ピアス

30歳を目前にして初めてピアスを開けた。
自分でピアッサーを使い盛大に失敗し、穴を塞いでから結局人に開けてもらった。

これといった理由は特にない。つけているイヤリングをすぐ失くすからとか、好きなモデルさんがつけているからとか、舐められない見た目にする手段だとか、小さな理由は多々あれど、それは10代の頃から思っていたことで、よし開けようと思った理由にはならない。

なんでだろうと考えた結果、歳を取るにつれて「味わったことのない感触」というものが少なくなってきたからではないかと思い至った。
とはいえ、耳に穴を開けられる感覚は別に珍しいものではなく、それはちょっと痛いなと思う程度の傷でしかなかった。

先日、夜寝ている間にピアスが外れていたことがあった。朝枕の下でピアスを発見し、再び装着を試みる。
しかし人間の回復力とは凄まじいもので、既に穴が塞がりかけていた。前から見れば穴らしきものがあるのだが、後ろの皮がすっかり繋がってしまっている。
仕方ないなと思い指でピアスを押し込むと、プチっとした感触ののちステンレスの棒の先が顔を出した。
ちょうど焦げ目がつくくらい焼いたウインナーにフォークを刺したときのような感触だった。

そのとき、私はこういう感想を得たいがためにピアスを開けたのだ、と漸く納得することができた。

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