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高橋幸宏のフランス趣味

 昨日、YMOメンバーの一人高橋幸宏が亡くなった。氏の音楽や趣味は多彩・多様だが、私は高橋の特徴としてフランス趣味を挙げたい。

 英語圏のポピュラー・カルチャーを相対化するようなフランス趣味は、YMOとその周辺に明瞭に存在し、それが日本の80年代以降の音楽やカルチャーに与えたものは少なくないと思う。

 たとえば、高橋の兄貴分の加藤和彦にはフランスやベルリンで録音したヨーロッパ三部作(『パパ・ヘミングウェイ』1979年、『うたかたのオペラ』1980年、『ベル・エキセントリック』1981年)があるし、大貫妙子には、プロデューサーの牧村憲一氏が先導した『ROMANTIQUE』1980年 がある。もちろん三者のアルバムに関わりドビュッシーを敬愛する坂本龍一にフランス色があるのは言うまでもない。ただ坂本自身はフランス趣味を前面に出した曲はないのではないか。

 高橋自身のフランス趣味は、YMOの「中国女La Femme Chinoise」(ゴダールの映画のタイトル。だがフランス語が微妙に違う)やファースト・アルバム「Saravah Saravah !」の「セ・シ・ボン」のカバーがすぐ浮かぶ。YMOといえば、あの赤い人民服だが、発案は高橋によるものか?坂本によるものか?(どなたかお教えください)。ゴダールのようなおふざけ革命ゴッコとしてYMOは意識されていたのか?それにしても、わざわざゴダールを経由して謎の東洋人を演じるとは全くもって屈折している。また高橋はクロード・ルルーシュの『男と女』を大変、愛好しているとどこかで語っていた。
 
 そうした彼らの趣味の結晶がピエール・バルー『Le Pollen花粉』1982年である。高橋をはじめ、加藤、坂本、それに鈴木慶一、清水靖晃が参加している。この中で高橋が前面に出て来るのが「Le Pollen花粉」で、ピエール・バルーと高橋が好きな芸術家の名前(ジャン・コクトー、グスタフ・マラー、藤田嗣治など)を交互に挙げあう遊びが収録されている。何というか高橋のキザさとフランスの憧れが入り混じっていて、かなり気恥ずかしいが、愛嬌があるかな。ピエール・バルーもよく付き合っている(笑) ともあれ、曲をお聞きください。

 高橋たちの功績は、50、60年ぐらいにはシャンソンなどの形で確実に日本に存在ーー高橋より一世代上の中西れい(1938年生)や加藤の妻の安井かずみ(1939生)は、フランス語の訳詞から出発しているーーしたフランス趣味を80年代に再導入したことにあると思う。

 それはMTVによる英米一色の80年代への対抗であり、彼らの差別化戦略でもあった。またフランス・カルチャーはロックよりはるかに大人で洒落ている。こうしたことが、その後の日本のポピュラー・カルチャーの成熟に寄与したものは意外と大きいのではないか。目立つわけではないが、温泉のように効いて来る感じ♨←スミマセン。YMOの温泉マークは出ませんでした。
 
 高橋幸宏さん、安らかにお眠りください。
 

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