‘身を切る’ 姿勢を評価するのはやめよう

選挙などでよく聞く「身を切る改革」というフレーズ。
前々から思ってたけど、もういいかげんその姿勢をプラス評価するのはやめませんか?

※特定の政党を批判するものではなく、あくまでも政界全体・有権者全体に対する問題提起です。濃淡はあれどどの党派の人も少なからず口にしたことはあると思うし、個別の政党を語れるほど自身が情報をキャッチアップできていないためです。


政治家は稼げる職業であり続けろ

これはたぶん、昔誰かが言っていたのを聞いて自分も『あ〜たしかにそうだな』と感じたものと記憶していますが、政治家の報酬を削り続けるということはそれだけ優秀な成り手を遠ざけることになります。

政治家は有権者の声を聞き代表者として議会で様々なはたらきをします。国の行く末すら左右しますから、少なからず優秀な人が集まるようでないといけません。
また、政治家は重要なポジションであるがゆえに、たくさんの国民の目と批判に晒されます。これは民主主義の維持、適正な権力行使という意味で、とても大切なことです。

でもだからこそ、きちんと仕事をする優秀な人には相応の対価を支払い、しっかりと活動するための資金が提供されるべきです。
「政治家はたいして稼げないわりに批判されまくる」そんな職業になったらどうでしょうか?
政治家として活躍する素質のあるような優秀な人は、自身が活躍できる場選びもしっかりと行う人が多いでしょう。たいして稼げないし批判されまくる政治家になるよりは、有名企業や国際機関、起業などで能力を発揮した方が楽しいし稼げると判断されるようになります。

もちろん政治家は国や自治体に直接関わる仕事で、様々な権力や権限を扱えるという意味ではおもしろい職業かもしれません。社会や国を良くしたいという志の高い人たちもいるでしょう。
ただ、志や本人の興味関心頼みの状況は長くはもちませんし、何より ‘やりがい搾取’ に他なりません。
近年、公立小中学校教員の過重労働(半数以上?が過労死ライン超え)と給特法の関係などが大きく注目され始めていますが、政治家や官僚だって同じです。
大変な仕事、重要なポジションであるからこそ、同時にちゃんと『稼げる』状態にあることが大切です。本業でちゃんと稼げるからこそ、汚職や資金協力をバックとしたしがらみなどから距離を置きやすくなるということも言えるかもしれません。


‘責任をとる’ ‘適正価格に戻す’ と ‘身を切る’ は全然違う

よくある勘違いとして考えられるのが、こういうもの。

1. じゃあ、国会議員に支給されている各種手当の見直しはしなくていいのか?
2. じゃあ、問題を起こした議員が自主返納などをするのはダメなのか?

1については、私は「身を切る」ではなく「適正な価格や仕組みを探る」取り組みだと考えているので、それはそれでやっていいと思います。だらだらと何十年も踏襲されているものや、時代背景が変わり実態に見合わなくなってきたものなどはたくさんあると思うので、それらに対する見直しを定期的に行うのは有用ではないかなと。

一方で「身を切る」は合理的な理由が薄弱なまま、なんとなく「頑張ってます」というアピールに使われるのがほとんどだと思います。
いや、あんたらの身を切るパフォーマンスのせいで、政治家の受け取る報酬の絶対値が合理的な理由もなくどんどん切り下がっていってるんですけど・・て話です。

2についても、具体的な理由が明確で「責任をとる姿勢を示す」目的で行うのであれば、一定程度はあってもいいのかなと考えています。
一般企業でも特に上場企業などは、不祥事や問題が起きた際に経営陣が減給を発表することは珍しくありません。ただ、何でもかんでも報酬カットで対処するのはもちろんダメですし、頻発するのも良くないと思います。
そんなに何回も自主返納するくらいなら辞めろって話ですし、報酬カットすれば万事OKみたいな雰囲気はつくってはいけません。


有権者よ、身を切るパフォーマンスに加点するのはやめよう

この ‘身を切る’ が無くならないのは、結局私たち有権者のせいだと思います。

『身を切ります!』と言えばそれなりに評価してくれる、そんな雰囲気があるから政治家は身を切るパフォーマンスをやめられません。それで「当選」に少しでも近づけるのなら、この先もやり続けるでしょう。
合理性のない ‘身を切る’ にはキョトンとした顔をする、くらいになりましょう、マジで。
身を切る姿勢を評価する行動は、日本社会の未来、そして私たち自身や下の世代の首を絞めることになるだけです。

なんていうか、これってとても日本的な価値観というか…。
自己犠牲を伴ってまで正しいものに尽くすことが評価される空気、そして「デフレ脳」とも言われる “庶民の手に届かない高すぎるものは悪” 的価値観が多分に影響しているような気がします。

『まともに仕事しないくずな政治家ばかりだから報酬を下げるんだ!』
と言う人は考え方を転換してください。
仕事のできない人に合わせて報酬を切り下げていたら、さっきも書きましたが最終的には誰もやりたがらなくなります。その結果、ますます仕事のできない政治家だらけになり、新規参入がないからなあなあの世襲議員が増えたりします。

私たちが叫ぶべきは『身は切らなくていいから報酬に見合うだけの仕事をしてくれ』と、下から強く突き上げることです。
そして、代表者としてふさわしくない人がいたなら報酬を下げて残らせるのではなく、報酬はキープしたままその人を辞めさせる(当選させない)という選択をすべきです。
『成り手がいなくなるじゃないか!』と言うあなた。成り手が少ないのなら、若者や潜在的な人材を掘り起こし政治家の成り手として育てていくことを応援する雰囲気をつくっていきましょうよ、社会全体で。


合理的な理由が薄弱なまま身を切る政治家は、頑張っている政治家ではありません。もっと他のところで評価しましょう。
「身を切る」という謎のフレーズで、この国のレベルをどんどん切り下げてみんな一緒に沈んでいくのは、いいかげんやめましょう。


'23/07/29 最終更新

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