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ディープラーニング小史(その1)

はじめに

「人工知能(Artificial Intelligenc,以下AI)の歴史」とうことで年表のようなものにまとめられているものをよく見ます。ただ、正確を記すことはほとんど不可能ですし、おそらくあまり意味もないでしょう。なぜならAIに使われている技術(主に数学的な計算方法)は極めて古典的なものもあり、また関わっている人たちもおそらく膨大な人数に上るでしょう。今は「第三次人工知能ブーム」の最中とも言われていますが、もはやこれはブームと言うことすら憚れる状況で、AIの技術は確実に今後も我々の生活の中に定着していくことになると思われます。
ただ、いくら人工「知能」と言っても、人が作ったことに間違いはありません。私はその作った人に興味があります。
そこで、最近翻訳された「ジーニアス・メーカーズ」から、少しだけその世界をのぞいてみたいと思います。

とはいえ、やはりAIの現在地について確認してみましょう。日本はAIの発展への貢献がとても少ない(ないわけではない、後ほど紹介します)ためか、やや違和感のある歴史認識があるようです。

人工知能(AI)の歴史

これは最近出たある本の紹介にある文章です。

「2012年に一般画像分類コンテスト(ILSVRC)で衝撃的な性能を達成したAlexNetの登場以来、急速な進化を遂げているディープラーニング。現在の人工知能/AIの発展の中核を担っており、・・・」

この2012年の事は日本ではよく取り上げられており、あたかもここから第三次のAIブームがはじまったとされることが多いです。しかし、これ以前に音声認識においてディープラーニングが脅威的な予測精度を叩き出しているんです。ただその実力はWebの中で密かに発揮されており表には出ていないのです。ですので、いつもこれが(AIブームの)きっかけになったという言説にいつも私は違和感を持ってしまいます。総務省の平成28年(2016年)の資料にもこのようにあります。

総務省 総務省|平成28年版 情報通信白書|人工知能(AI)研究の歴史https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/html/nc142120.html

IBMのスーパーコンピューターであるディープブルーがチェスの王者カスパロフを破ったのは1997年でしたし、また、以下ではディープラーニングのブレイクスルーは2013年に画像認識と音声認識において起きた、とあります。
どこから第三次AIブームが始まったか?もう気にするのはやめましょう。

https://www.researchgate.net/figure/Development-history-of-artificial-intelligence-AI_fig8_323591839

さらに、この「ディープラーニング」という言葉、「ニューラルネットワーク」とどう違うのか?ちゃんと説明できているものは中々見つかりません。これは、「同じもの」でいいと思います。2012年に画像認識で最高のパフォーマンスを叩き出した「ディープラーニング」の「ゴッドファーザー(名付け親)」でありカナダのトロント大学のヒントン教授が、1980年代の第二次AIブーム以降、評判が地に落ちたニューラルネットワークの復権のために新たにディープラーニングと名付けたのです。もちろん第二次AIブームの時よりニューラルネットワークは「より深く」なり、さらに「畳み込み層」も加わり、より強力なものとはなりましたが、基本的なものは何も変わっていません。「誤差逆伝播」、「ドロップアウト」なんていう数学上のそしてアルゴリズム上の技術も以前から何も変わっていないのです。
両者の違いはこんな感じです。

News Feature: What are the limits of deep learning?
https://www.pnas.org/content/116/4/1074

チューリングテスト

機械(計算機)が知能を持っているかどうかを判断する「チューリングテスト」(1950年)、ここだけは押さえておいた方がいいかもしれません。
英国の数学者チューリングは、「試験官」となる人間が、相手が見えない状況で計算機と人間と対話を行い、計算機を人間と判断したら合格、つまり計算機は知能を持ったと判断してよい、という「チューリングテスト」を提唱しました。これに対する反論として、哲学者サールの唱えた「中国語の部屋」というのもありますが、ここでは触れません。
さて、人間と対話ができるAIとして2020年代の現代では、「自然言語処理」機能を持ったAIが候補として挙げられるでしょう。現代の自然言語処理はどこまできているのか?恐らく最先端はDeepMind社のGopherという言語モデルではないかと思われます。(Open AIのGPT-4も登場しました。)
Gopherは、「大規模マルチタスク言語モデル」(MMLU)というタスクで好成績を出しました。このタスクでは、自然科学や社会科学など57ジャンルの4択問題に回答するもので、普通の人間は正答率34.5%である一方、Gopherは60%の正答率でした。

ここまできてしまうと「チューリングテスト」がAIの判断基準としてまだ有効なのか?という疑問が出てきてしまいます。なぜなら、あまりに完璧な回答をする計算機は、逆にAIじゃね?と疑われてしまう可能性が出てきたのです。
チェス、囲碁、そして将棋という複雑で難解なボードゲームで人間を圧倒してきたAI。完璧な指し回しは、もはや自らをAIであると隠せないのは容易に想像できます。インターネット将棋では、いわゆる「ソフト指し」はすぐバレますよね?同じことが、他の分野でも起きる可能性が出てきたのです。

簡単な記事にするつもりでしたが、書き出したら止まらず、記事の目的の入り口にすら立っていません・・・
今日(2021年12月25日)はここまでで。
Happy Christmas!!!


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