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WEBフラットデザインの起源『1940年代スイス・スタイル』は何故スイスで始まったのか

WEBデザインに携わる人なら、もちろんご存知の『フラットデザイン』。
立体感や光沢感などの視覚効果を無くし、シンプルで平面的な概念を用いたWebデザインとされています。

2010年頃から、以前の『リッチデザイン』に変わり、現在にも続くWEBデザインのスタンダードな手法になりました。
フラットデザインが広く採用された背景には、スマートフォンの登場によるWEBサイトのマルチデバイス対応があります。複雑なWEBサイトは、PC・スマートフォン・iPadなどのタブレットなど、デバイスごとの見え方が大きく異なる上、制作工数も複雑化してコスト高を招くようになりました。

そこで、一つのシンプルなWEBサイトデザインを作ることで、マルチな表示環境に適応できる『フラットデザイン』が有効だったのです。

ところで、そのフラットデザインの起源は、約80年前のスイスで生まれたデザインムーブメント、『スイス・スタイル』にあると言われています。
なぜスイスから、現代にも繋がるこのデザインのムーブメントが起きたのか、当時のデザインの潮流とスイスならではの国家観から紐解いてみたいと思います。

スイス・スタイルの特徴

左右非対称のレイアウト、グリッドの利用、サンセリフ書体、左揃え右ラグ組み(段落の左側の文字を揃え、右側は自然のままに不揃いにしておく)のような書体などが特徴でした。
また、イラストやドローイングの代わりに写真が好まれていました。
文字を単なるテキストとしてではなく、グラフィックの主要素として大胆に構成する『タイポグラフィ』に重きを置いたデザインが主流で、特にヨゼフ・ミューラー=ブロックマンやカール・ゲルストナーという2人のグラフィックデザイナーによって、その礎が築かれ発展していったと言われています。
1957年には世界一有名なフォントと言われる『ヘルベチカ』が生まれ、スイス・スタイルとともに世界中に広まっていきました。

Akzidenz-Grotesk(アクチデンツ・グロテスク)。この書体は近代スイス・スタイルの顕著な特徴になったとされています。

多言語国家としてのスイス

19世紀、当時の欧州では君主制国家がまだ数多く占めていたころ、スイスではいち早く連邦制国家体制が確立されました。以降、中世以前から続く、さまざまな同盟関係の系譜があり、現在の26州からなる近代国家へと発展していきます。
そんな国家体制の成り立ちから、国内で使われる言語も周辺国との関係が色濃く反映されており、大きく挙げると5種類あります。
ドイツ語フランス語イタリア語ロマンシュ語、ラテン語。
ヨーロッパの中央に位置する国として、さまざまな言語圏、文化圏が交わる中で「言葉の多様性」をグラフィックに取り入れるためにもタイポグラフィは社会から要請されたデザイン手法だったのかもしれません。
また、中立国として第一次・二次世界大戦の戦禍を免れたことで、隣国の亡命者たちによる多様な文化形成が成される中、コミュニケーションに一貫性を持たせる中立的なシステムが必要とされていて、国際社会と需要が一致して、発展してきたとも言われています。

近年のデザイン思考・ソーシャルデザイン

近年、デザインを広義に捉えて、さまざまな分野・フィールドで活用されるケースが増えてきました。
ソーシャルデザイン、という領域もあらわれ、社会課題に直接アプローチをするデザイナーも登場しています。
とはいえ先進的なデザイナーからすれば、元々デザインというのは、あらゆる物事の『設計段階からの思考プロセス』を行うことであって、今までの日本ではビジュアル化のみが狭義的に突出してしまっていて、本質が理解されていなかったと言われています。
ようやく社会の理解が追いつきつつあるということでしょうか。

スイス・スタイルから学ぶ、多文化共生のためのデザイン

そんな近年での社会課題というもの大きく捉えたとき、その解決方法としての『多文化共生』、つまり世界中のあらゆる人や文化と交わりながら生きていくためのアクションが最重要ではないか、と私は考えています。
世界中で多文化共生が可能になれば、社会のあらゆる問題解決に互いに協力できるし、手を差し伸べあえます。
それが広がっていけば、国連のSDGsで掲げられた17のゴールを達成できる可能性すら秘めています。

そのためにも、まずはあらゆる言語圏・生活圏・経済圏の人々が、社会課題に対して等しく認知して理解する必要があります。
デザインの力が、それを実現してくれると私は強く希望を持っています。

かつて中立国として2度の世界大戦の戦禍を免れ、あらゆる言語や文化が混ざり合うスイスで生まれた『スイス・スタイル』は、まさに世界中のビジュアルコミュニケーションの聖地であり、世界平和の可能性でもあったと思います。

デザインによって、多文化共生は成せる。

スイスのデザインに学び、今の時代に要請されているデザインを見つけ、後世に繋げることが、デザイナーだけでなく全ての社会人で取り組む課題かもしれません。

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