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「ボクの音楽武者修業」/小澤征爾

「ボクの音楽武者修業」/小澤征爾

「大人になるということは、たび重なる経験のために次第にこうした体のふるえるような新鮮な感激がうすれ、少なくなることだそうだが、もしそれが本当なら淋しいことだと思う。」

と小澤征爾さんは書いています。

この感覚というのは、なんとなく分かります。

思春期の頃、何か音楽を聴いていて、感動すると、背筋に冷たいものが走り、体の震えが止まらなくなるような感覚を日々感じていて、通学中の電車の中でもたびたび同様の状況に陥り、日常生活に支障を来すほどだったのですが、それはつまり、adrenaline rushとでもいうものだったのでしょう。

「音楽を聴いている」というだけで、そういった、身体的な現象をも引き起こされるというのが、単純に面白いなぁと思っていたのですが、20歳を過ぎた頃から、そういったことは非常に少なくなり、30を越え、40の声が聞こえてこようという今、感情は、まるっきり平坦化し、昔、自分にそういった感動を与えてくれた音楽を、慈しみながら聴く、というような段階に入りつつあるのを感じます。それは、小澤征爾さんの仰る通り、本当に淋しいことです。

Elliott Smithと並んで、自分の好きなアーティストにBill Callahan(Smog)という人がいますが、そんなSmogの「Feather by Feather」という曲を思い出します。

「You spent half of the morning, just trying to wake up 
 君は、朝の半分を、目覚めることにつかい
 Half the evening, just trying to calm down 
 夕の半分を、ただ、落ち着くことにつかった
 And you live for the same things 
 いつしか君は、同じことのために生きるようになる
 A cloudburst seems rarer every time  
 土砂降りは、どんどん珍しくなっていくようだ」

ここでいう土砂降り(cloudburst)というのは、個人的には、かつて、音楽や、小説を読んで感じた、「体のふるえるような新鮮な感激」のことではないか、と思います。

小澤征爾といえば、オザケンの叔父、とか、村上春樹と対談本出してたよな、くらいのイメージしかなくて、この本が新潮文庫から出ているのも知らなかったのですが、読んでみると、これは、本当にあったことなのか?というような面白さがありました。

1950年代に貨物船に乗ってヨーロッパ一人旅…とか、壮絶というか、書きようによっては、ものすごい苦労話、みたいになるのでは…と思うのですが、小澤征爾さんの筆致は、とてもあっけらかんとしています。「大げさに言えば、美人みんなが僕のために存在しているように思えた」とか言いながら、(時には体調を崩したりしながらも)『のだめカンタービレ』ばりにどんどん成功を重ねていく様は、読んでるだけだとすごく簡単に見えて、いわゆる、「天才」と言われる人には世界がこんな風に見えているんだろうか、と思わされました。

きっと、小澤征爾さんは、生涯にわたって、Cloudburstのような、「体のふるえるような新鮮な感激」を感じ続けたのでしょう。

「Feather by Feather」で好きな一節に続きがあります。

「If you're losing your wings, feather by feather 
 もし君が、羽一枚ずつ、翼を失っていくのだとしたら
   love the way they whip away on the wind 
 それが、風に舞う様を愛することだ」

そして、
「When they make the movie of your life 
 もし、君の人生が映画化されることになっても
 They're going to have to ask you, to do your own stunts
 君の代わりの出来るスタントマンなんていないだろう
 because nobody, nobody nobody, could pull off the same shit as you
 だって、他の誰も、君のようなことをしでかして
 and still come out alright  
 それでもなんとか上手くやれる人なんていないのだから」

あとは、「ボクの音楽武者修業」を読んで、おぉ、クラシック、聴かな!と思ってApple musicでカラヤンのアルバム(?)を聴いてみたけど良く分からなくて挫折したので、クラシックに造詣を深めるのを来年度の目標としたいと思いました。ひょっとすると、新たな分野にふれるなかで、「体のふるえるような新鮮な感激」を取り戻す事が出来るのかもしれません。


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