夢の中の夢

夢の中では、ぼくは中3の受験生。

クリスマスもほど近い12月の真夜中に、パジャマを着たぼくはFMラジオを聴きながら数学の受験勉強で素因数分解の問題を解いている。

部屋の片隅では古びたアラジンストーブが青暗く光っていて、「そろそろ外に灯油を入れに行かないと」とぼくは思う。

そんなことを考えているうちに勉強疲れのせいか、机の前に座ったままウトウトと居眠りをしはじめた。

すると中3のぼくはいつの間にか、スーツを来た30代前半くらいの中堅サラリーマンに。

最近会っていなかった中学時代の男子クラスメート3人と、新宿歌舞伎町の雑居ビルの中の狭くて安そうな和風居酒屋で、薄めのハイボールを飲みながら枝豆をつまんでいる。

全員スーツを着ているところからすると、どうやら金曜あたりの会社帰りにでも合流したような雰囲気だ。

とめどなく中学時代のくだらない思い出話をしたりして、皆でひとしきり笑った後のタイミング。突然隣のビルに入っているらしいカラオケボックスから、ブルーハーツの「青空」が漏れ聞こえてきた。

しばらくは全員そのおっさんのがなり声で歌われる青空に聴き入っていたけど、その次の「終わらない歌」の前奏が始まったあたりで、誰かがこういった。

「なんか昔ほどはブルーハーツが沁みなくなったんだよね」

他のみんなは同意するでも否定するでもなく、そのまま「終わらない歌」を口ずさんでいた。

そこで中3のぼくは目を覚まし、机の前で居眠りをしていたことに気づく。

部屋の中のつけっぱなしのラジオからはブルーハーツが控えめに流れていた。

ぼくは大きく伸びをしたあと、眠気覚ましがてらに凍えるような寒さの屋外に灯油を取りに行き、ストーブを点け直してすぐに勉強を再開する。

そのうちに流れていたブルーハーツの曲はいつのまにか終わり、かわりにラジオ局の放送終了のお知らせが流れはじめた。

そんなところでまた更に目が覚める。
そんな夢の中の夢。

#夢中夢 #小説 #短編

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