『クララとお日さま』カズオ・イシグロ
ジョジーの回復か、継続か。クララに突きつけられた選択は残酷であった。
太陽光を稼働源とし、高機能AIを搭載した人工親友(AF)、クララ。感性と理解力に富んだ彼女は、ある日、自身が売られている路面店にて、ジョジーという少女に見出される。クララに与えられた任務は病を抱える彼女のかたわらに寄り添い、その回復につとめることだった。
しかし、やがてクララは自分に与えられた真の役割を知る。ジョジーの母・クリシーが望んだのは、ジョジーの死後も彼女がAFとしてその後の人生を継続すること。ジョジーのそばで彼女を観察し続けてきたクララは、AIとしてジョジーになり代わることを求められる。
それでも、クララはジョジーの回復を信じ、自身の源たる太陽に祈り続ける。お日さまこそが、ジョジーを救うことができると信じて。死に抗い、生命倫理をも侵そうとするクリシーとは真逆である。AIである彼女だけが、死という不可抗力に「祈る」ことができる客体なのである。
ところで、物語の末尾、クララは興味深い言葉を残している。
クララであればジョジーの心理、行動の全てを学習し、それを完璧に再現できたはずである。しかしクララは、ジョジーをジョジーたらしめるものは、彼女を愛する人の中にこそ存在するという。だから、自分では本物のジョジーには届かないのだと。AIであるクララだけが、自己の偏在性を理解するのである。
彼女の思考は純粋でありながらも、逆説的に人間らしい。彼女がみる世界は美しく鮮やかで、そして、やさしいのである。
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