映画「ライフイズビューティフル」を見た時のこと(ネタばれあり)
(この映画を後で見たいという方は、映画を楽しむために、この先を読まないようお願いします。)
ここに出てくる男性は、小学校の先生に一目惚れし、桁外れなアタックの末に駆落ち同然で結婚して、息子を授かります。
戦時色が次第に濃くなって、ユダヤ人に対する迫害行為が行われるようになります。
そして、ナチス・ドイツによって、お父さんとお母さんと息子は強制収容所に送られてしまいます
母と引き離され不安がる息子に、お父さんは嘘をつきます。
「これはゲームなんだ。泣いたり、ママに会いたがったりしたら減点。いい子にしていれば点数がもらえて、1000点たまったら勝ち。勝ったら、本物の戦車に乗っておうちに帰れるんだよ。」
絶望的な収容所の生活も、お父さんが説明すると、楽しいゲームに様変わりします。息子は希望を失うことなく生き延びることができました。
このお父さんはどんなに事態が逼迫し大変な時でも飄々としています。ちょっと仕事で困ったことがあると深刻に悩んでしまう私と正反対です。
それこそ不真面目に見えるぐらいに軽く判断し行動しているように見えます。そして自分が考えられる限りの手立てをとることができるのです。私は、不遜にも、「人生を軽く考えているから、こんなに不真面目に生きられるのだ」と思いながら映画を見ていました。
だいたい、こんなに女の人に好き好きって言ったこと私はないし、なんだかかっこ悪いよなあ。この男性には自尊心というか、プライドを全然感じないよ。ほんと嫌な感じだよ。
若かった私は、ずっとこんな感じで映画を見ていました。どうせハッピーエンドに違いないし。俺の人生はいつもうまくいくわけじゃない。やっぱり映画の世界だななんて、ちょっと拗ねた気持ちで見ていました。
歴史の結果の予想通り、ドイツ軍が劣勢になり助かるチャンスが出てきました。
でも、お父さんは息子と一緒に逃げようとしたときに、ドイツ兵に見つかってしまいます。
ゴミ箱の中に居て、見つかっていない息子に、お父さんは、にこっとしてウインクします。背中に銃を突きつけられているのにです。今度はどうやって助かるんだろう?とわたしは見つめていました。
まるで喜劇の主人公のように息子の前をお父さんはおどけて通りすぎます。
どちらかと言えば軽い感じに見えていた私は、この時でさえ、親近感を持つことができませんでした。
お父さんはランボーのようにたくましくありませんでしたし、やせっぽちだしかっこ悪いんです。どこか自分みたいだなって思っていたのかもしれません。
角を曲がったときに、銃声がして、お父さんはドイツ兵に撃たれてしまいます。それっきりお父さんは出てこなくなります。
「え、亡くなったの?うそでしょ。」
私は愕然としました。必ず助かると思っていたのに、いや、いつの間にか、収容所のつらい生活を生き延びたのだから、息子と一緒に助かってほしいといつの間にか思っていたんです。亡くなったことが信じられませんでした。
お父さんの息子への言葉がリフレインします。
「これはゲームなんだ。泣いたり、ママに会いたがったりしたら減点。いい子にしていれば点数がもらえて、1000点たまったら勝ち。勝ったら、本物の戦車に乗っておうちに帰れるんだよ。」
お父さんは亡くなった後も自らの言葉で息子を守りました。連合軍に向漬けてもらった息子は、戦車に乗って収容所を移動し、お母さんに会うことができました。
軽薄で図々しくて嫌な男性だと思っていた私は、自分の大間違いに気づきました。彼は過酷な人生の中でも自分が愛している人をとことん愛して、そして授かった息子を自分の智慧を最大限に使って守ったのだとわかったからです。
いや、智慧じゃない。勇気です。自分のことだけ考えていたら、背中に銃を突きつけられているのに、あんなにおどけていられません。息子がおびえないように目の前でなく、見えないところまで歩いていき撃たれました。怖かったことでしょう。痛かったことでしょう。でも、息子が生き延びることに彼は賭けたのです。
未だに、このお父さんほど映画の最初と最後でイメージが変わった登場人物に会ったことがありません。
この時私は、もし父親になったら、非常時にも明るくふるまえる男になりたいと思いました。
そうか!そうだったのか!
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