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創造性の秘密--触発しあう才能、並外れた集中力

作曲家・モーツァルトと劇作家・ダ・ポンテが出会い名高いオペラ『ドン・ジョヴァンニ』を作り上げるまでを描いたカルロス・サウラ監督の2009年の作品(このオペラは、女と見れば口説いているナンパ男が最後には地獄に落ちるという内容で楽しげな話)。
 
 映画ではダ・ポンテが主人公。彼はヴェニスで生まれ、ユダヤ教からキリスト教に改宗し、司祭になるものの放蕩生活からヴェニスを追い出され、ウィーンで劇作家となって本作の台本などを書いた後、渡米しでイタリア文学の教授になった人らしい(そんな人がいたんだ!)。他方のモーツァルトは死ぬ3年前。体調がすぐれないうえに金欠病で妻に怒られながら作曲活動をしている。

 そんな二人が出会うところから、『ドン・ジョヴァンニ』作りが始まる。この映画の見どころは、二人が協力し、刺激しながら作品を作り上げていくところだろう。ダ・ポンテは、落ち込んでいるモーツァルトを何とかその気にさせ、体調が悪化するほど打ち込むに至る。 
 
 ダ・ポンテはダ・ポンテで、ドン・ファンさながらの生活をしながらも、最愛の人と再会し何とかものにしようと必死になっている。この恋が、作品の協力者だった色男カサノヴァの示唆を振り切って、台本を純愛に生きるという結末(この解釈が主流なのかは不明)にするなど強いインスピレーションを与えていた。二人は実生活でそれなりの苦悩を抱え、何度も挫折しそうにもなるが、それを乗り越え何とか完成までにこぎつけたのだ。

 この映画でもモーツァルトは、30歳を超えているのに子どもっぽくややエキセントリックだが、閃きや音楽にかける情熱が卓越した人物として描かれている。ダ・ポンテとのセッションや家で楽想を思いつく様子がなるほどと思わせるように描かれている。

 天才というのは、取りつかれたように真剣に夢中になれる人のことだ。この映画では、作品がモーツァルトに憑りつき、体調を崩しても完成させようと執念を燃やす彼が出て来る。こういう集中力や執念は見習いたいが、そう簡単に習得できるものではなく、何か人知を超えたものがあるとしか言いようがない。

 最後に映画全編に出て来るモーツァルトの演奏もかなり聞き答えがある。彼の音楽は世に名高いナンパ男の突き抜けた不真面目さや軽さを実によく表現していて、これは誰も真似できない。

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