Ironman Malaysia too much detailed report Vol.6 詳しすぎるアイアンマンマレーシアレポートその6
ぬかるみの世界
腕のガーミンのラップを押して、いよいよ最終パートのランへ走り出す・・・のだが、T2から出ようとして多いに面食らった。下見の時には単にダートを抜けていくのだな、としか思わなかったその道が、朝から続いた豪雨のため完全にぬかるみと化していたのだ。もう、ぐちょぐちょのドロドロ。シューズを泥まみれにせずにそこをクリアする方法はなかった。いくらなんでもコレは酷い・・・ようやく道路に出て一息、水溜りはあるがまともに走れる(タイトルを見て某番組を思い出した人は関西のおっさん)。
まずスタート地点からすぐ南下する。一か八かでキロ5分前半を目指してやってみる。結構いい感じで走れている。すぐ近くを左折して空港入り口の方へ少し行って折返し。戻って来たあたりで岩Tさんに追いついた。「このペースどこまで持つかわからんけど、行けるとこまで!」「ナイスペース!頑張りましょう!」
エイド
すぐ近くにランのエイドがあった。持ちやすい小さめのPETボトルで、しかもよく冷えた水を並べてくれている。ありがたい!とりあえず一本もらう。このあと、各エイドの水が冷えていたことでどれだけ救われたか・・・他、コーラやアイソトニックドリンクは紙コップで並んでいる。
その後もずっと、エイドごとに水を取って脚を冷やし、ちょっと飲んで止まらずそのまま通り過ぎるようにしていたが、それができたのは序盤だけだった。中盤以降はコーラやバナナをもらったりしてエイドの間は歩き、ボトルを捨ててまた走り出す、の繰り返し。
この辺りの路面は路肩側に大きく水溜りが広がっているところが多く、弱まったとはいえずっと降り続いている雨もあって既にシューズはズブズブ。マメができやすくなるから本当につらい。けどどうしようもない。
俺、遅過ぎ?
その途中、空港南端のエイドを過ぎようとしたときBucciとすれ違った。「Taiさん!!」「オオーッ」え?ちょっと待ってBucciもう折り返してここまで戻ってるって、どゆこと?回らない頭をフル回転して折返しまでの距離を検討してみる。どう考えても差は50分くらいあることになる。それって、バイクでさらに30分以上差がついたってこと?Bucciが速いのはわかってたけど・・・
気を取り直して、ランで少しでも詰められるようがんばろう・・・空港エリアを過ぎたあたりだったか、簡易テントで作ったシャワーゾーンが稼働していたが、こんなに雨が降ってるのにまったく必要性がわからない(笑)。
そこからはMORACというカートコースのド派手な照明、そのあとのレストラン街の猫ちゃんのイラスト、そして幻想的な木々のエリア、T字路の信号などが目標になり、少しずつ刻んでいくことができた。そこまで来るとゴール地点のペランギはもうすぐ。
チェナン折返し
ペランギを横目に見てホテル方面へ進んでいく。ここは何度も徒歩で往復したから距離感が分かり易い。ホテル前でペランギから約1キロ、そしてもう少し行ったところで折返しだ。この区間は日本からきた応援の人たちと現地の人たちの応援でいろんな言語がごちゃまぜになってすごい盛り上がりだった。
雨はまだ降りつづいていたが、走っている分にはそんなに気にならないレベルになっていた。しかし、通りに面した建物のトタン屋根に打ちつける雨音が「バラバラバラバラ」とすごい音を立てているところがあって、実は雨粒が結構大きいことを伺わせた。
ホテル前を過ぎて少し先を折り返すと、ゴール地点まで800mとかいう表示が置いてある。そこに到達するまでにあと二周しないといけないのに、ゴール横を通過しないといけない。これは多分意図的なコースレイアウトだろう。何度もゴールを横目に見て「はやくここに辿り着きたい!」と思わせるために・・・
ぬかるみ、再び
ペランギの手前の路地を海側へ左折し、リゾートの砂地の道をゴール前へ進んでいくと、ほどなくゴール地点が見えてくる。その辺りでボランティアが左右から囲むようにして周回チェックのゴムバンドをくれる。一周目がたしか白。GPSで距離計ってるし、タイミングチップも使ってるからまさかのカウントミスは無いと思うが、こうしてもらうIMマーク付きのゴムバンドもまた良い思い出になる。
ゴールゲートを右手に見て左へ逸れてさらに奥へ。この辺りはまだ海辺の砂地の道という感じで水捌けはよかったが、その後がいけない。リゾートの奥のあたりをS字に抜けていくあたりがまたぬかるみ。なんとかそれを避けて脇の芝生エリアを走ったりするが、どうしようもないところもあり、結局また道路に出る手前のあたりでズブズブに足を沈める羽目になった。勘弁してほしい・・・
このあたりまで、だいたい3キロまでが5分ちょい、その後9キロまでは5分16秒前後と驚異的に安定したラップを刻めたが、そこまでだった。ちょうどペランギ裏を抜けるあたりで10キロ、泥沼で足をとられたこともあり、ドーンと脚に来て本日終了のお知らせ。ラップは5分半に落ち、それ以降回復することはなかった。
撃沈上等
そこからのラップは6分〜6分半、エイドにちょっと寄ると7分台という情けない状態になり、もはや脱することはできなかった。あの酷暑だった佐渡でも、ハーフまではもう少し粘れた。バイクも遅かったのにさらに酷いんだから目も当てられない。相当脚がやられていることは間違いない。
そこからまたスタート地点を目指して来た道を戻る。まだ一周目は明るかった。さっき来たときもそうだったが、空港西側のはるか長い直線には心が折れそうになった。ここをあと3回通らないといけない。
最初のうちこそ心拍を140以上に追い込んでいい感じに走れていたが、撃沈後は120〜130前後に落ちてしまい、くやしいけど脚がつらくてそれ以上上げられない。一体いつになったらロングのランでサブ4できるようになるんだろう。またベースを鍛え直すしかないんだな・・・
再びスタート地点へ
約17キロ、ようやくスタート地点付近にまた戻って来た。ここで一旦折り返すのだが、その表示が非常にわかりづらかった。手前にたしかに折返しの表示はあったのだが、肝心の折返しのところの向こう側のコーンがまばら、しかもその向こうまでコーンがならべられていて、そのまま直進のコースが続いているように見えた。
周りにちょうど選手がだれもいないタイミングだったものだから「えっこれ直進?ターン?えっえっ」と思ってるうちに行き過ぎてしまい、少し走ってどうもおかしい、という動物的勘で踵を返し、そこでようやく折り返した向こう側にコースが続いていたことを認識した。危なかった・・・
それにしても、あそこには案内係を置くとか、コーンをもう少し密に立てて折り返し感を醸し出してほしいものだ。あとで聞いたら山Mさんも同様に行き過ぎてしまったらしい。
ランタン
その後はまた空港方面に少し行って折返し、あとは一周目と同じ道を辿る。この頃からどんどん日が陰って暗くなって来た。空港沿いの道に入ると、コース中央に棒を立ててその先にポリ袋に包んだお椀のようなものを二つずつぶら下げている。なんだと思ったらどうやら電池式のランタンだったようだ。なるほど完全に日没したらこれを点灯するわけだ。
二周目はちょうど空港方面から抜けるあたりでBucciとすれ違った。だいたい1kmぐらい、せいぜい6分程度しか詰めてないことになる。つまりBucciも相当がんばってる。「今までランで歩かなかったことがない」とか言ってたけど、実は「今回は歩かない」という決意の裏返しだったにちがいない。次会うのはゴール後だ。
その後も、遅い足取りながら6分半前後をキープするように頑張ってすすみ続け、どうにか二周目のチェナン折返しも無事にこなした。またゴール地点前を通過するときには既にトップクラスの速い選手たちはゴールしているからその周辺はもう大変な盛り上がりになっている。チクショー、絶対戻ってくるぞ。
二周目通過の赤いゴムバンドをしっかりと受け取った。
日没
また道路に出て、スタート地点に向けて二周目の最後を目指して走り出したころにはほとんど日は落ちて、だいぶ薄暗くなってきた。もうこうなるとサングラスはかけていられない。しかし、実はこのサングラスは度入りなので外すとド近眼になってしまう。もちろん走れないことはないが、対抗してくる選手の顔はまったくわからないし、路面がどうなってるかもよくわからないが背に腹は代えられない。
空港エリアのエイドで、蓄光の輪っかを配っていた。なるほど、これを付けて見えるようにしろと。しかし径が微妙で、頭から被ろうにも小さすぎるし、腕にかけるには大きすぎる。どうしろというんだ・・・と、前のほうの選手が首に掛けているのを見つけた。あっそうできるということは・・・何のことはない、パチッと外してまたつければいいのだった。
このあたりの空港直線で、ちょうど対向してきた選手があきらかにジェルのパックを取り落とすのが見えた。ルールではコースにゴミを捨てるとペナルティだから、その選手も立ち止まって拾おうとする。が、屈めないのだ。結局彼は苦悶の表情を浮かべ、諦めて走り出してしまった。わかる、わかるよ・・・もうみんな脚はボロボロなのだ。
最後の試練
その後もなんとかペースを保ってどうにかスタート地点を目指して進み続けていた32キロあたり。もう周囲はほとんど真っ暗。対向の選手が水溜りをさけて中央沿いに来たのを避けてちょっと左に寄ったとき、左足が段差を踏み外してしまった。ド近眼が災いした。まぁ状況的に目がちゃんと見えても避けられなかったかもしれないが。
「グキッ」イテテテテ・・・思わず止まってしまうほどの激痛が走った。いわゆる関西弁でいうところの「足ぐねった」つまり捻挫だ。まずい、まだ10キロ近く残っているのに・・・とにかく左足を引きずりながら走り始める。この足はこれが癖になっていて、今まで何度も同じようなことをやらかしている。おおトライアスロンの神よ、どこまで私に試練を与え続けるのか!
そんな状態で少し走っていると、幸い痛みが少しずつ散って来た。よし、これなら行ける!あとは以前の恒例朝練の距離しか残ってないんだから。また少し勇気が回復してきた。まだ痛いことは痛いが、全身の疲労もあってもうどうでもいい感じがする。
最終ラップ(半周)
2回目のスタート地点に戻って来た。これで約34キロ、あと8キロ、たった8キロだが、おそろしく長い道のりに感じる。エイドで冷たい水をもらって捻挫した足首にかけて冷却する。これは思いの外効いた。水で冷えているうちは痛みを忘れることができた。
空港沿いのド直線に出てくると、すべてのランタンが点灯していて壮観な眺めだ。このランタンを一つずつ通過していく感じで刻んでいこう(君原健二走法)。前方の選手を一人、また一人と捕まえていく。時折「あんたどこにそんな力残しとったんや」という感じで猛然と抜いていく人もいる。
空港エリアを過ぎると、さっきの周回までは営業していたカートコースが終わっていて照明も落ちてしまった。仕方がないことだが、なんともいえず寂しい。しかしここまでくれば後はもう5キロくらいしかない。エイドでしっかり水をもらって
足首を冷やすため、このあたりの区間はだいぶロスタイムが多くなったが、ペース自体はは奇跡的に6分半ぐらいをキープできていた。
ここまでくると後何分ぐらいでゴールできそうか、などと考えるようになるが、どう頑張ってもランラップ4時間20分は切れそうにないし、佐渡の4時間24分も微妙な情勢だ。まぁこの期に及んでもう後数分がどうのと言っても始まらない。あとはこのとんでもなかったアイアンマンの最後の数キロを楽しんで走ろう。
ゴールへ
とはいえ、既に満身創痍の状態ではもう苦渋に満ちた表情しかできない。いつもJETTのリーダーに「Don't forget smile」と言われているが・・・無理なものはムリ!ただただ歯を食いしばって前に進むだけだ。
最後のペランギ前を通過するとき、既にゴールしたらしいH口さんがいて声を掛けてくれた。「末石さん!奥さんがゴールでまってますよ!」うわぁH口さん、もう着替えてるよ・・・どんだけ速いんだよ・・・(と、その時は思った)。
もうすっかり夜になったメインストリートは、周辺のお店で飲んだくれている人たちも合わせて大騒ぎだ。もう雨はほとんど上がっていたが、路面はそこらじゅう水溜りだらけ。これ以上足をくじいたり、つんのめってこけたりすることだけは避けたい。ところどころクルマを減速させるためのバンプもあるから気をつけないといけない。
いよいよ最後の折返しで41キロ付近。あとはペランギに戻るだけだ。とんでもない一日だったけど、ついにここまで来た。やっと終われる!早くゴールしたい!という思いから、のこりの約1キロが異様に遠く感じられた。
最後の角を左へ入り、あとはゴールエリアへ砂地の道を数100m行くだけだ。そしてついに栄光のゴールゲートが見えた。キターッ
空気読め
なんとも言えない感慨が湧き起こって来た。これだ!俺がずっと求めていたものがそこにある!カーペットを踏み締め、あと50m・・・
ロングのゴールは、少なくとも自分の知る限りでは、ゴール地点はみんな「じっくり味わう」ために、あんまりキリキリとゴールスプリントしたりせずに、一人ずつ譲り合ってゴールするものだ。そもそもウェーブスタートしてるから、前にいる人をギリギリ刺したところで順位が変わるわけでもない。
ところが、その時背後に妙に迫ってくる気配を感じた。えっもしかしてめっちゃ追い込んでるやつきてる?それってどうなん?と思いながらも反射的に体が動き、ちょっと加速気味にゴールに飛び込もうとしたその刹那、後ろから猛然とスパートしてきた女性がブワーッと同時ゴールした。えっ何ちょっと待って・・・?!
しかもあろうことかゴール直後、その女性が興奮して抱き着いて来た!
まぁよっぽどゴールしたのが嬉しかったのか・・・しかし例えば、ランの間中ずっと抜きつ抜かれつしてたとか、一緒に苦しみながら励まし合ってここまできたとか、そういうのがあったらわかるよ?でもこの方はそれまで全く関わってなくて、突然ゴール前でカチ込んで来て私のゴールシーンに割って入るというなかなかの暴挙をしてくれちゃったわけだ。まぁ、これもまた忘れられない記憶になった・・・
I AM AN IRONMAN
そんなわけで、ついに最後の最後までハプニング続きだったアイアンマンマレーシア・ランカウイをついに完走。晴れて自分もようやく「アイアンマン」の仲間入りをはたすことができた。
ランラップ:4時間26分54秒
総合記録:12時間17分8秒 総合:81位 エイジM55:5位
これまでずっと、珠洲を完走しても、五島を完走しても、宮古を、皆生を、そして佐渡や果ては世界戦を完走してもなお燻りつづけていた「まだ、自分が何者かになった気がしない」という思いがようやく晴れた気がした。少なくともこれから先死ぬまで「俺はアイアンマン」と言えることになったから。
アイアンマンを創始したジョン・コリンズの言葉
「Swim 2.4 miles, bike 112miles, run 26.2miles, brag for the rest of your life.」
(3.8km泳ぎ、180km漕ぎ、42.2km走れ、そして一生自慢しろ)
最終回へつづく
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