CASE8 ayU tokiO
明けましておめでとうございます!本年もDONCAMATIQをよろしくお願いいたします!
さて、ついにDONCAMATIQは眼鏡からの脱出!(笑)スタート以来、なぜか意図せず眼鏡のアーティストの方々にお話を伺っていましたが、ついにノー眼鏡!そんなCASE8は ayU tokiOさんです。アユさんは、宅録以外にもセルフレコーディングに注力されている方で、今年2020年リリースされたガールズバンドSaToAとの共作では、これまで何遂げられなかったことに挑戦したのだそう。シンガーソングライターとしてだけではなく、普段は楽器の修理を生業するアユさんがどんな曲作りをされているのか、面白いお話をたくさん伺うことができました。前回に引き続き、リモートインタビューです。
ひとつひとつ実践しながら
ー アユさんが宅録をはじめたのはいつ頃ですか?
ayU tokiO (以後アユ) 一番最初は高校生のときです。録音するためのMTRっていう機材があるぞっていうのを知って。で、それを使えばいろんな音を重ねられるっていう情報を得たので、それで4トラックのカセットMTRを一番手に入れたのが最初です。『FOSTEX X12』ってやつですね。
ー 『FOSTEX X12』、あんまり聞かない機材ですね。
アユ めっちゃ安いやつですよ。その当時はまだ現行品としてカセットMTRが売ってたんですよね。『FOSTEX X12』をいじりながら色々やってみて、多重録音ってこんな感じなんだなっていうのを知りました。『FOSTEX X12』は新品で買ったんですけど、何回か再生して巻き戻してってやってるとすぐテープが駄目になっちゃうのが難点でしたけど。
ー ではあまり性能的には気に入っていなかったんですね。
アユ そうですね。入力端子が1つしか付いてないのと、4トラックしかなかったので、もっとたくさんの音を重ねたりするときにピンポンしてかないといけないっていうのも……。とにかく性能に限界を感じて、もうちょっと良いやつないのかなと思ったら、それもやっぱり現行品だったんですけど、『TASCAM 424MK3』が新宿のロックインに特価で売られてたんで、買い換えました。
ー 『TASCAM 424MK3』は、『FOSTEX X12』より前の製品だと思うのですが、こちらのほうが高機能だったのですか?
アユ あ、そうですね。『FOSTEX X12』が具体的にどんなだったか忘れちゃったんですけど、『TASCAM 424MK3』はもう少し自由度が高かったです。ミキサーが付いてたし。
ー 『FOSTEX X12』には付いてなかったんですね。
アユ 『FOSTEX X12』はただ録れて、あるのはパンニングとフェーダーのみ、みたいな感じでした。EQとかもないっていう。
ー アユさんがMTRに出会うきっかけと言いますか、高校生のアユさんが宅録をやろうと思ったきっかけは何だったのですか?やっぱり、当時聴いていたアーティストの影響ですか?
アユ えーっと、一番最初はNUBER GIRLだったと思います。
ー 世代ですよね。
アユ 世代ですね。まああの人達が使ってたのってオープンリールだったと思うんですけど、オープンリールっていう物を知らなかったのでテープっていうところだけを見て、カセットテープのMTRを買った感じですね。
ー カセットテープMTRにしたのはそういうことなのですね。
アユ そうですね。なんかNUBER GIRLの音源って、同時代のロックバンドの音源と比べても明らかに音が変だったじゃないですか?『SCHOOL GIRL BYE BYE』っていうアルバムがあって、音がグニャグニャしてて妙にしょぼい印象で、その感じが好きだったから「どうしたらこういう感じになるのかな?」って気にしてました。
ー 「どうしてこういう音になるのかな?」ということを考える段階にあったということは、当時のアユさんはもう作曲していたんですか?
アユ いや、曲を作り始めるのはもっと後です。
ー あれ、そうなんですね。
アユ そう、当時の自分の録音作業がただ「なんか楽しい」っていうくらいでした。NUMBER GIRLのコピーを僕ひとりでやってるやつ残ってますよ(笑)。多重録音の。
ー (笑)リズム、ドラムなどはどうしていました?
アユ リズムマシンを使って手で叩いてました。生ドラムを録音するのって、持ってるMTRを使ってじゃ絶対無理だって思ってて。ドラムを自分で録音できるなんて思えませんでした。まず、ちゃんとした音で鳴ってるドラムの音をさえ聴いたことなかったので。
ー 実際大変ですしね、ドラムは。
アユ はい。だからリズムマシンで代用してました。確か『BOSS DR-3 Dr.Rhythm』。
ー ドクターリズムって名前、ちょっと面白いですね(笑)
アユ 当時の僕にはリズムマシンってハードルがちょっと高かったんですよね。「難しそうだな」って。それにお金も全然なかったんで、よくわからない機械買う勇気が無くて。それでどうしようと思ってたら、先輩が貸してくれたんですよ。その先輩っていうのが、DJぷりぷりっていう(笑)
ー DJぷりぷりさん、高校の先輩なんですね!(笑)
アユ 今話してて思い出しました。ぷりぷりさんが僕にリズムマシンを貸してくれたんだよなあ……。
ー 良い思い出ですね(笑)
アユ はい。当時の僕は本当にデジタルに弱くて、「打ち込みってどういうことだろう」みたいな。シーケンスの概念を理解できなかったんですよ。なんでドクターリズムのパッドを手で叩いて音を出すやり方しかできなくて。リズムマシンって、パターンっていう概念があるじゃないですか?パターンとシーケンスを組むっていうのがまた別だし。
ー ん?パターンとシーケンスってまた違う……あれ、なんか私たちも混乱してきちゃいました(笑)
アユ 各社で機能の名称が違うことありますよね。
ー あ、そうですね。違うことが多いですよね!
アユ 当時の僕はインターネットもやらなかったので、全く情報がない状態で……。
ー では、基本的には独学で試行錯誤して……?
アユ そうですね、はい。説明書読んで。
ー 今見ても、ドクターリズムはボタンがわかりにくいですね……。
アユ わかりにくいですよね!(笑)
ー たぶんこの時期って、ちょっと過渡期と言いますか……。
アユ 本当そうですよね!どのメーカーもちょっとずつ機能が独特でわかりにくいみたいな。
ー 統一感がないのは、試行錯誤していた時期だったからなんでしょうね。各社独自のシーケンスとか、概念がバラバラだったり。今はすごく統一感がありますけど。
アユ そうですね。ドクターリズムを使って以降「ちょっとリズムマシン難しいな」って思ってしまって、10年以上シーケンサーを無視してました。
曲作りまでの道のり
ー アユさんにとっての宅録は、MTRを使ってNUMBER GIRLをコピーしながら、彼らの音作りの謎解き遊びをしていたのがはじまり、ということなんですね。
アユ そうです。本当に最初はそんな感じです。高校生のとき、アルバイト先のすごい音楽好きの社員さんが僕にいろんな音楽を教えてくれて……。「NUMBER GIRLって全部わかりやすい元ネタがあるから、元ネタの方も聴いてみたら?」って言われたんで、だんだんポスト・パンクとかネオアコとかに触れるようになったんですよ。
ー 良い出会いですね。
アユ そのお陰でだんだんと自分の趣向が生まれはじめて、高校卒業するぐらいの頃にはじめてバンドを組みました。高校の先輩に「ちょっとアユ、ギター弾いてよ」って誘われたツインボーカルの8人組のニュースクール・ハードコアみたいなバンドで(笑)
ー (笑)
アユ だけど参加したらみんなそんなにやる気なかったみたいで、あっという間に先輩と僕とベースの人だけ残って、あとの5人はスタジオに来なくなっちゃったんですよ(笑)
ー (笑)
アユ その後すぐ、はじめに誘ってくれた先輩も来なくなって、一番口数が少なかったベースの人と僕だけが残されたんですけど、長い間2人で毎週スタジオにだけは集まってて……(笑)ギターとベースの2人っきりで超不出来なスカコアのコピーとかをやってました(笑)それからしばらくしたらその人が、DAWで音楽を作ってデモを持ってくるようになったんですよ。段々と自分の曲を。そこからようやく自分たちのオリジナルの曲を作るようになっていって。同時に僕はそこではじめてDAWの存在を知りました。
ー RPGみたいですね。ではその人に、DAWのことを教えてもらって?
アユ いやなんにも教わらなかったです。
ー (笑)教わったのは存在だけ……?
アユ はい。具体的にはよく知らないんですけど、何かのフリーソフトと、パソコンはWindowsで作ってたみたいです。
ー そうなんですね。アユさんもそれからDAWのほうに移行したんですか?
アユ DAWを使いはじめたのは、存在を知ってから2年後くらいに1台目のノートPCを手に入れたときからですね。知り合いからAppleのiBookG4を譲ってもらって、それがもう超革命でした。インターネットができるようになったし『GarageBand』も入ってるし。PCとDAWを手に入れる前は、カセットMTRにギターとベースとキーボード、あとはドラムパッドを手で打ったものを録り重ねてっていう方法で、パンクっぽいサウンドのインストを作る程度でした。歌詞も書いたことがなかったし。このPCのお陰でようやくDAWのこともシーケンスのことも理解できるようになって、その頃からだんだんと歌モノの曲作りらしい感じになってったんですよね。
ー 面白いです。アンサンブル重視の曲作りだったんですね。
アユ そうですね。最初の頃の曲作りはアンサンブルありきだったと思います。確かに。
ー アユさんの作った音楽を聴くとアユさんは根っからのシンガーソングライターだなあと思うのですが、お話を聞いていたらコンポーザーのような印象が強くなりました。
アユ そうかもしれないですね。音楽面でも楽器のアレンジのほうばっかりずーっと気にして音楽と向き合ってたかもしれないです。いざ自分の音楽をやるとなっても、しばらくは自分で歌うこともなかったですし。
ー なるほど……。
アユ パンクっぽい音楽作りを続けていくうちに、下北沢のLIVE HAUSの店長スガナミユウ(GORO GOLO)くんと出会って、『MAHO Ω』というバンドに僕が入ることになって。そこでようやく日本語の歌詞を書くようになりました。今思えばその頃は、これまでで一番曲を作ってた時期かもしれないです。
違和感から自分のスタイルに
ー 『GarageBand』はいつまで使っていたんですか?
アユ えーっといつ頃だったかな?『MAHO Ω』をやってるときは途中で『Logic』に変えたと思います。
ー 『Logic』にしたのは、『GarageBand』の上位互換のようなものだったからですか?
アユ それもあるんですが、『GarageBand』が無料のソフトだっていうのが恥ずかしくなってきたっていう(笑)
ー (笑)
アユ なんかちょっと『GarageBand』より『Logic』のほうがかっこいい感じがしたんですよね。当時使ってたYAMAHAのオーディオインターフェースにバンドルされてた『Cubase』を一回入れてみたことがあって。でも『GarageBand』とは細かい機能の名称とか使い勝手がだいぶ違ったので、なんか使いづらいなと思って。『Logic』が良いかなあと。やっぱりDAWが変わると機能の名称が変わったり色々あるじゃないですか。ショートカットも微妙に違ったり。使い慣れないものにチャレンジする勇気があまりなかったので。だけど結局『Logic』で作業は全然しなかったです。
ー あれ、そうなんですか。
アユ 僕にとってDAWは、あくまでバンドメンバーに共有するデモを作るためのものだから、『GarageBand』で事足りてるって気が付いて。この時期、作曲した曲を人前で披露してお金をもらえる機会が増えてって、だんだん公に自分の作品を出す意識が生まれてきてたので、商品としての音楽ということになると、ミックスとかマスタリングまで自分でやるのは無理だなって思ってたんですよね。僕は楽器の修理を仕事にもしてるので、本気で録音とかミックスをする、音楽を製品にするような音源制作の作業を仕事でやってる人と同じ作業が自分にできる自信がなかったし。
ー ふむふむ。
アユ 自分が録音を家でやるのは『GarageBand』でデモを作るまでで、作品を出すときはきっちりレコーディングエンジニアさんに録ってもらって、ミックスもマスタリングも全部お願いしたいっていう気持ちが2011年くらいまではあったんですよね。やっぱり自分が家とかリハーサルスタジオを借りてやるような録音とかミックスのクオリティでは、プロのエンジニアさんが手がけた作品のクオリティには敵わないなと思ってて。『the chef cooks me』っていうバンドに少しの間入ってた時期があったんですけど、このときにグレードの高いレコーディングっていうのを生まれてはじめて体験して、さらにその気持ちが強くなりました。
ー それまでレコーディングスタジオの経験はあったんですか?
アユ レコーディングスタジオ自体は何回か経験があったんですけど、chefに入って一曲だけレコーディングに参加したときに、それまでよりもグレードの高いレコーディングスタジオに行って「やっぱりとんでもないな」と思ったんですよね。
ー 感動しますよね。
アユ 一方で同時期に、ココナッツディスクとか円盤で、デモのCD-Rがたくさん売られているのを見かけるようになって。デモなんだけど「作品」っぽい感じで売られてたんですよ。僕が知ってたパンクの世界だと「デモ」ってフリーに近い存在で、どんどんばらまくためのものというか……。しかも2000年代後半、パンクのライブイベントやレコード屋さんに行くことが多かったんですけど、そこで見かけるデモテープって本当にカセットテープの物が多くて。
ー なるほど。
アユ それから少しして、2010年前後に自分の音楽活動がパンクミュージックからインディポップ寄りの音楽に移行してって、ポップスな音楽をやってる人の作品の作り方に触れる機会が増えたんだけど、物販やレコードショップで目する彼らの音源作品のあまりの無駄の無さに、愕然としたというか……。メディアはCD-Rが多くて、手作りでちょっとイイ感じにパッケージされたデモが作品として、500円〜1000円くらいで売られてて。それとしっかりプレスされたCDが同じ棚に並んでるのを見て、「プロには敵うはずがない」と思ってた僕は違和感を感じたんですよ。どんなに手間暇をかけて作っても「手製の物はデモテープ」という意識が強かったんですよね。
ー 確かにその頃からいろいろな若手のバンドやミュージシャンが、どんどんCD-R作品を販売しはじめていましたね。
アユ 買って聴いてみたりするんだけど、音源も全然凝った感じがしなくて、だけどムーブメントは大きくなってく感じがしたし、こんなにさらっと録音してミックスしたものをデモじゃなくて作品として、さらっと販売するんだな〜と思って。今思えばそれがどういうことなのかも理解出来るんですけど、当時はそのことについて憤ってたので、自分はあくまで「デモテープ」という名目で、かつ内容にしっかりこだわった「カセットテープ」を、僕が憤った作品と一緒に並べてもらおうと思ったんです。それがayU tokiOの一番最初のカセットテープ『NEW TELEPORTATION (2012)』です。
ー そういう経緯だったのですね。
アユ 完全宅録で、80年代〜90年代前半の低価格の機材を使って、ひとりで「デモテープ作りらしいデモテープ」を作るのが『NEW TELEPORTATION』のコンセプトで。MTRは『YAMAHA MT8X』を使って、ミックスまで自分でやりたかったんですけど、ミックスだけは知り合いのエンジニアにお願いして『PROTOOLS』でやってもらいました。
ー ベッドルームミュージックも流行していましたよね。誰でも気軽に音源を作ることができた一方、完成度についての意識が低くなっていくというのはもしかしたらあるかもしれませんね……。もちろん安価なデモ作品が販売されはじめたことで、素晴らしいアーティストと出会えるきっかけになりましたけど。ただ以前はデモを商品として売るということは考えられないことだったかもしれませんね。
アユ でもこのことがあって、ようやくレコーディングというものとか音質というものを意識して考えるようになりました。
ayU tokiOのサウンド
アユ 『NEW TELEPORTATION(2012)』のあとに同じコンセプトで機材だけを変えた『NEW TELEPORTATION 2 (2013)』をリリースしました。
そこから活動していくにつれて、「そろそろきちんとした音源作品を作りたい」って思いはじめて、レコーディングエンジニアを池内亮さんにお願いして、『恋する団地(2014)』を録ったんですよ。そしたらやっぱり自分で録った音とは明らかな違いがあるんだなって思って。マイクも違えば、部屋も違えば、録音機材も違えば、録り方も違えば使い方も違うし、そのあとの波形の編集もミックスの仕方も違うしみたいな。その経験があって、むしろ自分で録音をやる気が起きてきて、自分で録るもののクオリティを上げていこうと思って、オーディオインターフェースとDAWを新調しました。
ー 新調した機材は何だったんですか?
アユ 『MOTU 896mk3』と『Digital Performer』です。
ー なんだか一気にグレードアップしたんですね。
アユ 今の自分のサウンドにグッと近づいたのは、この2つを導入してからですね。
ー なぜ『Digital Performer』に?
アユ 『恋する団地』を作ったあと、『新たなる解(2016)』っていうアルバムを作ったんですけど、その頃には「ずっと音楽をやっていくんだったら、ある程度のサウンドを自分で作り上げられないと、活動していくのは難しいかもな」と思ってて。それでセルフレコーディングに真剣に取り組んでいこうと。その頃周りにいたミュージシャンが使ってたのがたまたま軒並み『Digital Performer』だったんですよね。自分も同じのにしたら色々教わりながらやれるかなって。
ー ちなみにその周りの人って皆さん年上の方だったりしますか?
アユ そうですね。『恋する団地』をリリースしたあとくらいから結構年上のミュージシャンと交流することが増えてきて、『Digital Performer』を使ってる人が多かったんです。
ー やっぱりそうなんですね〜。
アユ 『Digital Performer』を選んだのは、お世話になってるエンジニアの佐藤清喜さんが『Digital Performer』だったのが大きいです。『新たなる解』を作るときも、自分で録音して波形編集までやれたとしても、ミックスまで全部するのは難しいだろうなあって思ってて、だからミックスは佐藤さんにしてもらうことを考えてたので。一番の決め手はそれだったかもしれないですね。
ー 『MOTU 896mk3』をチョイスしたのは『Digital Performer』を選んだからですか?
アユ 『MOTU 896mk3』は、2014年の冬までお世話になってたHAMON STUDIOのオーナー、タムラケンジさんが、前のモデル『MOTU 896HD』を使ってるのを見てて安心感があったのと、DAWもMOTUの『Digital Performer』にしたので互換性での不具合も無いだろうと思って。『Digital Performer』と一緒のタイミングで買いました。
ー ふむふむ。
アユ マルチマイクでドラムとかを録りたいと思ってたので、8チャンネル仕様で、adatの機能を使ってチャンネル数を増設出来るのも良いなと思ってこれに決めました。最近は使い方が変わりましたけど、はじめの頃は『MOTU 896mk3』自体に備わってるコンプレッサー機能も重宝していました。付属してる『MOTU 896mk3』本体の機能をPCで操作するためのデジタルミキサーソフトも、使い勝手が良くて重宝してます。
ー アユさんは、マイクにもこだわりがありそうです。普段はどんなマイクを使っているんですか?
アユ うーん、ミックスすると、たとえスタジオで録ったやつでもカットするところはカットしてくし、結局カットするんだったらどれでやっても変わらないなって思ったりもしてます。でも一番使い勝手が良いと思っているマイクは『SHURE 565SD』です。これ、スイッチがあるんです。プレイバックをスピーカーで聴くとき、手元ですぐオフにできちゃうのがすごい楽で。僕のボーカル用でライブでも使ってるマイクなんですけど、レコーディングでも気に入って使ってます。ウッドストックフェスティバルの公式マイクだったらしいです。
ー ボーカルに適した仕様のようですね。見た目もカッコ良いです。
アユ そう、フレディーマーキュリーも使ってるんですよ。
あとはこの『Electro-Voice RE20』ですね。『遊撃手(2018)』を作るとき、ドラムも自分でレコーディングするつもりでいて、70年代ロックバンドの録音で使われてたっぽいなと思って、探して手に入れました。
ー ドラムは、ご自宅で録ったんですか?それともレコスタ?
アユ いや、僕が今住んでる地域の公民館の音楽室に機材を持って行って録りました。『Electro-Voice RE20』は、ビーターが皮を打つようなアタック音を受け取るイメージでバスドラムに深く突っ込んでマイキングしました。マイク本体が大きいので、セッティングが大変でしたけど。音は重低音があるというよりはやや中低域によってる印象がです。
執念深く、何度でも
アユ 2015年くらいに、自分の曲作りのパターンがだいたい出来上がったと思います。パターンはいくつかあるんですけど、ギターを弾きながら鼻歌を歌って、それと同時に歌詞も思いついて、そのまま一曲分の雛形みたいなのが出来上がるみたないパターンがまず一つ。
ー 一番理想的ですよね。
アユ はい。他には、リフが出来てそれを元に肉付けしていくパターン。コード進行に仕掛けを用意して作っていくパターン。ぱっと思いついたメロディを膨らませていくパターン。どれも初めはだいたい携帯のボイスメモに録音してます。
ー どの方法をとったとしても、一曲なんとなく作れそうだと思ったらしばらくはその曲に取り掛かる感じですか?
アユ そうですね、やれるところまではずーっとそれをやる。行き詰まったなって思ったらすぐやめますね。
ー そうなったときには、いったん頭から離して、またあとで聴き返したり?
アユ そうですね。作曲の根幹の部分なりアレンジなり、その日やるって決めてた作業をやれるところまでやるじゃないですか、それで今日はもう疲れたな、これ以上進まないなって思ったら、そこまででその日のバウンスデータを作る。それをDropBoxなりに入れて、部屋を移動して寝っ転がりながらiPhoneで聴くんですよ。ついさっき作ったばっかの曲とかってすぐ忘れるじゃないですか。風呂とか入って忘れた頃にまた聴いてテンションあがったり、糞だなって思ったりして楽しんでます(笑)ただその中でなんか良さそうな部分、伸び代がありそうだなって思った部分があったら、そのイメージに関しては一日中頭の隅っこに置きつつ別なことをするみたいな。
ー 完成させたいって思うんですね。種を。
アユ そうですね。だからボツ曲っていう感じのボツ曲は今まであんまりないです。なんとかしてちゃんと仕上げる。
ー 直したりとかして。
アユ はい。直してどうにか。まあ昔から曲をアレンジするのが好きなので、なんか上手い具合にまとまるまでしつこくやりますよ。何回でも何回でもリアレンジし直して。音楽制作の作業って色々ありますけど、その中でもアレンジはめっちゃ好きなことの一つなんですよね。
ー そういうので「ウワ〜〜!」ってなっちゃう人もいると思うので、良いですね(笑)
アユ どの曲も、例えば既に音源化された曲でも、死ぬまでやり直すチャンスがあるって思ってます。メモするくらいまで自分にひっかかった種は、曲になるまでずっと付き合う。でも本当に話にならないなっていうのは見捨てるときもありますけどね。
ー すごいですね。アレンジ頼まれたりするときも同じ感じなのですか?
アユ そうですね。楽器修理の価値観と通じてるところがあるかもしれませんね。楽器の修理学校の先生が、「粉しか残ってないようなギターでも最悪直るからね」って昔言ってたのが活きてる気がします(笑)
ー (笑)
アユ でもそれってほぼ作ってるじゃん(笑)もはや製作じゃん(笑)って感じなんですけどね。
ー (笑)多少時間がかかったとしても、完成のためには逆にそれが近道だったりするんでしょうか。
アユ どうなんですかね?どっちとも言えるんじゃないかな。粘った結果、打開する手立てが意外と近くにあったみたいなケースもあるだろうし、わかんないですよね、ケースバイケースなんだと思いますけど。まじでゴールが見えないアレンジ作業ってたまにあるじゃないですか。デモトラックが何十バージョンある、みたいになっちゃうときがあるんですよ。
ー えっ、一曲のデモがですか……?
アユ はい。一曲のデモがほんと何十バージョンもあるっていうことになるときがあって。一つ一つ全然違うみたいな。
ー えええ……もうそうなってしまうとどれが良いかわからなくなったりしないですか?(笑)
アユ 前にデモトラックを30バージョン作ってた曲がありましたよ。だいぶ時間経ってから改めて聴いて思い返したりしてみると、最後の方で「あ、この日にようやく完成が見えたんだな」みたいなことがわかったりして、楽しいです。
ー 執念深いというか生真面目というか……!(笑)それだけたくさんのバージョンを作って良いのができなかったら「もうこの曲はダメなんだな」って諦めてしまうかもしれないです。
アユ でも、30パターンのうち、使わなかったアレンジは他の曲のアイデアとして使えますし。無駄だとは思ってませんね。あと僕は、たとえ作曲がアレンジの段階に入ってある程度進んでても、その曲の基礎の骨組みとかメロディをどうしても変えたくないみたいなことは、全然無いんですよね。
ー え〜、すごいです。そこまで曲と向き合って……。本当に妥協しないんですね。ある程度進めてきて「なんか変えたくなってきたな」と思ってしまったら「なにやってるんだろう自分……」って凹みそうです(笑)ちなみに、『遊撃手』を聴くと、音像とリズムの質量の増減、アンサンブルに統一感があるのに対してボーカルがとても自由に歌っているように聴こえるのですが、それはやっぱり、アレンジをとことん突き詰めた後の、本当の最後に歌をのせているからなんでしょうか……?
アユ 僕が作っている曲がいわゆる歌モノである認識はあるんですけど……、難しいな……。歌のための伴奏を作ってるわけではないと思っているというか。だからそう聴こえるのかもしれません。
ー お〜、なるほど。日本くらいかもしれないですよね。歌はオンでのっかっているものという意識があるの。根深いのかもしれないですね。実際そういうわけでもないし、そうしないほうが歌っぽいこともあるのに。
アユ 日本の古い音楽にすごく詳しいわけじゃないですけど、出来上がったメロディにフェイクとかもあんまり入れない印象ってありますよね。崩すとすぐに「クセがすごい」ってなってしまうし。もちろん程度はありますけど。
ー なるほど。歌詞についてはどうですか?アユさんの書く歌詞って、ファンシーというか、独特の世界観だなと思うんですが。どんな風に考えているんですか?これ使えそうだな〜っていう単語をメモしたりします?
アユ 単語をメモしたりはしないですね。でも、気になった事とか引っかかる出来事の一部を、何となく解決させないでそのまま蓄積させてる意識はあります。その蓄積したものを歌詞を書く時に当てていくことが多いです。
ー アユさんの頭の中に強く残ったことが、歌詞になっていくんですね。
アユ キーワードになった言葉を軸に浮き上がってくる言葉を編集していくような感じですね。言葉尻だったり単語自体に、その歌詞の性格が出る気がするので、統一感をもたせて全体を徐々にシンプルにしていって仕上げるんです。作詞作業ではあえて感情的・感傷的に進める部分と、俯瞰してとらえて進める部分、両方を意識するようにしてて、「ロジカル一歩手前の感情表現」を目指してやってます。
ー そうなんですね。最近の音楽って、男性が女性を主人公にした歌詞を歌うことが少ないな〜と思っているのですが、アユさんの曲には、女性が主人公の歌詞が多いような気がしていて。それはayU tokiOで一緒にボーカルをとっているマチコさんがいるからなのかな?とも思ったんですが。何か理由はあります?
アユ 僕は男性なので、僕が書く女性的な歌詞はフィクション性が高いと思うんですけど、女性目線の歌詞を書くのはシャイだからだと思います。
ー シャイゆえに……。
アユ 僕にとって歌詞は、唯一の本音のコミュニケーションなんです。だから歌詞を書くのが一番好き。
SaToAとの制作
ー どこかのSNSで見たのですが、6月20日にリリースされたSaToAとの共作『みらべる(2020)』は、スタジオへレコーダーを持参して制作したとか。
アユ そうです。彼女たちは彼女たちでMTRを持参して、僕は僕で違うMTRを持ってってのレコーディングでした。
ー 彼女たちはいつもそうなんですか……?レコーディングスタジオにMTRを持っていくのは。
アユ いえ、今回がそういうコンセプトだったので。
ー 何故なのかすごく気になっていたんです。
アユ しばらくSaToAのお手伝いをやってきたんですけど、「自分たちでレコーディングやってみたいんですよね」って言っているのを知ってて。だけど、彼女たちがイメージしてた宅レコ感のある音源制作よりはクオリティを上げたいと。ただ、彼女たちはあまり機材を持っていなくてDAWもないし、全部一気に揃えるとなったらすごくお金かかりそうだし……。リリースのスケジュールが先に決まっちゃってたので、それだったら手っ取り早く「自分たちの録音のコンセプトを出せるスタンドアローンの機材がいいんじゃない?」って勧めたのがきっかけで、スタジオにMTRを持参することにしました。
ー お〜、そうなんですね、面白いです。SaToAの皆さんにとっても安心だったでしょうね。
アユ そうですね。僕自身、随分前から同じハードディスクMTRを愛用してきたんですけど、今回、MTR内部だけでミックスまで完結することに挑戦できました。『NEW TELEPORTATION』シリーズではできなかったことなので、今回はそこまでやってみたいと思ってて。
ー ついに内部だけで完成させることができたんですね!
アユ はい。でもマスタリングだけは外に出しました。本当はマスタリングまで全部やりたかったんですけど……。この機種は「マスタリングの機能ついてます!」みたいなのが売りだったりするのに、実際はめちゃくちゃ簡易的なのしかついてなくて(笑)だからマスタリングだけは外に出しました。
ー 今回も『NEW TELEPORTATION』のときと同じ、MTR『YAMAHA MT8X』を使ったんですか?
アユ いえ、『NEW TELEPORTATION 2』のときと同じ『YAMAHA AW2400』です。
ー (パソコンで調べて)多機能ですね。24チャンネルくらい録れるますし、CDを完成させるところまでできる。
アユ あ、そうですそうです。CD-Rマスターをつくるところまでできるっていうのが売りで。それならせっかくだからマスターまでMTRの中で完成させたいなと思ったんですけど、まあ今回はこの機体でのマスタリングではちょっと……ってなっちゃったから、アナログカッティングの時は結局データ納品でした。
ー でもついに内部ミックスまで。本当に、アユさんは今までMTRを使って色々挑戦してきたんですね〜。レコーディングスタジオから、セルフレコーディング、そして今年、MTRにまた戻ってきたことも面白いです。『NEW TELEPORTATION』から『みらべる』まで、改めて聴いてみたいと思います。
ayU tokiO (アユトキオ):猪爪東風(イノツメアユ)。2012年より、いくつかのバンドでの活動を経てayU tokiOとして単独での弾き語りから [ vo、gt、ba、key、dr、vn、vla、fl ]の多人数バンドセットまで、様々な編成でのライブ活動を行う。ギタリストでのライブサポート、プロデュース、楽曲制作・アレンジ、レコーディングに録音&ミックスエンジニアとして参加する等、活動中。http://www.ayutokio.net/