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カジノの最高なトコ(ep3.バカラ)

それは、夢。人が想像の上を行くためには壊れなければならない。緩んで外れかけているネジを締め直すことは天国と地獄のT字路を引き返すことに他ならない。地獄にも落ちないが天国に行くこともできない。
これはギャンブル中毒が圧倒的な運で一瞬だけ天国を見た話。

↓いつかみんなで打ちたいバカラのルールに関してはこちら

https://note.mu/dokatamori/n/ne337cfb70664

それは2019年。今年の3月のことだった。僕の周りにはポーカーを嗜む人が多い。海外のカジノでは頻繁にポーカーの大会が行われ、その日程に合わせてみんなが同じカジノに行くので軽いお祭りみたいになる。僕も参加した。
ポーカーよりバカラが好きな僕はひたすらバカラを打った。
軍資金は90万円。冬にポーカーで買ったお金をそのまま持ってきた。

↓ポーカーで勝った話

この遠征が僕のギャンブル依存症に拍車をかけ、退職と破滅のきっかけを作ることとなる。

バカラ台はカジノの中でも最も台数が多いゲームだ。大きなカジノの場合、画像のように大量のバカラ台が群生している。きっとバカラ台は無性生殖生物なのだろう。この画像は僕が一番よく行く「オカダマニラ」というカジノだ。

画像1

カジノに浮かれた僕は初日と二日目でいきなり50万近く負けることになる。この時一回の賭け金は一回1万円から5万円。3分もかからずにゲームが終わるバカラはこの金額で賭けても運が悪ければあっという間に10万円くらい負けてしまうので気をつけなければならないが、勝てると信じている時はリスクヘッジなんて考えないので止まらなかった。神は人間にドラマを与えると信じていたので最後の数万円がきっと大金に化けるだろうと信じていた。

ポーカーの大会がひと段落した段階でポーカー仲間と合流してバカラを打つことになるのだが、これは非常に危ない。僕はエンターテイナーになりたかった。ピエロの自覚はないのだが、知り合いの前では努めて大金を賭け、「やるな〜」と声をかけられる度に嬉しくなってしまう。この快感は負けた時の反省や後悔を忘れさせる。ギャンブル中毒とは負ける瞬間にも脳汁が出る神様の失敗作で、成功体験でも失敗体験でも気持ちよくなってしまう。通常の人は成功体験に対して失敗の後悔によるネガティブイメージで折り合いをつけていくが、ギャンブルをやるだけで人の2倍気持ちよくなれてしまう僕は歯止めが効かなくなっていた。

「ちょっと軍資金の2/3くらい負けてるんで次全部賭けてチャラまで戻しますわ!」

この台詞を言っている友人がいたら迷わず止めてあげてほしい。死亡フラグだ。僕は一撃でバカラ台の前に倒れることとなる。

「ご破算!お疲れ様でした!笑」
敗者は去る。これが賭場でのルール。
「え!まだ始まったばかりじゃん!10万貸そうか?」
悪魔のささやきがそこにあった。10万円、まだ戦える金額だ。日本に帰ったら給料から返せるしいいかな・・・

おおギャンブラーよ、借りた金で打ってしまうとは情けない・・・
神の言葉を無視して打ち続けるが、結果は振るわず。なくならないように1万円ずつチビチビ賭けるも、あっという間に8万円なくなってしまう。
僕はギャンブルの神に見放されてしまった。人から借りた金なんかで戦おうとするからこうなるのだ。大人しく日本に帰ってまたコツコツ頑張ろう。そう気持ちの整理をつけていた。

すると、

「ビビって打つからそうなるんだ、ブレーキを壊さないと勝てないぞ」

共に座っていたポーカー仲間の助言があった。ぐうの音も出なかった。だがこれは借りた金。その言葉は重かったが、ここで打ち始めるのも違うと思い、一度別れて飯を食うことにした。

これはいい教訓になった。僕はブレーキとアクセルを踏むタイミングを間違えていたのかもしれない。一人になると負けた記憶が蘇り、この3日間をやり直したくてどうしようもなくなってくる。90万。借りて合計100万。悔しい・・・熱くなって見栄を張って、最後は30万を一瞬で溶かした。ギャンブルはもう卒業しよう。

「・・・壊さないと・・・」

僕はどうかしている。普通に働いて普通にお金を稼いで、余ったお金でギャンブルをするべきだった。

「ブレーキを壊さないと・・・」

帰ったら休みの日にはバイトを入れよう。次のカジノ遠征ではもっと計画的にお金を使おう。1日10万円ずつって決めて、残りのお金は金庫に入れておきたいな。そうすれば・・・

「ブレーキを壊さないと、勝てないぞ。」

頭の中に反響し続ける言葉は、ついに僕のブレーキを壊した。深夜2時。知り合いはほとんどポーカーの大会のために部屋に戻っていた。持ってる残りの2万円をどう使おうと、誰も責めない。鼻息が荒くなる。無根拠な自信が血管を巡る。体は熱くはない。頭はひどく冷静な気がした。前を向くと景色が広角に広がっている。なんだ、バカラ台ってこんなにたくさんあったんだ。
当たり前のことを再認識しながら、2万円分のチップを握り締め、バカラ台を吟味し始める。バンカーとプレイヤーが交互に勝ったり、バンカーが4連続続いていたり、様々なバカラ台を見た。僕が選んだのは、バンカーが3連勝した後に必ずプレイヤーが勝っていた台だった。

バカラ罫線(大路)

このように、バカラ台ではどちらが勝ったかの履歴を写している。これを罫線と言い、左上から書き始め、連勝が止まったら次の列に丸がつく。
僕は赤いマークが4つ以上並ばない台を選んだというわけだ。これを「バンカー3目切れの台を狙う」という。結論から言うと単純に勝率は1/2だが、赤い丸が3個以上並ぶ未来は見えなかった。

ブレーキを壊し、2万円を賭ける。勝ち。

4万円なんかでは満足できず、台を離れて他の3目切れを探し、4万円を賭ける。また勝ち。所持金は8万円になった。もう勝てる気しかしない。こんなの伝説の序章にすぎない。止まるわけにはいかないだろう。

8万円を賭ける。勝ち。16万円を賭ける。勝ち。

5連勝した。毎回所持金を全額賭け、32万を手にした。ここで集中の糸が切れ、自分の猪突猛進さに冷や汗をかく。ありがとう。ブレーキを壊したおかげで立ち直るきっかけになった。名台詞にもほどがあるだろう。人の言葉に救われたと思った瞬間、どんな場面だろうと込み上げてくるものがある。
今日だ、今日勝たねばならない。
冷静さを取り戻し、一回1万円に賭け金を戻して打ち続けた。時に3万、時に5万。勝ったり負けたりを繰り返したが、大きく賭けたタイミングでは必ず勝ち、70万円まで増えた。神はいた。欲望渦巻くこのカジノの中に。
2万円からここまでで2時間。集中力も途切れる頃合いだった。

「お〜犬ちゃんじゃん、こんな時間まで打ってるの?」

他のポーカー仲間と会う。手元には70万円。20万円くらいはこの人と一緒に回ろう。もう人と話さずに打っていたので口の中もペタペタに乾いていた。
あまりバカラを打ち慣れていなかったこの人にバカラの楽しさを伝えながらバカラ台を回った。もちろんエンターテイナー性を発動した僕はここから大きく張る時に5万円や10万円を賭けた。ブレーキはガラスの靴と共に消えた。もう止まれない。

二人で打つバカラはあまりにも好調だった。そこから2時間近く打ち続けたが、大きく連敗することもなかった。所持金は140万まで増えた。

「今から全額賭けます。」

ブレーキのない口からスルッと口上が出てきた。どうせ2万円で始めたんだ、ここで負けても元に戻るだけ。
140万円。年収の半分近くの金額を賭けることになる。人生でこんな大金を一度に賭けるのは生まれて初めてだった。もう止められない。僕はここで本気で天国を見たい。
二人とも手汗でビシャビシャだった。僕がうだつの上がらないサラリーマンであることを、彼も知っている。140万円の価値、その重さ。二人とも同じ熱量だった。

ここまでずっと3目切れを狙って勝ってきた。ここもやはり3目切れを狙いたい。
バカラ台が群生するゾーンの端にその台はあった。バンカーが3連勝。僕はここに人生を賭けたい。本気でそう思った。

席に座り、140万円を賭ける。フィリピンのカジノでも大きな金額だったため、周りにはギャラリーができていたが、全く気がつかなかった。視界が狭まり、音が聞こえなくなる。裏返しにされたカードがスローモーションで手元に吸い込まれる。

1枚目、2枚目。最初の2枚をゆっくりとめくる。

海外のカジノではバカラのカードを楽しむために裏返しで配られ、自分でめくることを「絞る」という。

画像3

カードはこのように綺麗にマークがついているため、数字が書いてあるところを隠しながらマークの数を数えていく。

1枚目は絵柄だった。絵柄はゆっくりとめくると枠線が最初に目に入る。0だ。
2枚目は横からゆっくりとめくった。マークが2つあった。横にマークがあるのは4か5。あまりいいとは言えないカードだった。結局真ん中にもマークがあり、カードの数字は5だった。

「open」

ディーラーにバンカーのカードをめくらせた。

6。バンカーは合計で6。現状で負けている。かなり不利だった。次に僕は1〜4の数字を引かなければならない。その確率はざっくりと30%だった。4時間賭けて増やした140万円は手元からどんどん離れていく。泣きたかった。全額賭けて当たるなんて虫のいい話がどこにあったんだろう。勝負を賭けた僕は全く正当化なんてされない。ただの狂った依存症だったんだ。
せっかくの機会を。
やり直せるチャンスを、自ら棒に振ってしまった。

ほとんど諦めてしまっていたが、ディーラーからは無慈悲にもカードが配られる。上からめくると真ん中にマークがあった。4を引かなければ最強の9にはならない。縦真ん中にマークがあるのは2か3しかない。
終わった。夢が冷めるのはあっけなく、世界が回転する。
これでは僕の数字は5から・・・

「7か、8・・・?」

気づいてしまった。縦のマークがある時点で7か8。それにバンカーは6条件なので引き直しもない。バンカーのカードは6。勝利が確定した。気が遠くなった。有り得ない金額の勝利もまた空間を歪ませる。
さっきまで一人でカードを見ていたはずなのに、隣に人がいる。ギャラリーも沸いている。カードから目を離した瞬間に音が、声が、時間にして3分間の間に聞こえてこなかったものが一斉に耳になだれ込んできた。

おしっこを漏らした。

椅子を湿らせる程度のおしっこを漏らした僕は、運命に勝利した喜びのあまり腰を抜かしていた。ポーカー仲間に肩を貸してもらう。
帰りしな、ディーラーにチップを10万円渡した。この子と結婚したい。

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このチップは1枚あたり約22万円なので、手元には220万あった。運命に勝ったのだ。人生で200万以上を自分の金として持つことなんて無かった。奇抜なビジネスをしたこともない。嬉ションは気にならなかった。今は自分のオシッコでさえ愛おしい。
部屋に戻って200万円をしばらく眺めていた。後にも先にも一番の大勝負はこの瞬間だった。この時すでに陽は昇り、時間は午前7時を回っていた。
人生に、勝った・・・

翌日。完全に調子に乗った僕は昼過ぎからバカラへと向かう。熱さは喉元をすぎ、ブレーキも搭載していなかった。100万円を超える金額の勝負に勝った僕には10万20万なんてカスだった。一瞬で増やせる。そして一瞬で増えた。

ポーカーの大会が開催される傍、完全に調子に乗った僕は上のチップを1枚ずつ賭けた。一回20万円だ。感覚は麻痺していた。

10回勝ち越してさらに220万円増えた。ギャンブルのあるあるだが、一度大勝負を体験するとそれより小さい金額にプレッシャーは感じなかった。僕は神。神は僕。
現地のギャラリーにチップを配りながらカジノを練り歩き、毎回22万円ずつ賭けていった。寄ってくる女性には勝つたびに毎回2万円ずつ配った。絵に描いたような杜子春がここに誕生する。

ポーカー大会の会場に遊びに行き、チップを見せびらかす。この時優勝賞金は500万円だった。

「いや〜、お先に優勝しちゃいましたw」

「お疲れっすー!まだポーカーなんかやってるんですか?僕はバカラで優勝しちゃいましたw」

さぞウザかったことだろう。仮初めの神はポーカープレイヤーに声をかけては400万を見せびらかしまくった。

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猛進は止まらなかった。この日は500万円まで増やすことになる。
2日前、借りた2万円を握り締めて絶望し、反省と後悔に滲んだ顔を思い出せなくなっていた。
400万もあれば1回20万円の勝負なんて怖くなかったし、バカみたいに賭けまくった。VIPにランクアップし、カジノの中にあるホテルの部屋を無料でもらった。

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合計で2000万以上賭けていたので、カジノ側のサービスは手厚かった。担当のスタッフに無料でレストランに連れていってもらった。

フィリピンに住もう。本気でそう思った。

この日から僕は完全に大富豪のような遊び方をした。大金を賭けているとよく中国人の女の子が寄ってきては「幸運を分ける」とかなんとか言ってくる。勝つたびに2万円ずつあげた。一回で20万勝つのでディーラーにも毎回2万ずつあげた。飯も奢った。

派手な掛け方をするとめちゃくちゃモテる。

フィリピンに住もう。本気でそう思った。

最終日、僕は700万円持っていた。2万円が、丁半博打だけで700万まで増えたのだ。賭け方は一貫して最低20万円。お気に入りの3目切れの台ばかり狙い、しかもかなり調子が良く、1日5回ずつくらい勝ち越した。それだけで100万円増える。バカラ最高。
無敵の人だった。

700万円持っていたら次に欲しいのは当然1,000万だった。最終日、めちゃくちゃ派手に花火をあげてやりたい。そして1,000万手に入れたら、

フィリピンに住もう。本気でそう思った。

僕が遊んでいたエリアではMAX220万円まで賭ける事が出来たので、220万賭けた。もし負けても500万残るので十分だ。

もはや見るまでもない。だって僕は選ばれし無敵の人なのだから。
ディーラーにカードをめくらせた。椅子には座らず、ほくそ笑みながら220万の行方を腕組みして見ていた。

僕が神だったらムカつきすぎて絶対負けて欲しいし、実際負けた。手元には500万残った。
220万は日本に帰ったら1年以上節約して作れるかどうかの大金だった。

「は?」

220万は2分とかからずに消えた。流石にバカラへの敬意が足りなかったかな。腕組みして見ているなんて失礼にも程が有るぜ。次はちゃんと椅子に座って絞ってやろう、な?

3目切れの台を探す。飛行機の時間が近づいている。勝っても負けても次が最後の勝負だ。これで勝っても700万に戻るし、負けても250万は残る。勝つべくして勝つ試合だった。最高の3目切れが2度負けることはきっと無い。

「banker natural eight」

バンカー、めちゃくちゃ強かった。
20分足らずで440万円負けたのだ。尋常ではない。ジワリと汗がシャツを濡らしていた。

ギャンブルの神は僕たちを常に見ている。調子に乗りすぎると無慈悲な結果を見せつけてくる。今回僕は調子に乗らなければ400万円くらいで終われたかもしれない。だが700万円の夢を見ることも叶わなかっただろう。ブレーキを壊したおかげで僕は覇道を見る事が出来たのだ。

260万。上出来だ。後悔は無かった。

フィリピンに住もう。本気でそう思った。



追記
そしてその4ヶ月後。日本で散財を尽くし、それでもなお金が余っていた僕は単身フィリピンに住み始め、破滅の道を歩む。そして失意の中に作ったのがこのブログだ。無料記事も多いので最初の方の記事を読んで顛末を確認して欲しい。

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集まったお金は全額僕の生活のために使います。たくさん集まったらカジノで一勝負しに行くのでよろしくお願いします。