リマインド

ホテルのような、民宿にちょっと洋風が入り混じったような大きな宿泊施設のロビーで、今まで出会った人たちと会話をしていた。

SF作品についてだか、今流行りのマルチバースだかの話題だった気がする。
向かいに座った十数年来の友人が、自分の得意分野の話題だったからだろう、えらく饒舌に話しながら時々メガネをクィッと上げるその「らしさ」全開に思わず爆笑してしまった。

十数年前、当時お付き合いしていた方に
「寝言でよく笑ってるよね」
と言われたことを思い出す。

言われた時はホンマかいな、と思っていたが、それから意識してみたら確かに、どうやら自分は夢の中で爆笑していたらそのまま現実の世界でもフフっと声に出して笑っているようで、自分の笑い声に驚いて目が覚める、なんてこともよくよくあった。
想像してみるとめちゃくちゃ気持ち悪い(笑)

そのことを思い出した瞬間、このロビーで爆笑しているこの自分は、夢の中の自分であるということに気が付いた。

ならばいっそ、爆笑のまま目覚めてやるかと大笑いを加速させるとやはり、ベッドの上で目が覚めた。

変な夢だったなと、部屋の隅のオイルランプを模した電気スタンドのスイッチを入れようとすると、突然そのオイルランプが床に転がり落ち、自分に向かって
「やることがあるよね」
と言ってきた。

そのオイルランプの声を聞いて、このランプと話している今はまだ夢の中で、仮にここが第一世界だとすると、この第一世界でもう一度眠りにつくと、更に一段下の第二世界、冒頭の民宿の世界へ繋がっているんだな、ということが瞬時に分かった。

ああそうだ確かに、忘れてたわ。
何故かそう思った自分は、もう一度ベッドに横たわって目を瞑り、第二世界へ戻っていった。

第二世界では大きなビルの屋上から別のビルの屋上へと飛び移ったり、壁という壁が紫色の和室があったり、友人らが雑魚寝をしていたり、すごく夢の中らしい夢の世界で、フワフワと中空を漂いながらも「さっき言われたことを早くやらないと」と焦っていた。

大部屋の右端に、160cmくらいだろうか?少し小柄な女性のような、男性かもしれない黒い髪の人が寝転んでいて、自分は直感的に「間違いない、この人だ」と思って声をかけた。

その人は少し悲しそうというか切なそうというか、どちらかと言えば助けて欲しそうな表情をしていて、第一世界でオイルランプに言われた「やること」ってのはこの人のことを救うようなこと、もしくはこの人に対して自分が謝りたい何かがある、とかなんじゃないかと思った。

そう言えば最初、ロビーで友人がメガネを押し上げながら「そういう人をちゃんと救ったり、謝ったり、そういうので世界が繋がってくんスよ」みたいなことを言っていた。

この人を救うのに、多分、ここで必要なのは「コトバ」だなというのは肌感で分かっていたけど、それが何なのかが一向に分からなかった。

廊下の角にいた短い金髪の子に
「まだ足りないんじゃない?」
と言われると、自分も自分でそうじゃん!と思い、目の前の黒髪の方に
「すいません!今はちょっと出来ないんですけど、でも、絶対戻ってくるんでそこで待ってて下さい!」
と言い残し、ングッとおでこに力を入れて上方向を意識した。

目が覚めると第一世界だった。
オイルランプに、下の世界であったことを伝え、あの人にかけるコトバって何だっけ?と尋ねると

「もう一個上の世界で探してきた方がいいんじゃない?」

と言われた。
確かに。
こういう夢の中の出来事って、基本は現実世界から持ってきた何かで構成されてるよな。だとしたら、ちょっとここじゃ見つからないから上の世界、この現実世界で探すことなのかもしれないな、と思い
「絶対戻ってくるから、待ってて!見つけてくるから!」
とランプに言い残し、ランプも
「待ってるよー」
と返事したのを聞いてから、またおでこに力を入れて上の方をさっきよりも強く、もっと強く意識した。

天井も壁も、見慣れた自室で、今度こそ起きたな、と思った。
けれど、前に見た時よりも少しだけ、まだらな模様というか汚れ?のようなものがそこかしこにぼんやり浮かんでいて、あれ、もしかしてまだ夢の中?とちょっと混乱したが、電気をつけてみると、最近飼い始めたハムスターが一生懸命回し車を回していて、間違いない、ここは現実だと実感した。こんな変なところで実感するのも不思議だなとちょっとウケた。

夢の中とは言え、あんなにしっかりめに
「絶対戻ってくるから!」
とか言っちゃったもんだから、あの世界を置き去りにしてきてしまった罪悪感とか心残りみたいなものがあって、じゃあ忘れないようにと一応メモがてらにこの記事を書いている。

あの大部屋の、困っている人は誰だったんだろう。
この先死ぬまでに何回眠るか分からないけど、その中のただ一回だけでも、もう一度あの世界にアクセス出来ないかな。
そんなことを思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?