はじめに

はじめに

私の好きな海外ドラマのセリフで
「We all have different rituals to exercise heartbreak.」
というのがある。

「私たちはみんなそれぞれの、心を癒す儀式を持ってる」という意味で、別れた彼女が忘れられないレズビアンの女性が、デートの相手からこう言われて諭されていた。

今よりもっと若い頃、20代前半は、その儀式がまだ見つかっていなくてずいぶん苦労した。
自分の儀式ではなく人の儀式を鵜呑みにしてしまい、やけ酒をしたりやけ食いをしたり、やたらと泣いたり、泣きながら自分で自分を殴るようなことを繰り返した。
そういうろくでもないフェーズを経て、ある時、失恋旅行で南の島に行って、私は自分の儀式を見つけた。

それは「行くあてのない旅」だった。
気がついてしまったし、それを創り上げていた。
小さな島のコテージで毎日泣き暮らしていた日々の、ほんの隙間、その儀式を見つけられたことだけがたった一つの希望の光だった。
何もする必要のない飛行機の時間、使い慣れない紙幣やコイン、いつもと違う言葉で頼むコーヒー、味が予測できない食事、何をするか決めていない明日。そういった事柄が傷つきボロボロになった私の心を優しく溶かして緩ませていく。
私はそれを知っている。そしてそれを知っていることは、私にとって何よりの幸福。
きっと、一生わからないままの人もいる。だから、よかった。
明日も屋根のあるところで眠れることに感謝して、この日々を生きていける。

誰のどんな言葉も、別れた相手からの連絡も、本当の意味では時を進めてくれなかった。
私が私の手でまたこの時を生きていこう、と思えたのは、飛行機を降りて聞いたことのない言語を耳にした瞬間からだった。
人はどこででも生きていける。
血反吐を吐くかもと思うくらい辛くても、苦しくても、明日なんてないと思っても、夜は明け朝が来る。
泣き腫らして眠れぬままビーチに向かい、朝日を見ながらまた泣いた日のことを私は忘れない。
南の島での時は矢のように過ぎ去り、思えば最初は憂鬱な気分だった島での生活も、晴れたりアイランドホッピングをしたり、猿や猫を見て、ロッククライミングをして…普通の観光、それからポールがあるお店を見つけたこと。
人の優しさや顔見知りの人が出来る事、お酒を飲んだこと、疲れすぎてマッサージをされながら眠ったこと、全部ひっくるめてパーフェクトだった。
浮き沈みの激しさは、人生そのものだと思う。
面白くない事も、辛いことも、楽しい事も、全部あった。

気づいたのは、自分の気持ちに嘘をつかないほうが楽に生きられるということ。
好きなもんは好きだし、かといってもう1回つき合いたいかというと微妙。
でも会いたいしまた話したい。
人の人生に永遠はなく、時間は限られている。
美しいものも汚いものも等しく喉を通り、血となり肉となる。
一生私を好きでいろ!なんて思わないけど、今この瞬間おまえだけだぜ!と言ってもらえればしあわせ。
それが好きということだ。感情の爆発。

泣いて笑って喚いて、五感を全開にして、どこへともなく飛行機へ乗ろう。
さすれば楽園までの道が開かれる、いや、楽園を切り開くための鍬が空から降ってくる。
私だけの、オリジナルな楽園を、今年もまた作り始めます。

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