ペラペラ(2013/11/30)
底辺になった。
元より向上心、負けん気など精神的スキルにおいて他人に勝ったことのないこの身。
ここまで落ちに落ちるのにそう時間はかからなかった。
そういうわけでDOKATAで稼いだ25万を全てギャンブルで融かしてしまった俺は、ギャンブルをする元金を作るために新たなバイトを求めて電子の海をさまよっていた。
そして見つけたのが「ベルトコンベアに様々な段ボールを流す」バイトだ。
当日。
都内某所で俺はベルトコンベア隊の隊長とコンタクトを取る。
隊長は言う。
「君、ベルコンは初めてっしょ?笑 まー見て学べ!俺から言えるのはそんだけ!笑」
なるほど、ベルコンと言うのか。
俺は素直に感心してしまった。これがプロの世界。ベルコンに魅せられた男たち…。
そして早速ベルコンに様々な段ボールを運ぶ仕事が始まった。
俺はベルコンの繋ぎ目で止まった段ボールを右から左に受け流す役を任された。
序盤は普通の段ボールを流すだけだった。
ここまではDOKATA経験のある俺にもできる。
俺はDOKATAを通して重い物を持ち運ぶ力をつけていたからだ。
だがここは俺の知ってる世界ではない。
これまでやってきたDOKATAは、いつどんな形で物を運んで良かった言わば「フリースタイル」なのに対し、今回は目の前にベルコンがある。
ベルコンのプロたちがありとあらゆる技術を使って涼しい顔で段ボールをベルコンに流していく。
俺は中腰だった。
中腰で段ボールを右から左へ3時間ほど流し続けた…物を持つ度に過去にヘルニアになった腰が悲鳴をあげる。
「このままでは(椎間板が)みんな死んじゃうわ…!」
まあDOKATAの俺はその危機を耐え抜いたんだが、試練はこれだけでは終わらない。
次に流れてきたのは大量の封筒や小包だった。
そして俺に下された指令はこうだ。
「ペラペラな物とペラペラじゃない物を分けてくれ」
小さく頷いて早速作業に取り掛かる、が…
「ペ、ペラペラの度合いにも様々あるからペラペラな物とペラペラじゃない物の区別ができない…!」
そう、流されてきた小包や封筒の厚みには種類があり、ベルコン素人の俺は全く判別がつかなかったのだ。これでは業務に支障が出てしまう。
せっかくみんなで作り上げたベルコンを俺のミスで台無しにしてしまう…
時間は俺を待ってはくれない。
それはベルコンも同じだった。
俺の目の前には大量のペラペラな物とペラペラじゃない物の山が出来上がっていく。
失意の中、視線が泳ぎ、アワアワと声が出た。
そんな時だった。
突如伸びた手が俺の肩をポン、と叩いた。
「最初はそうだよな。俺も最初はペラペラな物とペラペラじゃない物の区別はできなかったさ。俺は石崎。ここはよーく俺を見て"学んで"くれ。」
ー周囲がザワつくー。
「石崎さんだ…」「石崎さんがペラペラな物とペラペラじゃない物を仕分けるぞ…」
俺は石崎さんを「ペラペラの石崎」と名付けた。
ペラペラの石崎は目にも止まらぬ速さでペラペラな物とペラペラじゃない物を仕分けていく。
「これはペラペラ!これもペラペラ!これはペラペラじゃない!」
…圧巻だった。
あんなに曖昧に見えた小包や封筒の山がペラペラの石崎によって次々と仕分けられていく。
俺も手伝おうと思って小包を手にした。
「これはペラペラ…」
「じゃない!ペラペラじゃない!」
ペラペラの石崎は俺が手にしたペラペラじゃない物をベルコンに流す。
この人は本物だ…!
この現場でついていく人が決まった瞬間だった。
ペラペラの石崎は俺にもわかるように一々「これはペラペラじゃない!これはペラペラ!」と言いながら仕分けてくれた。
なるほどこれはわかりやすい。
そして俺は意を決して微妙な厚みの封筒を手にした。
「これは…」
「「ペラペラ!!」」
石崎さんと声が重なった。
刹那、周囲から歓声が上がった。
こうして俺は1万4千円とかけがえのない仲間たち、それと「ペラペラな物とペラペラじゃない物を仕分ける能力」を手に入れたのである。
寒空の下、心温まる物語。
P.S.
休憩中、休憩室で知らない人と喋ってて、なんか話が通じてるのかと思いきや相手が「アミーゴ!」と叫び、実は言語も違ってて全く話が通じてなかった、ということがあった。
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