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実盛

2020.12.01 
 千駄ヶ谷の能楽堂に、観世清和の「実盛」を観る。
 我が家にはテレビがなく、山中に住んでいることもあり、芸能に接する機会は少ない。たまに嫁はんと能楽堂まで遥々と出かけるのを楽しみとする。
 後シテになってから、ふと三島由紀夫のことを思った。ついでに彼について述べた、高橋睦郎の文章を思い出す。三島の割腹現場の写真は無残なものだったという。しかしそれは三島の必然的な結末であっただろう。とはいえ、森田必勝を伴ったことは濁りだと云う趣旨だったと思う。
 舞台の実盛は、首を切られ、さらに胴を突かれて、ついには首を切り落とされる様を自ら語る。これは利休の切腹にも繋がるように思える。中世に始まる日本の芸能には、常にこの種の匂いがして、それは現代になっても消えることはない。詩人が濁りだと断じた時には、刃は彼の上にも襲いかかっているはずだ。

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