視覚障害者情報提供施設がお送りする読書会『よむ・きく・はなす Vol.1』開催レポート

画像1

去る2020年9月26日(土)、視覚障害者情報提供施設がお送りする読書会 『よむ・きく・はなす Vol.1 』を旧名古屋盲人情報文化センター(現 名古屋ライトハウス情報文化センター)集会室で開催致しました。
ご応募をいただいた晴眼の方8名、視覚障害の情報文化センター職員2名の計10名のご参加。そこへ、会の進行役として晴眼の情報文化センター職員が2名、運営スタッフとして法人内他施設職員1名が加わった総勢13名でした。参加者全員のマスク着用、2つのグループに分け一定の距離を保った席配置など、現在の情勢に合わせた配慮のもと開催致しました。
                                   レポートの前に、この読書会開催の背景を少しだけお話しさせていただきます。肝となったのは、私たち視覚障害者情報提供施設は「視覚障害者の暮らしやすさに寄与する」こと、その役目を私たちの立場でもっと積極的に担うことが出来るのでは?と思ったことでした。
 たとえば、家族や友人・知人に視覚障害者がいない晴眼者は、横断歩道で困っている視覚障害者を見かけてもどうしたらよいかわからないという。一方、音響信号の設置が増えることは視覚障害者にとって、とても大切なことだけど日本全国すべての信号が音響信号になるわけではない。であるならば、必要なときに「信号変わりましたよ」と気軽に声を掛けてくれる人がいまよりたくさんいたらいいのではないか? 視覚障害者の状況を理解してくれる人がいまよりたくさんいたらいいのではないか? 世界がそうなったら、視覚障害者、晴眼者双方にとって、いまより幾分か暮らしやすいのではないだろうか。お互いにとっての「隣人」を少しずつ増やしていきたい。あー、それなら出来ることがありそうだ。                場所をつくることに少しずつ挑戦していけばいい。
 チラシのコピーにあった「本が真ん中、本好き同士が話すだけ」「視覚に障害のある方々も一緒に」。これって、私たちの役目のひとつ、書籍をはじめとした墨字の情報を点字や音声に訳して提供していること自体が、視覚障害者と晴眼者が出会う場所をつくるきっかけになり得るっていうこと。  試してみたくなりました。読書会、やってみましょう。そんな感じです。

画像2

 大変長い前置きにお付き合いいただき、ありがとうございました。
 改めまして、視覚障害者情報提供施設がお送りする読書会『よむ・きく・はなす Vol.1』開催レポートをお送りいたします。
 今回「他人の意見を否定しないこと」、これをただひとつのルールとして設定致しました。感想などを伝え合う形式の会にしたこともありますが、名古屋が誇る読書会・猫町倶楽部が採用しているルールであるということは大きかったです。あやかりたい気持ちと申しますか。           結果、異なる意見が交わされた時も、対話を外れることなく進んでいたように思います。
 課題本は、「ショウコの微笑」チェ・ウニョン著 クオン刊 収録の短編「シンチャオ・シンチャオ」。選書理由は、選者の「小説でこんな衝撃を受けたのは随分久しぶり。知らないこと、知ろうとしないこと、思い出したくないこと、そうでしかいられないこと、なんだか私は自分の来し方行く末を考えさせられた。もうこれは是非誰かと話したい!」という溢れる思いに駆られたこと。さらに、選書をした2019年夏当時の日韓関係などの影響も。 ここでも「隣人」はとても大きなキーワードになっていました。     

 さて。お集まりいただいた皆様には2つのグループに分かれていただきました。冒頭はあいさつを兼ね、このレポートの前置きをほぼそのままお伝え致しました。その後、テーブル毎に視覚障害者と話す際のポイントとして、①発言の際はその都度、名を名乗っていただくこと、          ②相槌は声を出していただくこと、の2点をお伝えし、それぞれ自己紹介を済ませて、実際に読書会スタート。私たちもはじめてのことなので、ファシリテーターを担当している職員もどうしたものかと様子を伺うような感じだったのも束の間、ご参加いただいた方の中に、読書会経験者が数名いらっしゃったので、どちらのテーブルもその方々のお力を借りながら、対話が回り始めました。
 グループごとにいくつかご紹介致しましょう。

画像3

 ひとつめのグループは、作品の印象を交換しあう感じで始まりました。
「とてもシンプルで読みやすい作品ながら、繰り返し読めば読むほどそれぞれの登場人物の生きづらさを感じる。何回も読みこむことで深みが増す。」
「服や食事などの細やかな描写から生活の詳細が見えてくるような描き方に女性ならではのディティールを感じた。」
「直接的な説明をせずに、ちょっとした登場人物の行動から心理を描写しているのが素晴らしい。」

徐々に作品からご自身を照らされる意見も伺えました。
「主人公の『何も知らなくてごめんね』という言葉が自分自身にも突き刺さる。」
「『もう昔のことだから』という言葉を被害者(グエンさん※ベトナム側)が言うのと、
加害者側(この場合は韓国側としう意味で父)が言うのでは大きく意味が違ってくる。」
「年代のことを考えると自分の年齢ともあまり遠くないまだ最近のことなのに、ベトナム戦争の詳細を自分もよく知らなかった。」など。

 また、いくつかのシーンを共有しながら、意見交換が進み、場があたたまります。ウッドストックを塗りつぶしてプレゼントした描写や、編み物のくだりで『相手の事を思いながら時間をかけている』ことがよくわかる、と他者と共有したからならではの意見となり、シンチャオ・シンチャオって日本語にするとなんだろう?「どうも・どうも」?「やあ・やあ」?といった話で、笑いが起きたり、映画のおすすめ話や韓国文学の話題、「視覚障害者に色の話はしてもいいの?避けた方がいいの?」といったこの会ならではの質問が出たりなど、和やか且つ多様な角度から意見が交わされていました。

 もうひとつのグループでは、作品の印象から歴史や現在について考えるように進みます。

画像4

「ベトナム戦争における加害国サイドから書かれていることに意味があるように感じる。」
「大人は相手の国がどういう国か知っている。それでいて、この両家族のように振る舞えるものだろうか。」
「食事の描写が細かく、かなりの分量で書かれていて親近感が湧いた。」
「両方の家族が思うところをかかえていたが、女の子が言葉にしたことでバランスが崩れてしまった。」
「グエンおばさんは最後まで内に秘めようとした。」
「女の子の母親が謝ったのは自分も謝って欲しいと奥底に思っているのではないか。」
「父親は、お互いに辛い思いから解放されようという複雑な思いがあるのではないか。」
など、当時から現在に至る国同士の関係性、人同士の関係性、人間性そのものまでが話題となり、
「もっている人は、もたない人をどう見るのか。無条件にかわいそうだと思っていないだろうか。」
「貧困問題・格差問題やアジア諸国との関係から、今の日本にも通じるものがあり、よそ事ではない。」
「学校では自国が被害者であると言うことを子どもに教える。子どもが真実を知らない、もしくは間違って認識しているのは大人の責任ではないか。」
「日本は海外に比べ、戦争史の教育が不足しているように感じる。」
など、戦争や格差、教育などを掘り下げるような対話もございました。
とはいえ、決してシリアス一辺倒というわけではなく、参加した視覚障害者の方が、視覚障害者としての立場からの発言で場が盛り上がったりなど、終始和やかでございました。

読書会の醍醐味のひとつに、テーブルによって全く角度の違う多種多様な意見が聞けて、ひとつの作品が自分一人では考えられないほど、立体的に浮かび上がってくる、ということがございます。本会、おかげさまで、まさにそんな様相でございました。ご参加いただいた皆様、本当にありがとうございました。
「もう一回読んでみよう」とおっしゃっていた参加者の方が少なからずいらっしゃったことは、読書会として〇をつけてもいいのではないかな、と思っています。

 今回、開催にあたり「ショウコの微笑」の出版社クオンの伊藤様には並々ならぬご厚情を賜りました。この場を借りて、心より御礼申し上げます。 誠にありがとうございました。
クオンさんは、新しい韓国の文学と銘打ったシリーズを刊行していらっしゃいます。点訳、音訳がされている作品もございます。皆さんも是非お読みになってみてください。
 また、「ショウコの微笑」表題作の翻訳者である牧野美加様にも、大変お世話になりました。誠にありがとうございました。

最後に、終了後のアンケートから本会への感想をいくつかご紹介致します。
設問 『本会は、視覚障害者と晴眼者が出会う機会ということも企図しています。いかがだったでしょうか?』
回答 『上手くいっている』6名 『まあまあ』2名
「とても面白い体験でした。いつも参加している読書会では気づかなかった事が多かったです。」
「お話をうかがう機会が日常あまりないので。」
「参加された視覚障害の方が、『例えば・・・』と視覚障害者としての体験を交えてお話ししてくれたので。」
「本を通じてお互いの価値観や日々考えていることについて話し合えたので。」
「作中のエピソードから本を超えて色々な話しができたので。」
「選書もとてもよかったと思います。」

ご参加いただいた皆様にも楽しんでいただけたようで、ひとまずは安心致しました。
 肩肘を張らずに、視覚障害者と出会ってみて関わってみる。私たち視覚障害者情報提供施設は、日々の業務そのもので且つ身の丈を外さない架け橋となれそうな範囲で、そんな機会をつくっていく。
 今後しばらくは、年に2回程度の読書会開催を予定しています。

 次回の開催予定日は2021年3月20日(土)です。
 課題本、開催場所など詳細決まり次第、名古屋ライトハウス情報文化センターホームページやあちこちのSNSなどで発表致します。皆様のご参加を心よりお待ち申し上げます!                      ありがとうございました!

SPECIAL THANKS to
on reading(東山公園)、喫茶アミーゴ(大須)、
港まちづくり協議会ポットラックビル(築地口)、           読書喫茶リチル(今池)、シマウマ書房(今池)、           金山ブラジルコーヒー(金山)、バナナレコード(大須)、      SEANT(矢場町)                          名古屋市公共図書館全館、愛知県図書館、名古屋市 (順不同)

ありがとうございました!

                                                                                                (Y.N)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?