それは喧嘩ではない。

最近、15年来の古い付き合いになる親友とちょっとした喧嘩をした。
いや、あれは喧嘩とも言えないものだった。

10日程前に、彼ともう1人の知人と3人で借りたばかりのシェアアトリエの改装作業の予定を調整している最中に、とつぜん怒りを含んだメッセージをFB経由で受信。

ただそれを読んだ時、僕は彼の怒りの理由がわからなくて戸惑った。

なぜなら僕はこれまで仕事やプライベートでいつもしていたように、3人の都合を効率よく付き合わせる為に「調整さん」を使って自分の都合を示しつつ、残り2人の予定を聞いていただけだったからだ。

まあそこまでも3人の予定が笑っちゃうくらいに合わないという、当初3人のまとめ役だった彼をイライラさせる予兆はあったけれど。

途方にくれた僕は、「もともと繊細な心の持ち主な彼のことだから、たまたま不安定な時期だったのかな?」とか、「ここ最近のコロナ禍でかなり仕事が影響を受けていた彼は、新しい事業展開のきっかけを早くつくろうとして心に余裕がなかったのかな?」とか、色々考えを巡らせていた。

その後はとにかく彼の気持ちを想像しながら「予定の調整の仕方がちょっと違った?」などと探りをいれつつ、電話をするか直接会って話し合いをしたいと何度も申し出た。

だが彼は「わからない人だね」と言ったきり、音信不通になったのだった。その後はいわゆる「未読スルー」というやつ。

これには久々にヒリヒリきた。

なぜなら僕は普段友達とは揉めることは滅多にない。ましてや親友だと思っていた彼とは一度も揉めたことがなかったし、僕は彼のことを理解している1人だと根拠のない自信を持っていた。そこで突然僕が彼の気持ちを全く理解していなかったという事実を彼につきつけられ「あなたは人の気持ちがわからない」というレッテルを貼られた気がした。

途方に暮れた僕は、彼の言う通りに5日ほどただ時間をおいた。でももう1人の知人には僕らが揉めていることは伝わっていないせいで、3人のスレッド内にはどんどん次の作業予定の調整催促がくる。

そりゃそうだ。それは時間を置いて解決する類の話じゃないし、間に挟まった何も知らないもう1人にとっては、ただのいい迷惑だ。

「そのままじゃ埒が明かないしもう1人の知人に迷惑をかけるので」と先に親友の彼に伝えた上で、3人のグループスレには「今後僕が仕事で忙しく、しばらく改装作業には関われない事になった。お金は払うけどシェアアトリエもしばらくは2人で使って欲しい」と伝え、本格的に彼とは距離を置くことにした。

そしてその僕の書き込みには、すぐに彼の既読マークと、「了解しました」というちょっとだけ他人行儀なメッセージがすぐについた。相変わらず僕ら2人だけのスレッドは未読のままなのにも関わらず。

ここまでの事の顛末をパートナーに話しながらあらためて振り返ると、あることに気づいた。

ぼくのすべてが中途半端だったことに。

一体なにが中途半端だったのか?

コロナ禍で行き詰まった彼の新事業の展開を助けたいと言い出したのは僕だけど、「この日とこの日は仕事で、この時間帯はパートナーとの時間」とはっきり言い切ったのも僕。

揉めた後に「超絶腹立ってる」という彼に対し「俺は怒ってないよ」といったのが僕なら、そのすぐ後に「不満を持ったまま黙ってたら相手には伝わらないよ?」と怒ったのも僕。

たまたま今困っている彼のことを助けたいというちょっと上からの目線も僕なら、DIYの知識についてはすっかり頼りきっていた下からの目線も僕。

そういえば彼はこうも言っていた。「言葉から愛を感じない」と。

彼はいつも愛に溢れている人だった。料理への愛。息子への愛。黒人音楽への愛。周囲の友達への愛。それはある時は極端なくらいに強くて深かったり、ある時はか細くて弱々しかったり。

それに対してぼくの愛は中途半端だったし、彼に対する怒りも中途半端だった。

すべては僕の八方美人な性格と、生来の人の気持ちに対するちょっとした鈍さのようなものが原因じゃないだろうか?、と後からじわじわと気づいた。

いまだに彼からは連絡は一切ない。

でも狭い町の中のことなのできっとそのうちどこかで出くわすだろう。その時にはまったく整理しきれていない僕が抱いたヒリヒリを直接そのままぶつけることになるだろう。

それが喧嘩というものになるのかは到底わからないけれど。