアリング的な作業にも興味がわいてきてたんで。

 スタジオがあれば練習もそこでできますし、サウンドエンジニアリングの勉強もできますよね。良いな。

清丸 エンジニアさんと仕事をする時に、対等に話ができるようになりたいなと思ったんですよ。今はもう知識がないから、ニュアンスで任せがちなんですけど、「こういう実験をしてみませんか?」っていう提案もしたいし、自分の好きな帯域を知りたい。オノマトペとか比喩表現を使わずに、エンジニア側に立った言葉を使えるようになりたいんですよね。スタジオを作ったことで、自分を調子づかせてあげられました。

 なるほど……。河合くん、グッジョブですね。清丸くんも元気になって。完成してよかったです。写真とか動画だとかなり立派なスタジオだなあという印象なんですが、作業は大変でした?

清丸 うーん、まず構造でいうと、一軒家の庭に大家さんが離れを作ってて、家の中から行き来ができる状態で、その離れの半分を使ってスタジオを作った感じですね。はじめての作業だったから不慣れではあったけど、そんなに超大変だった記憶はないですね。木材を買って運ぶことが一番大変でした。

 結構量が多そうですもんね。

清丸 はい。あとは粛々と作って。あともう一つやりたかったことがあって、人が集まってくる場所を作りたいと思ってたんですよ。レンタルスタジオって時間が限られてるし、休憩のロビーも狭いし、リラックスできる環境じゃないじゃないですか。

 そうですね〜。時間が決まっている分、一気に集中できるのかもしれませんけど、それ以外の交流の時間とか、話ができる場所って必要ですもんね。

清丸 5月にここへ事務所を移してきて、来る人来る人がすごくリラックスできてる良い家だから、「ここで演奏できたら良いのになあ」って思ったりもしてて。ちょっとダラダラしても良い場所にしたい。チューニングを合わせられる場所。そういう場所にここはふさわしいなと思って。

 大事ですねー。サロンみたいな。あると良いですよね。

清丸 とりあえず遊びに来てもらって、「何か作る話でもする?」みたいなことができたら良いなって。面白いっす。

 『11:06_1005_2020.rec』を作るのに、新たに購入した機材はありますか?

清丸 スタジオ作る時に買ったものはありますね。マイクプリかな、葛西さんにおすすめしてもらった10万円くらいの。家にあるものだけでできそうだったけど、スタジオで録音するなら打ち込みじゃなくてマイクで録る音をどうにかしたいっていう野望があったから、マイク買うよりアンプだと思って、予算内で買える物を買いました。

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 『11:06_1005_2020.rec』を録るのに活躍したんですか?

清丸 これがですね、使ってないんですよ(笑)

 あれ、そうなんですか。

清丸 レコーディングとミックスをしてくれたemi (kaito)ちゃんの機材でやったから。

 そうだったんですね。

清丸 しかもemiちゃんは自宅で持て余してた16チャンのミキサーをここのスタジオに置いてってくれて、だからこれからは16チャンいけるっす(笑)

 おお〜。ミュージシャンでもエンジニアでも、持て余してる機材は多いと思うので、東郷清丸スタジオに集まってきたら面白いですね(笑)

清丸 置き場になるのも良いですよね!……というわけで、機材については買ったのもあるし集まってきたのもあるって感じですね。だけど本格的にここで作品を制作していこうとは思ってなくて。

 あ、そうなんですか?良かったのに。

清丸 デモ作りだったりがメインですね。曲のリズムを組む時に生ドラムを叩けたほうが良いんで、ここならちゃんとドラムセットに座れるから。それができて今は幸せです。

 誰もが羨む状況ですよね。これができなくて都内から他県へ引っ越す人もいますし。海外アーティストとかだと、自宅のガレージとかベースメントでこういう環境を作っている人がほとんどですけど、やっぱり日本では難しいですからね。

清丸 そうそう。前にTame Impalaがそういう感じの映像出してて、どうやらそれはガールフレンドの家みたいなんですけど、プールがあって、カクテルすすりながらシンセ弾いてるみたいな(笑)

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 (笑)そういえば、このスタジオを作るのに何か参考にしたものとかあるんですか?清丸くんはデザイン会社に勤めているから、こういうことに長けている方がいるのかなあとか思って。

清丸 『LABRICO』ってあるじゃないですか。割とDIYの定番アイテムで。あれを使ったら壁はとりあえず作れるなってことはわかってたんですけど、トマソンスタジオってあるじゃないですか?パソコン音楽クラブとかがいる。関西の面白いことをするトラックメイカーの人たちが、YouTubeにDIYで配信用のスタジオを作る様子を公開してて。かっこよく面白く、番組みたいになってて。

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 あ〜良いですね。彼らも今年作ったんですね。

清丸 そう。壁の感じがすごい良かったので、僕も同じにしようと思って。だけど、あの人たちは生音を出さなくていけるから、防音とかはしてなくて、僕の場合は多少しないといけないと思ったから、YouTubeで作り方を何となくキーワードで検索して、「LABRICO 防音」とか、そうすると出てくるので、参考にしました。

 ちゃんと吸音してるんですね。

清丸 してます。でも、壁も部屋全体にあるわけじゃないし、さっき言ったように部屋の半分をスタジオにしてるから。ものすごい防音と吸音の効果があるっていうわけじゃないんだけど、響きとか反響の問題もあるから、その点はすごく効果がありました。やっとけば気分も上がりますしね。

 そうですね。2020年、残すところわずかですね。今年は全ての人にいろいろなことの変化や停滞が起きたと思います。清丸くんも、落ち込んだりしたということですが、今はすごくキラキラしています。ソングライターとして、理想的な姿を見せていただきました。これからもきっとワクワクさせてくれるんだろうな〜と、期待していますね!

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東郷清丸(とうごうきよまる) 1991年横浜生まれ。その場に流れる目に見えないムードを、音と言葉でかたちにする。どんな音楽を作っても必ずどこかに東郷清丸の匂いがするのは、ジャンルではなく未体験の耳心地を追い求めているから。2017年に1st Album「2兆円」2019年には2nd Album「Q曲」を発売し、ASIAN KUNG-FU GENERATION 後藤正文が主宰する音楽賞APPLE VINEGAR -Music Award-2020にて特別賞を受賞。https://kiyomarization.com

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