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男の”瘦我慢”――『カサブランカ』1942年

 超有名作を再見。映画らしい映画だと思う。女への愛と歴史の大河が交錯する。シニカルで何事も中立を標榜する酒場の主人リック(ハンフリー・ボガード)。かつてはレジスタンスの闘志だった。
女に裏切られたと思っていた彼は、表面上、シニカルな中立主義を取っていた。
 しかし、かつての恋人イルザ(イングリッド・バーグマン)が現われる。何とか逃がしてやりたいとリックは奮闘。最後はドイツ将校を殺してまでして、彼女とその夫を逃がす。
 彼女を愛しているがゆえに、自分は犠牲になって夫とともに旅立たせたのだ。最後は、フランス将校と友情が芽生え、ほろ苦くも救いのある結末だった。

 パリでリックがイルザとはしゃいだデート・シーンは何だかボガードらしくいない。女も夫に忠実だったが、夫が亡くなったと知ってリックと恋仲になった。女性の弱さといえば弱さだが、リックはそれを知って許し、涙をこらえ元夫の元に返したのだ。

 近年、ジェンダー平等というが、こうした男の“痩我慢”は男が男であるために必要なことかもしれない。なんでも平等にして「男も弱音を吐きましょう」、「男も泣いてもいい」という風潮だが、どこかで踏みとどまらないと何かが失われるような気がする。かつて福沢諭吉は勝海舟があっさりと江戸城開城したのを批判し、「痩我慢」が一国の名誉を保つと述べた。それと同様に男女でも痩我慢してでも無根拠でも、男であること、女であることをどこかで保たないと各々の魅力は消えてしまう気がする。アナクロな結論で異論は承知だが、そう思った。


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