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コンサル探偵 VS 笑う物理学者

今回は難事件。コンサル探偵、久々に事件解決!!!(って言うか、はじめて???)

金曜日にめずらしく組織の仲間内で食事をし、ほろ酔い気分で帰宅するも、帰り際にカミさんと約束したオムツ(早くオムツ卒業しろよ!次女!!!)を購入するミッションに失敗し、怒られるコンサル探偵。3連休中には長女の学習机購入のミッションで妻と妻の両親がもめ、義理の父母から通算3回目の呼び出しを受ける可哀想なコンサル探偵。せっかくの楽しかった終末の宴の記憶は、はるか昔の出来事のように感じられ、どっぷりとブルーな疲労感に包まれる。おまけに義父母からの理不尽な言及に対し、ストレスで顎関節症を発症してしまうコンサル探偵。
やっとの出勤日にホットするのもつかの間、ストレスで体調不良のコンサル探偵を満員の通勤電車の中で待ちうけていたのは、新年はじまって以来の難事件であった!!!

【通勤電車にて・・・】

満員電車が苦手なハードボイルドなコンサル探偵は、いつも痴漢に間違われないようにと、空いたスペースへと体を滑りこませる。がそんな姑息な行為すらも、私とその男とを出合わせるために神の仕組んだものだったのだ。家庭の雑事におわれ本来の自分の仕事を忘れてしまった私の目を覚まさせるために、新年早々その男は目の前に現れた。

白髪と黒髪の比率が調度50%づつに交じり合った七三分け、メガネのフレーム上部には今や探すのが難しくなっている黒いプラスチックがついている。身なりはこざっぱりとしているものの、どことなくかび臭さが漂ってくる服装、足元には手垢で汚れた紙袋とコンサル探偵の七つ道具(過去の事件簿参照のこと)の1つでもある三省堂のビニール袋が置かれている。

電車内で人が見ているスケジュール帖や携帯電話のメール、会社の資料を横から覗き見するのが好きな育ちの悪いコンサル探偵は、例に漏れずその男が目を通しているブルーのクリアファイルの中を真上から覗く。
こ、これは・・・
職業柄、ほとんどの場合、覗き見によりその人の生業を判断することが出来るコンサル探偵は目を見張った!

その男が手にしていたものは、コンサル探偵がはじめて目にするものであった。いったいこれは何だ!?職業意欲を刺激されたデバガメコンサル探偵は、その男の手元の資料を注意深く観察した。鉛筆でかかれた一見何の意味もない軌跡、その途中途中には英語の頭文字と独特の記号のようなものが記されている。見れば見るほど分からない代物だ。その軌跡をよくよく見るとオレンジ色のマーカーペンでほぼ等間隔に区切りがなされいている。どうやらこの区切り毎に何かしら示されているようである。その文字を読もうにもなかなか癖のある字で上から判読することは難しい。

私は考えた。この男の職業は?
この男が身にまとう世間と隔絶されたようなかび臭さ、私の経験によれば大学関係者、それも理系の人間に多いパターンだ。私はこの直感に沿ってこの男の手にする資料を再度覗いてみた。この複雑なマークと謎の軌跡、、、ひょっとするとまだ確認がされていない放射線かなにかの分子レベルでの運動を解明しようとしているのでは?
とその時、男の手が動いた。クリアファイルをめくるその手を私は固唾を飲んで見守った。そして次のページから出てきたものは、、、どこかのホテルの宴会コースのチラシであった!
い、一体!?こ、これは、私に対する挑戦か???
しかも別のチラシももう一枚入っている。その男は少し考えたようにそのチラシを摘み裏を確認するような行動をすると同時にそのチラシをもとの場所に戻し、またページをめくった。そこには前ページと同じような軌跡と記号を記した紙が入っている。私がこの物理学者は新年会の幹事でもしているのかしら?と自分勝手な想像をしたその時、私の灰色の脳細胞は、あるシーンをフラッシュバックさせた。そう、あれは高校時代、まだ夢も希望も満ち溢れ、接するものすべてを吸収しようとしていた多感な時代(ウソウソ)、厳しかった数学の教師が試験結果を返しながら口にした言葉だ。
「出来なかった問題はチラシの後ろに再度回答して次の時間までに提出のこと!」「おまえらごときがノートやルーズリーフなんぞ使おうとするな!」
そうだ、この物理学者はチラシの裏に問題を解く癖があるのだ!そういえば大学時代隣の研究室の物理学者は黒板にチョークで問題を解いていた。きっとそんな類の連中に違いない!

「ふっ、ノーベル賞を夢見るくたびれた物理学者か・・・」

私の心の中でこの事件は終わりを迎えようとしていた。
しかし、その時!
物理学者はクリアファイルの中から1枚の印刷物を取り出した。その紙を読むでもなし、男は不器用に折り直すと再びファイルに入れ直し、もう一枚同じような印刷物を取り出した。ゆれる電車の中ではA4サイズにビッシリかかれたその紙の内容を確認するのは容易ではなかった。電車は新宿へと近づく。どうやらこの物理学者は新宿で降りるようだ。何としてもこの印刷物を見て、私の推理を無事に終わらせねば。。。
焦る私の目は、その印刷物が何かのスケジュールを示したものだと言うことを確認した。そしてその中にかかれた文字にはピンク色のマーカーペンでチェックがなされている。大学の時間割だろうか?自分の講義の時間帯ををチェックしてあるのであろう。そうであれば私の推理は完璧だ。
が、違う!
ゆれる電車とその男の手の中で左右にゆれるその紙の中、私が読み取った文字は!

「ス・・・講・・・座」?
「ソ」・・・
「ー」?
「シャ・・・ルダ」?
「ンス」???
「ソーシャルダンス講座ぁ~?」
私の負けだ。
敗北感が私を包む。

うなだれる私は、遠のいていく視界の片隅でその男の顔にゆっくりと、にじみ出るように、安らかな笑みが広がっていくのを認めた。

なぜ、、、この男、わかっていたのか?
私が自分の素性を掴もうと躍起になっていたのを、ソーシャルダンスのステップを記憶しながら!?
馬鹿な!私を試していたというのか!!!???

私は勇気を振り絞りその男を見つめた。しかしその男の視線は私ではなく、依然ファイルに向けられている。
ゆっくりと、恐る恐るその先を覗いてみた。
な、、、そ、そんな。。。

孫の写真を見て微笑んでいる!!!

ま、孫の写真、それもデジカメで撮ったのをプリントアウトしたモノ!
完敗だ。

私はただ呆然と、その男が新宿で降りたのも気がつかず、目の前の空いた席に後ろからおばちゃんが猛烈な勢いでタックルして来たのも遠くの方で感じながら、ああ、なぜあの老紳士のように、妻の両親が自分の人生を謳歌してくれないのだろうと、目から熱いものが流れ落ちるにまかせた。
電車はお茶の水へ滑り込み、私ことコンサル探偵は、痛む顎を抱えながら組織へと向かった。

これが本日の朝遅刻した本当の理由です。
終わり

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