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「DIE WITH ZERO」/ビル・パーキンス

「DIE WITH ZERO -人生が豊かになりすぎる究極のルール-」/ビル・パーキンス

これも、『苦しかった時の話をしようか』をお勧めしてくれた後輩が、研修医時代の苦しい時期に買って読んで、奮い立った一冊、みたいなことで挙げてくれました。

そういった事は自分にもあり、研修医時代、いろんな要因で鬱状態に陥っている時に、このままではいけない、と思い、なんらか救いを求めて、『GRIT -やり抜く力-』という本を買って読んだことがあります。

「やり抜く力が、成功するためには大事…」というのが、様々なエビデンスを用いて語られる本だったのですが、「成功の秘訣は、GRIT(やり抜く力)…」というか、「GRITのある人は、生涯年収が高い…」みたいな内容で、そりゃ、そうでしょうね…というか、こっちは、今、その「GRIT」なるものが、風前の灯火状態で、困っとるんですわ…というような、絶望的な気持ちになりました。結局、途中で挫折して、あぁ、俺にはこの本を読み抜くための「GRIT」さえないんだ…と、自己嫌悪に陥った、苦い思い出があります。

未だに、どういった状況にある人が『GRIT -やり抜く力-』を楽しんで読んでいるのか、イメージがつきませんが、精神的な急迫時に助けになる本ではないことは確かです。

『DIE WITH ZERO』も、海外で大きく話題になった自己啓発(?)本の翻訳書…という意味で、『GRIT』と近い手触りを感じ、嫌な予感がしました。本の帯に堂々と「死ね」と書いてある所にも、なにか、浅薄な、炎上商法的な魂胆を感じます。

ただ、実のところ、『DIE WITH ZERO』は非常に教訓的な本でした。今なお、自分はマネー・リテラシーが低いことに危機感を感じているのですが、いよいよ投資に打って出ようかな、とか、やっぱ車買おうかな、とか、いろんな事を思いました。

中でも印象深いエピソードが、お金を稼げるようになった筆者が、実の祖母を喜ばせようと思って、一万ドルをプレゼントするんだけども、もともと倹約家の祖母は、ほとんどそれに手をつけずに亡くなってしまった…という話です。物を大切にする主義であったという彼女は、フカフカのソファを買っても、それが汚れないようにに、最期までビニールをかけて使っていた。「彼女は、せっかく買ったソファの快適さを十全に味わうことなく亡くなっていった」と筆者は書きます。

「お金」から最大限に経験を引き出せるのは若い頃なんだけど、若い頃には逆に「お金」がないことが多い。だからこそ、若い頃に必要以上に節約するのは愚かなことである。どんどん自分の経験のためにお金を使おう。
要は、モノより思い出!みたいな、CMのキャッチコピー・レベルの話が、300ページ弱にわたって長々と書いてあって、嫌悪感がフツフツと湧いてきますが、なんのかんの読み通せたので、俺のGRITも、なかなかどうして…という気持ちになりました。

「終わりを意識して生活するよう伝えた群と、普段通り生活してもらった群を比較すると、前者の方が『生活の充実度』が上がった」…みたいな研究結果の記載があって、非常に、アホらしい気持ちになります。

というのも、「常に終わりを意識して生きる」ということが、現実的に不可能なように思われるからです。それがなんでなんだろう、と若い頃からずっと考えているのですが、良く分かりません。思うに「死」ということ、自分の存在が0になって、それが未来永劫続く、ということは、考えるだに恐ろしすぎて、それが常に頭の中を占めている状態、というのに、人は、耐え切れないからではないでしょうか。もし、「死」が常に頭の中にあれば、きっと、人は、より良く生きることが出来るのでしょうが、そうもいかず、「メメント・モリ」というようなマントラを、意識的に連続的に唱えるような状況にでもならない限り、その状態を維持するのは難しいのではないでしょうか。かのModest Mouseのアイザック・ブロックが示唆したように、「いつか死ぬということを覚えていることは難しい(It's hard to remember that we are alive for the first time, it's hard to remember that we're alive for the last time.)」ということです。

『Die With Zero』は、ある意味、己のmortalityと向き合い、現実的に、自分の人生を、最大限に有効活用することを迫る本なのでしょう。

この本を読んでこんなに腹がたつのは、結局、自分は、己のmortalityと向き合うことなく、半ば眠ったような状態で、何気なく毎日を送ることを愛しているからで、そして、それをいつか絶対に後悔するんだぞ、という事実を、思い知らされるからなのかな、と思いました。

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