嘘とうらやみと海
ああ、人をうらやんだりして
夜更けの鏡を覗いて
視えるはずない横顔を探しあぐねている。
何かを喪った分だけ
取り戻すみたいに爪を伸ばして
おまえの指先で蝶は蜜を求めて舞う。
おまえは自信と自分を失くして
何かに溺れていたいと願う。
*
高い衣装を身に纏い通りを行けば
目をくらませる者がいる代わりに
やはりおまえも目を喪った。
心さまよう季節には
詩もメロディも宿ってはくれない。
忘れ去られた言葉が
藻のように海底で澱む。
夢と誇りと煩悩と
君への愛を秤にかける。
*
眠っていた言葉が突然
三年ぶりに僕の胸を揺らす。
積みあげていくのはいつだって
とても難しいことだけど
崩れ去るのは一瞬だから
必死でそれをもう一度呼び起こす。
腕に耳を寄せればいつだって
拍動が僕の鼓膜を揺する。
すこしは静かにしてそいつに
じっと耳を澄ますんだ。
(2001年5月5日〜2005年7月)
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