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読奏劇×ListenGo<天衣無縫>

 本日6/4(金)正午より、梅津瑞樹さんによる朗読「天衣無縫(織田作之助・著)」の配信が開始されましたので、コンテンツ内容について書きたいと思います。(毎回の如く、内容のネタバレがありますので、ご注意ください)

 こちらもいつも通り「読奏劇とは何か?」を冒頭簡単に説明させて頂きます。「読奏劇」は2020年8〜11月にかけて配信した、著作権が消失した国内外の名作小説・童話等を題材に、音楽のミュージックビデオのように映像演出で見せる、配信に特化した朗読劇です。正式名称は「Dream Stage -読奏劇-」。音楽のスタッフと映像で活躍されるスタッフの皆さんとで制作した為、完成作品は時には映画のような・時にはドラマのような内容になっています。現在はダイジェスト映像のみをYouTubeにて公開中ですので、ぜひ覗いてみてください。

 今回は、前述の読奏劇の”音声部分のみを配信する”新サービス(スピンオフ企画)ということで、前回を”映像版・読奏劇”、今回を”音声版・読奏劇”と呼んでいます。音声サービスのポイントは、朗読音声に、作品の世界観や朗読頂いたご出演者様の声質や演技の方向性をイメージしてSE・BGMを乗せており、より作品の世界に浸って頂けるような作りを意識しています。また、SE・BGMは各ジャンルのクリエイターさんが公開している自由利用可能な音源を利用している点も、普通の作品と異なる異色な部分になります。その意図については別回の制作話でも書いておりますのでご興味があれば覗いてみてください。

 さて、梅津瑞樹さんとは今回のお仕事が初めてだったのですが、本をとにかく読まれていてる方だという事は以前より存じ上げていましたので、ご自身で読みのディレクションができる梅津さんだからこそ読める作品にトライしたいという考えがありました。ですので、ご提案時にいくつか候補作品をお伝えはしていたのですが、その中でもこの「天衣無縫」を強くプッシュさせて頂きました。そして完成した作品を見て、やはりこの作品で良かったと強く思いました。

 天衣無縫は口語的で、しかも内容が非常に現代的で、令和の今でも同じシチュエーションが多々ある為、聞き手にもすんなり入ってきやすい作品だと思います。主人公・政子の夫となる清正は、お見合いの日に知人の誘いを断れずに飲酒して出席してしまったり、デートで文楽に誘ったら遅刻するだけではなく、そもそも文楽は既に公演期間が終わっていたり、食事に誘って財布を忘れたり、お金を貸して欲しいとお願いしてきた友人に、自分の服を質入れしてまでお金を貸したり、ストレートに言うと「ダメ男」なのですが、本当に約70年も前に公表された作品なのか?と思わせられる程、いまを生きる私たちと重なる部分が多くてびっくりします。人の気質は時代が変わっても変わらないのかな?等と他人事であれば笑って読めてしまう作品です。

 さて収録前の打ち合わせでは、梅津さんの読みについての考え方をヒヤリングして進めていきました。文章中、「 」カッコがある部分の会話と、本文中にカッコで括らずに会話をしている部分の読み分けや、前述の読み分けをする場合の地の文との読み分け(差別化/区別)、訛りの強い方言をどう表現するか?政子と清正と役を演じるのか?等です。天衣無縫は一発録りするにはそれなりに文量のある作品なのですが、口語的で聞き手にわかりやすいとは書いたものの、言い回しで使う単語にとにかく慣れないワードが多く舌がもつれます。40分近く読むと本を読む事に慣れている方でも本当に辛くなってくるワードチョイスです。そういった事からもベストを探っていった結果が今回の読みの方向性でした。コンテンツを購入された方はインタビューにその旨の内容も掲載されていますので、ぜひ読んでみてください。

 読みは先の通り、梅津さんのセルフディレクションの元で進行していきました。そして収録された音声に乗せるBGM、デジタルブックの写真については細かいネタを散りばめるような制作をしています。まずBGMはジャズ・ファンクの楽曲をベースに曲組みをしていますが、これは、本文中で政子が理想としていたデートが音楽会やお芝居・映画だったのに対して、現実は文楽であり、お寺の寄席であったことが書かれており、読奏劇・天衣無縫では、「政子が理想としていたオシャレな空間(=ジャズバーやジャズライブハウス)で清正について語っているストーリー」を意識して制作しています。また、本編12:35付近〜、35:01付近〜ラストと印象的なシーンに二度同じ楽曲を使っており”テーマ曲”を仮想設定しています。

 次に、白い背景で梅津さんが体を丸めて眠っているメイン写真については、ダブルミーニングを採用しました。"清正の寝入る姿"と妊娠した政子の"お腹に宿る新しい命"のダブルミーニングです。ドワンゴさんの独占インタビューの中にそれが最もわかる写真が散りばめられています。

 フォトグラファーの水津惣一郎さんとは、意味がわかると面白い小ネタを仕込みたいという話を毎回していますが、日記帳の写真で伊万里さんが持つ”斜めに貼られた切手”等は、本編を聴いた方・読んだ事がある方が誰でも気が付く可能性がある反面、こういった写真は恐らく説明をしないと誰も気が付かないだろうと思うのですが、noteの隅まで目を通してくださった方が、あとでデータを見直して「なるほど!」と思って貰えるくらいの内輪ネタを今後も制作する機会があれば散りばめていきたいと思っています。

 天衣無縫は令和でも非常にイメージしやすい内容・シチュエーションである為、映像版で演出をしようとしてもコメディになりやすいといいますか、深みを出す事が難しいような気がしています。そういう点では、今回配信された4作品の中で唯一「音声版だからこそ表現できる作品」ではないかと思います。この記事を読んで制作意図と違う視点で読んで頂いていた方は、ぜひもう一度、別の視点から読んでみてください。


羽田野嘉洋(Dreamline inc.)


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