棚ぼたもしくは引き寄せ

私は今住んでいる国で、その国の言葉を学んでいる最中である。

昨日、その言語の外国人のためのオフィシャルな試験があった。

コロナ禍で無ければ、私は半年ほど前にはとっくにその試験を受ける段取りになっていたはず。(もちろん、同時にコツコツと勉強を続ける必要はあるけれど)

語学コースのクラスメイト達もコロナで授業がストップする度に私もそして彼らの人生プランも一時的にストップし、授業が再開する度に、多少、顔ぶれも変わっていた。

試験会場に到着すると、小雪がぱらつく寒空の下、建物の外に30名程の人が集まっていた。時間になると建物の入り口で担当者が受験者を一人ずつ誘導し、設置された消毒液で手の消毒後受付をするよう促された。

その後、それぞれの教室に移動する。私は、4階まで階段を上って行った。教室の前では再度、滞在許可証をチェックをされ、携帯電話を機内モードに設定し預けた。

私の入った部屋には私を含め5名の受験者と2名の試験監督者がいた。数名の欠席者がいたらしい。試験監督者はヒアリング、筆記試験のサポートから、最後の口頭試験まで全て担当する。

私にとって口頭試験を1番の難関と考えていた。このヒアリングは別の受験者と2人1組で行う。ペアを組む相手が誰になるかはその時までわからないし、みな諸外国から来ている人である。同じ言語を学ぶ同士であるが大抵はその母国語のなまりが強く出る。私も日本語なまりが強いはず。なぜか不思議と日本人同士では通じるが、母国語が違う人には伝わらなかったりする。私は話すことが苦手な上に、ペアになる相手の言葉を理解できるかが大きなハードルであった。

さて筆記試験が終わり、同じ教室にいた5名のうち、最初の2名が口頭試験に行った。私を含め残された3人は、もしかしたら3人での口頭試験かも。などと言いながら、とにかく口頭試験の練習を3人でしていた。そして次に呼び出されたのは、私以外の2人だった。どうやら口頭試験の2人ペアの原則が崩されることはないようだ。当然だが。

最後の一人として残った私は、別の教室で受講している受験者とペアを組まされるのだろうか、そうすると、口頭試験の試験監督者も変更になるのかも。などと考えつつ、仕方ない。もうできる限りのことをやるだけだ。と腹を括ってその時を待っていた。

ついに私が呼び出され、筆記試験とは別の部屋に待機していたのは、試験監督者2名だけであった。受験者は私の他には誰もいない。

私は一人で口頭試験を受けると聞かされた。”会話”の試験は試験監督者と行う。この時点で私はかなりホッとし急に緊張がほぐれた。なぜなら、筆記試験の時からこの2人の試験監督者の話し方、雰囲気、所作など、とても親しみやすく好感を持っていたからだ。

例えば試験で組むペアの相手が話すのが上手だと、それだけで焦り、舞い上がってしまう。逆だとしても、会話をうまく噛み合わせ続ける力量は今の私には無い。ほんの数分の会話であっても、人間同士、相性のようなものはあると思うから、その場の相性が良いに越したことはない。一人で口頭試験を受けることができたのは、私にとってラッキーであったと思う。

こうして急遽、思いもよらず、この試験での一番の懸念事項がいとも簡単にクリアされたわけだ。

そして、試験とは言え試験監督者との”会話”は私にとって楽しいものであった。ただし、”会話”になっていると思っていたのは私だけで、試験の合否がどうなるかはわからない。