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新規事業企画の立て方(企画フロー編)

前回の記事では「既存事業を持つ会社は何を前提に新規事業企画を立てれば良いか?」についてまとめた。

第2回の今回は、新規事業立案のフローについてまとめてみたい。

全体フロー

起業も既存事業会社でも、事業を起こすフローは大差なく、基本的には以下のフローでまとめられる。

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フローの各項目について解説してみたい。

1. 自社の関与できる「社会問題、課題」を発見

まずは、解決を必要とする社会問題、その発生要因となる解決すべき課題を発見することから、事業企画はスタートする。

ベンチャー企業の場合は、創業者やそのチームが感じた社会に対する課題全般をターゲットにし、創業者の過去の経験(仕事や趣味、日常生活の中の不満など)をベースに解決すべき課題を発見していくことになる。

一方で既存事業を持つ企業の場合は、前回の記事の通り、会社の存在する意味(理念)を前提に、既存の事業や既存のお客様との関係、既存事業に隣接する周辺事業などから関与可能な社会問題を発見していくこととなる。

そのため、既存事業を持つ企業の新規事業はベンチャー企業のように「縛りがない」発想ができる場合に比べ、どうしても制約が大きくなることが多いだろう。

2. 問題、課題に対する自他の強み、弱み、資源を整理

自社が関与可能な課題を見つけ、次に行うのは「自社の能力の棚卸し」となる。つまり、発見した問題、課題に対し、「自社で解決が可能であるか」を把握していく必要がある。

当然だが自社で課題を発見しても、解決のための能力(強み、投資可能な資源)がなければ解決に取り組むこができないか、もしくは解決に非常に時間がかかることとなり、事業化(=課題解決とそれに対する経済対価の獲得)ができない(もしくは困難である)ということになる。

だからこそ、「課題発見」と「解決できる算段づけ」はセットで考える必要がある。

また、現代においては「これは誰も見つけていない課題だ!」と思っても、大体の場合においては近傍領域で類似のサービス提供者が存在する、またはなんらかの理由によりサービス提供参入に至っていない場合がほとんどである。

そのため、自社の強みや資源を把握すると同時に、将来的に競合となり得る類似事業提供者などの強みや資源を把握し、それを起点に自社の弱みを把握しておくことも、厳しい事業競争の中で事業を立ち上げ、生き残っていくためには非常に重要なポイントである。

3. 問題、課題に対する解決方法を発明または発見

「問題、課題の発見」と「それに対する強みや資源(アセット)の存在」が確認できたら、いよいよアセットを生かした「解決方法」を考えることになる。

例えば、先日挙げたトヨタ自動車の金融事業の事例であれば、課題は「自動車ユーザーの自動車やその周辺サービスを購入するにあたっての資金獲得」、それに対するトヨタ自動車のアセットは「トヨタグループの信頼性を前提とした金融市場からの資金調達力」があり、トヨタグループが市場から社債等で低利率での資金調達を実施、その資金を自動車ユーザーに貸し付けることで自動車やその周辺サービスを購入いただき、自動車販売につなげる。それと同時に、貸し付け利率と調達金利の差額にて収益を得る、というモデルを構築している。

実現したい理念:可動性(モビリティ)を社会の可能性に変える。
課題:自動車やその周辺サービスを購入するにあたっての資金獲得
課題解決方法:資金の貸し付け
課題解決手段:トヨタグループの信頼による低利率且つ安定的な資金調達

このように、自社の理念実現に向けて考えられる課題に対し、自社の強みやアセットを生かすことで解決に向けた活動を考えるのが、「解決方法の発明・発見」になる。

一方、上記のような問題に対する解決手段の提供を考えるパターンとは別に、そもそもの問題が発生する原因やプロセスを発見し、そのプロセスを変えてしまうということも新規事業のあり方の一つである。

これが世に言う「イノベーション」であり、例えばGoogleに代表される「インターネットサイトの検索エンジン」はまさに「目的の情報が得られるインターネットサイトの発見プロセスを変えた」事例と言える。

インターネットサイトの検索エンジン誕生以前のインターネットは、例えばWebページ公開者がYahoo!のようなポータルサイトに対し、ジャンルごとにホームページ情報を登録し、利用者はそのポータルサイトのジャンルから目的のページを探し、情報を得るのが一般的であった。

それに対しインターネットサイトの検索エンジンは、各ホームページが持つその他サイトへのリンク情報を自動的に収集、キーワード分類を行いうことで、目的の情報に関連するキーワード検索により直接目的のWebページを発見、情報獲得をすることを可能とした。

課題:目的の情報への到達容易性の獲得
解決方法:キーワード検索での関連Webページの発見
解決手段:Webページ間のリンク及びキーワードの自動収集とDB化

このように、目的実現に向けた課題が生じるプロセスを課題解消可能なプロセスの発明により抜本的に変え、課題を解消することも事業創出の方法である。

4. 解決方法実現に向けた手段、ツール、システムを発明・発見

ここまで、「問題、課題の発見」、「自社の強み、弱み、資源分析」「課題解決の方法や課題解消プロセスの発見」を進めてきた。次に行うべきは、この課題解決方法や課題解消プロセスを提供するための手段の発明、発見である。

例えば先のトヨタファイナンスの事例で考えれば、トヨタグループの信用で資金調達は可能であるとはいえ、必要になるたびに資金調達をしていたのでは金融市場での信用を既存することとなるため、資金調達のタイミングや資金管理の方法などを仕組み化することが必要となる。

また、貸し付ける方法についても、金融機関のように窓口での申し込みで貸し付ける方法もあれば、カードローンのように電話申し込みやインターネット申し込みで融資する方法、ディーラーでの車両購入時に申し込み、車両購入者を経ずに直接ディーラーへ融資資金を支払う方法も考えられるため、利用者の利便性を考え、最適な貸し付け方法を考えなければならない。

こうした、課題解決に対し最適な提供手段を発明、発見するのがこのパートとなる。

5. 提供に最適な販売ルート、収益方法の発明

先程のパートまでで、発見した課題に対し、解決する方法を発明し、さらにそれを実現する手段まで考えた。最後に考えないといけないことは事業の肝である「経済合理性」、つまりは「収益化の方法」である。

ここまで課題の解決方法、その手段を考えてきたが、それを実現することにより「利益」を得られなければその事業は継続性を失い、まさに「絵に描いた餅」となってしまう。

利益とは以下の計算式で説明ができる。

利益 = 売り上げ - 必要費用
売り上げ= お客様数 × 顧客単価

つまりは「売り上げ」に対し「サービス提供にかかる必要費用」が下回る必要があり、売り上げ規模に対し費用が上回っていれば、その事業は「失敗」または「慈善事業」になってしまう。

そのため、事業企画においては、市場規模(=課題解決を求めるお客様数)を前提に、黒字化(売り上げ>必要費用)が可能な売り上げ見込みの算定、そのための売価設定などが必要となる。

当然事業には競合他社が存在するため、それらも睨んで値決めをし、利益を得られるモデルを構築しなければならない。

また、上記売り上げについては単純にサービスを売って得られる収益だけをターゲットにする必要もない。例えば、電気自動車製造大手のTeslaは電気自動車製造販売による収益は2020年度4~6月期で4.28億ドルの利益をCO2排出権売却により獲得している。つまり、事業全体で収益化できるモノ・コトを総動員し、黒字を達成し続けられる収益モデル設計も非常に重要である。

6. 提供先を制限しながらサービス提供、課題・リスクを収集

さて、ここまででようやく事業モデルが生み出せた。とはいえここまで考えてきた事業モデルはあくまで「机上の空論」でしかない。それに利用価値があるかを決めるのはあくまで「実際のお客様」である。

そのため、これまで考えてきた事業モデルをPMF(Product Market Fit)していくこと、つまり、提供する事業モデル、サービスに対するお客様の声を集め、お客様の声を受けて事業モデルやサービスを改修、レベルアップし、実際にお客様に使っていただける、満足いただけるサービスにしていくことが必要となる。

お客様に利用価値を認めていただけなければ、これまで考えて気が事業モデルは「ただの自己満足」でしかない。PMFをきっちり行い、事業モデルを事業にしていくことが最後にして最大のタスクとなる。

事業とは「企業の理念(ビジョン)実現のための手段」

上記の通り、事業企画の一連のフローは「当たり前のフロー」でしかない。そして、えてして事業モデルの設計とは「利益獲得モデル」の設計の色が強いように見える。

しかしながら、事業とは「企業の理念実現のための手段」であり、資金獲得もあくまで「企業が考える理想の社会づくり」を永続的に持続するための手段である。だからこそ、事業作りは小手先のビジネスモデル以上に「なんのための新規事業なのか?」を考えて行う必要があると筆者は考える。

ぜひ「なぜ自社は新規事業を創発しなければならないのか?」「自社はなんのために存在し、どんな社会を生み出すことが自社の役割なのか」を考えた上で事業企画に挑んでいただきたいし、本記事がその一助となれば幸いである。

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