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鬼の気持ち

出張へ行った時のこと。二日酔いの朝に朝食ビュッフェに行った。起きたのが遅く、終了時間ギリギリに滑り込んだ。ビッフェのドリンク列に並んでいると、1人の男の子がドルジの前に割り込んで来た。齢は5歳くらいで、両手でコップを落とさないように大事に持っている。背後の気配を感じ取ったのか、彼が振り向きドルジと目があった。どうやら列ができていることに気がついていなかったらしい。ドルジは大人の余裕をみせ、どうぞと先を譲る。彼は表情は変えず首だけで感謝を伝えた。氷の前に立つとトングが彼の頭と同じくらいの高さにある。両手が塞がっている彼はどうしたらいいか戸惑いながら背伸びをしている。取ってあげようか?と声をかけてドルジは彼のコップに氷を二つ入れた。キョトンとした顔でこっちを見た彼は、そのままオレンジジュースの方に目線を送った。どうやらこれが飲みたいようだ。ここに置いてごらんと話かけ、コップを蛇口の下に置かせた。ドルジがボタンを押すとチョロチョロとジュースが出てくる。コップにジュースが溜まるのを彼は興味津々に、じっと見つめている。コップがオレンジ色に染まると、彼は満面の笑みでこちらを見て、うしし!と笑い、オレンジを溢さないように慎重に自分の席へと戻っていった。何だかすごいほんわかした気分になったドルジ。自分のアップルジュースを入れて、彼の席の方を見ると、母親から勝手に動いちゃダメじゃないと注意されていた。
微笑ましいなと思うと同時に、よく考えてみた。ドルジは今、二日酔い寝起きの寝癖髭メガネ浴衣スタイルの風貌だ。もし、彼と会話しているところを母親に見られたら変質者だと思われ悲鳴を浴びていたかもしれない。子の無邪気さと親の警戒心。善かれと思ったことも悪意に取られかねない切なさ。二日酔いのズキズキ痛む頭で、泣いた赤鬼やフランケンシュタインの気持ちを理解したドルジなのでした。

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