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自営業者の長屋をつくる

 初老の男に「未来のためにできること」などそう多くはない。そう多くはないなりに思い浮かぶのは、「時代を変えるような偉業を成しとげる」か「目の前にあるできることをがんばる」かの二択である。かく言う私は、何者にもなりきれないまま生きてきた、生来の器用貧乏。偉業を成し遂げることはおろか、目の前のことすらがんばれているかどうかもあやしい。

 私は過去に福祉職をしながらメジャーデビューを果たしたが、食えずに再就職した。そして3.11の震災を機に、妻の故郷である沖縄に移住してコーヒー屋になった。だが、開店当初は珍しかった自家焙煎コーヒー店という業態にもすぐにブームが訪れて、あっという間に周囲は激戦区と化した。コロナもあった。赤字の年も当然あった。家には「生活困窮者向けのサービス」の案内が届いた。それなりの底辺の暮らしを経験した。できる副業は何でもやった。自己紹介で「いろいろやってるコーヒー屋です」とへりくだりながら、バイトの面接に落ちたりもした。そんな暗中模索の中で始めた「占いつきコーヒー」というメニューが売上を伸ばし始め、気づくと利益の大半を占めるまでに成長していた。約20年間迷走していた私が「占い師」というまさかの仕事に天職を見出すのだから、人生とは本当にわからないものだ。

 きっとあなたには私が奇異な人間に映っていることだろう。でも自分の感覚としては、もてるスペックをフル活用して必死に生きてきただけなのだ。冒頭の話に立ち戻れば、私も「目の前のことをがんばる」しか能のない人間なのである。一方で「どんな偉業も目の前のことをやり続けた結果でしかない」そう信じてもいる。

 だからどんなに実現の可能性が低いとしても、夢を語るつもりでここに記しておきたい。「自営業者の長屋をつくる」という夢を。それは組織になじめず、自営業としてしか生きられない私の様な人間達が暮らす「長屋住まいのような店舗兼住宅」だ。自力で生きようとする者同士が長所を持ち寄って暮らす、そんな場づくりをしたい。私のインチキ試算によると800坪ほどの土地と1億円があれば達成できそうだ!今の私には10分の1を借りることも難しい財務状況ではあるが、偶然の連鎖が思わぬ「バタフライエフェクト」を起こすことを妄想し、今日も目の前にいる人を笑顔にすることを丁寧に重ねていきたい。たまに宝くじの行列にも並びながら。


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