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母の規範を手放して、私の人生を生きる」—『娘が母を殺すには?』(三宅香帆著)



画像:楽天ブックスより

1. 母娘問題を読み解く鍵としての『娘が母を殺すには?』

『娘が母を殺すには?』は、「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」で三宅香帆さんに関心を持った私が図書館で手に取った一冊でした。年間365冊(!?)もの本を読む文芸評論家である三宅さんが、この本で「母娘問題」に焦点を当て、数多くの文学作品を引き合いに深く掘り下げています。

この本を読むと、母娘問題というテーマがいかに普遍的かつ多面的であるかを実感します。紹介される本の中には私が読んだことのあるものもあり、見慣れた物語に新たな視点を与えられる感覚が新鮮でした。特に、最後の「『母殺しの物語』を生きる」(215ページ)という節が印象に残りました。


2. 「『母殺しの物語』を生きる」について

「母殺し」とは、文字通りの意味ではなく、母親が娘に植えつけた価値観や規範を手放し、自分自身の欲望や人生を優先することをいいます。

三宅さんは「母殺し」のプロセスとして、「母が嫌がりそうだな」と思うことをあえて一つ実行してみるというアプローチを提案しています。この方法は暴露療法に似ていて、とても興味深いと感じました。

実際、母親との関係で悩む多くの人は、その悩みが原因で自分自身の人生を生きられなくなっています。そのため、自分の人生を主体的に生きるための取り組みが必要になります。

たとえば、以前わたしが読んだ本で紹介されていた方法では、自己肯定感が低い人は一人の時でも、自分を大切に扱うことが推奨されていました具体的には、自分のために特別なカップを用意し、高価なお茶を飲み、良い洋服を着るなど、自分をもてなす行動を取ることが挙げられていました

こうした小さな工夫や行動を積み重ねることこそが、自分の人生を自分で生きるための「努力」なのだと実感します。あえて「努力」と書いたのは、自分の人生を主体的に生きるという行為が、決して自然に身につくものではなく、この社会では後天的に獲得していくべき「スキル」であるからです。多くの人は、環境や人間関係に影響を受ける中で、自分の価値観や意思を見失いがちです。しかし、それでも「自分で選ぶ」「自分で決める」という力を鍛えることが、自分の人生を生きるために必要不可欠なのです。


3. 母娘問題を超えて社会へ

母娘問題の根幹には、女性の社会的立場の低さがあると私は考えています。特に母娘の関係において、母親は「良い母であれ」という規範に縛られ、娘はその影響を受けて育つ。こうした構造は非常に根深く、見えにくいため、社会の構造と気づきにくく、気が付いたら「自己責任」という4文字で片付けられてしまいます。

それでも、個々が自分の人生に向き合う努力をする中で、社会全体が育児や家庭に対する理解を深める必要があります。特に女性が自分の人生を主体的に選択できる環境を整えることが、母娘問題を解決するための大きな一歩になるでしょう。

『娘が母を殺すには?』を通じて感じたのは、この問題は一人で抱え込むにはあまりにも大きいということです。この本は、母娘問題に悩む人はもちろん、誰もが一度手に取るべき一冊だと強く思いました。

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